「農民」記事データベース20001127-472-01

今年1年で12億個も日本人の胃袋に…

ハンバーガーは輸入食材の塊だった

マクドナルド社の販売戦略のウラをみると?!

 今年、みなさんはハンバーガーを何個食べましたか? 日本マクドナルド社の二〇〇〇年の販売総数(見込み)は十二億個。赤ちゃんから老人まで一人十個食べた計算です。いまやマクドナルドはハンバーガー業界でも八〇%のシェアを占め、まさに一人勝ち状態。その強さの原動力は「低価格戦略」と「多店舗展開」です。「ウィークデースマイル」と称して平日はハンバーガーを六十五円で売る安売り戦略は、ファーストフード業界のみならず外食・中食業界全体を「安売り競争」に巻き込んでいます「限界をこえた安さ」の裏側を追いました。


自給率なんと0%

 パティ(ハンバーグ)の牛肉はオーストラリア産、バンズ(パン)の小麦はカナダ産、乾燥オニオン(水でもどして使う)はアメリカ産…。マクドナルド本社を訪ねて原産地を聞いてみると、ハンバーガーはみごとなほどに“輸入食材の塊”です。

 国産は、ほんのちょっぴりはさんでいるレタスぐらい。それも六十五円のハンバーガーにははさんでない…。六十五円バーガーの自給率はゼロ。レタスをはさんでいるビッグマックでも一%に達しません。これほど「自給」と無縁な食べ物もないでしょう。

 創業者である藤田田(でん)社長は「安くてよければ、世界のどこからでも買う」「どんな商売でも安く買って高く売ればいい」と公言してはばかりません。

 その“精神”が発揮されているのが「グローバルパーチェシング」という世界調達システムです。これは百十九カ国(二万七千五百店)にまたがるマクドナルドが、世界中の産地の情報を持ち寄って、食材を共同で仕入れるというもの。

 本社広報部の蟹谷賢次マネージャーによると「たとえばパンについているゴマは、全世界のマクドナルドがグァテマラから調達しているんですが、各国バラバラに仕入れるよりもずっと効果的です。他の物もすベてそうですが、産地も我々もお互いの利益を確保しながら、少しでも物を安くしていこうと交渉しているわけです」。言い換えれば、買い手がまとまって大きくなれば、自分たちの要求に合う農産物を作らせることもできるし、買いたたきやすくもなる、ということではないでしょうか。

 マクドナルド自身は加工工場は一切持たず、輸入された食材は、牛肉は伊藤ハムやスターゼン(旧ゼンチク)で、パンはフジパンでマクドナルドのスペック(仕様)に合わせて加工され、納入されます。

 こういう多国籍企業ならではの効率主義・利潤第一主義こそ、マクドナルドが強い理由なのです。

牛肉自由化で大もうけ

 もっぱら輸入食材を使うマクドナルドは、牛肉の輸入自由化の恩恵も大きく受けています(グラフ[グラフはありません])。マクドナルドが大躍進する九五年と、自由化された九一年との間に差があるように見えますが、それは自由化後も最初は高関税だったため。関税率が下がるにつれて売り上げが急上昇。自由化の利益をほしいままにしているかに見えますが「まだ自由化は完全ではありません。関税が四〇%ですし、今後下がればさらに(ハンバーガーの)価格を安くできます」(蟹谷氏)。

 円高のメリットも見逃せません。貿易会社さながらに「為替相場の情報は秒単位で入ってきますので、海外調達の連携もスピードが重要です」と言います。

「12歳の味覚」をねらう

 「お客のニーズに応えることが成長してきた理由」というマクドナルド。創業以来のモットーは「新しい食文化の創造と拡大」です。

 藤田社長は「人間は十二歳まで食べていたものを一生食べていく」という「十二歳味覚説」が持論。また「私は日本人に肉とパンでできたハンバーガーを食べさせ、日本人を金髪に改造するのだ」とも言い、そのために「子どもにターゲットをしぼっていく」と明言。

 そのとおり、景品のオモチャをつけ、店舗には遊び場や子ども向けのパーティーコーナーを作るなど、やり方は徹底しています。そして創業三十年たった今、かつてハンバーガーを食べて育った世代が今度は自分の子どもを連れてマクドナルドを食べているのです。

 蟹谷氏からは「お客さまのニーズに奉仕する」という言葉を耳にタコができるほど聞かされました。日本人を肉食民族にする、十二歳までにマクドナルドの味をすりこむという“哲学”で「ニーズ」を作り出し、その「ニーズ」を逆手にとって「儲かるところにお客を連れてくる」(藤田社長)。――「奉仕」させられているのは「客」の方です。

“食文化とは無縁だ”

 食料経済学を研究する深谷志成先生はハンバーガーについてこう指摘します。「企業にとっては経済効率しか重要でなく、産地がつぶれても、日本に農業がなくなってもおかまいなし。“文化”(カルチャー)はもともと農業に由来しますが、これは“食文明”ではあっても“食文化”ではありえません」。

 「マクドナルドはキッチンというより工場。部品を決まった方法で組み立てるだけで、たまたま製品がハンバーガーだっただけ。裏側をよく知っているアルバイトは皆食べたがらない」(都内のマクドナルドでアルバイトしているKさん)。コンビニ弁当に続いて、ハンバーガーも当事者が食べる気がしないシロモノのようです。


マクドナルド社のハンバーガー戦略

半額(65円)でも儲かる

店舗数・売上げ3倍化ねらう

 向かうところ敵なしのマクドナルドの六十五円バーガー。同社のパンを作っているフジパン製のメロンパンでも一個百二十円している昨今、「牛肉」をはさんであるのにあまりに安い。

 一般に飲食業は飲み物で利益を上げるといわれ、この六十五円バーガーも利益を度外視しているのかと本社で質問してみました。するとビックリ。「いえ利益はちゃんとあります。なければできません」との答。

牛をまるごと骨髄まで搾る
 では原価はいくらなのでしょう。小売価格は原価の三倍というのが常識のなかで、社長の藤田田氏は「デフレ経済の今、原価の二倍で売る時代が来た」(『藤田田語録』)と公言しています。また「ハンバーガーは四十五円でも採算がとれる」と、あちこちで発言しているといいます。

 ハンバーガーのパティ(肉)の原価は十七円五十銭前後といいます(『週間ダイヤモンド』11月18日号)。

 広報部の蟹谷氏によると輸入「牛肉」はすべて「カウ・ミート」。これは、通常食べる「テーブル・ミート」から排除された格付外品(農畜産業振興事業団)。

 食肉加工業界には「骨と骨髄を粉砕して“肉”を作る技術もある」といいます。「牛一〇〇%」には間違いないでしょうが…。

 日本マクドナルド社の目標は、二〇一〇年に店舗数一万店(現在で約三四〇〇店)、売上高一兆円(九九年は三九四四億円)。現在の約三倍です。

“次なる敵はコンビニ弁当”
 不況の風が吹き荒れるなか、いま外食産業全体が伸び悩んでいます。小さな飲食店が競争に破れ、チェーン店がさらに巨大化する「胃袋大戦国時代」を迎えようとしています。そのなかで「四十五円バーガー」をも視野に入れたマクドナルドの次なる「敵」は、コンビニ弁当だと言います。「犬も歩けば棒に当たる」もとい、マクドナルドに当たる…いや、“マクドナルドしか無い”日も遠くないかもしれません。

(新聞「農民」2000.11.27付)
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2000年11月

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