「農民」記事データベース20010813-505-03

わたしの子供はどうなる「教育改悪三法」とは

全日本教職員組合副委員長

長谷川 英俊さん

 「子どもがすこやかに成長してほしい」――誰もが願っていることです。ところが、小泉内閣は教育基本法の改悪をたくらみ、その前段として先の国会で三つの法律を改悪しました。

 その問題点について、全日本教職員組合の長谷川英俊副委員長に寄稿してもらいました。


 先の国会で自民党などは教育の柱をなす三つの法律を改悪しました。「学校教育法」「社会教育法」「地方教育行政の組織と運営に関する法律」の教育三法です。小泉内閣が進める「教育改革」は危機をさらに深め、教育現場に混乱をもたらそうとしています。

なぜいま教育三法か

 森前首相がつくった教育改革国民会議は「十八歳の国民に一年間の奉仕活動を義務づけよ」などと中間報告したあと、昨年十二月に最終報告を出しました。

 これを受けて、文部省が一月に発表した「二十一世紀教育新生プラン」では、今年を「教育新生元年」とし、まず第一ステージで教育三法を、第二ステージで教育基本法を「改正」するとしたのです。今回の改悪はその具体化です。

五つの重大な改悪

(1)ボランティア・奉仕活動を法律で強制

 小・中・高生にボランティア・奉仕活動を押しつけ、学校は成績をつけることになります。

 「奉仕」は「私心を捨てて国などのために献身的に働くこと」(日本国語大辞典)。「ボランティア」は「自由意志に支えられた社会的な活動」(世界大百科事典)です。まったく違う二つを一つにして、国が法律で強制するのです。作家の井上ひさしさんたちが批判するように「徴兵制の地ならし」ともいうべきものです。

 成績をつければどうなるでしょう。すでにボランティアを一部の学校が点数化しています。ここでは高校進学を少しでも有利にするための「いい子競争」が大問題になっています。

 社会奉仕や勤労体験は大事です。しかしそれは強制されるものではなく、あくまで自主的に行うものです。

(2)高校の通学区規定をなくす

 高校の通学区規定をなくし、全県一区の通学区でもいいようにしました。今までは、高校格差をなくし、地域に根ざした高校をつくるため、文部省は「全県一区はダメ」と言っていたのです。学区は広がるほど受験競争が激しくなり、高校の序列化が進みます。その結果、人気のない学校は統廃合され、地域の学校は存続の危機にさらされてしまいます。

(3)問題行動を起こす子どもの排除

 問題行動を起こす子どもを排除しやすくするため、子どもの出席停止に必要な要件を法律で定めました。

 出席停止は学校が発するSOSです。同時にそれは子どもの学習権を奪いかねない劇薬です。慎重でなければなりません。今回の改悪は、子どもの意見を聞かずに問題児のレッテルを張り家庭や地域から排除することになりかねません。大事なことは、出席停止を子どもの立ち直りの機会に変える努力と条件整備です。

(4)高校二年からの大学への飛び入学の拡大

 今は例外的に千葉大学、名城大学で高校二年から大学への飛び入学が行われています。今回、数学・物理以外の学科も認め、大学院が置かれ、実績などがあれば、どこの大学が実施してもいいことにしました。

 少子化のもとで大学の“青田買い”が横行し、高校の教育に大混乱をもたらすことが心配されています。「日本数学会」も「飛び入学よりも大切なことは、一人の人間としての知識、教養のバランスとれた成長」と批判し、アメリカのハーバード大学は九五年から、飛び入学は問題ありと中止しているのです。

(5)「不適格教員」の免職・転職

 校長と教育委員会が「不適格教員」と認めれば、本人の同意なしに免職・転職させることができることになりました。

 「不適格」とは何をさすのか、だれがどのような手順と手続きで判断するのかあいまいなままです。

 今後、教育委員会で定めるとしていますが、高知県では「体調を崩し休暇をとる」教師、埼玉県では「自信過剰、偏屈、愛情不足」な教師が不適格教員の例にされています。

 参議院の参考人質疑で法政大学の佐貫浩先生が「学級崩壊などでだれもが『不適格教員』におちいるかもしれない時、教師を支援し三十人学級を実施することこそ大事」と強調しましたが、「不適格教員」を摘発するやり方では、問題をかかえる教師の指導力を高めることはできません。

 教師が、子どもに顔だけでなく心を向けることができるように忙しさをなくし、子ども、父母、教職員が助け合い、支えあう学校づくりを進めるなかで解決をはかるべきです。

たたかいはこれから

 小泉内閣は、子どもと教育の危機を子どもの道徳心のなさと教師の指導力不足に求め、能力主義と競争原理をテコに、財界とお国のための教育づくりを進めようとしています。これは競争と管理をさらに強め、教職員と父母、子どもを分断するものです。

 たたかいはこれからです。例えば通学区規定は撤廃されましたが、各県でどうするかは教育委員会の判断に委ねられています。また、文部省は奉仕活動を「義務づけない」と答弁せざるをえませんでした。

 これらは学校、地域でたたかう条件がおおいにあることを示しています。先日、京都の東本願寺などのお坊さんたちが「教育三法反対」を掲げてデモ行進しました。長野の高校生は「知事と語る会」で通学区廃止を主張する知事に「僕たちの意見を聞かずに決めてほしくない」とクギをさしたそうです。

 学校と地域に広がる子どもと教育を守る豊かな力に確信をもち、全力をあげようではありませんか。

(新聞「農民」2001.8.13付)
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2001年8月

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