「農民」記事データベース20020401-533-17

休耕田を自然公園に

農家を先頭に町ぐるみ

千葉県多古町


 両脇を海抜二十五、六メートルの山に挟まれた、一・二ヘクタールほどの田んぼが広がる千葉県多古町の谷津田。――それも今は昔、稲作の減反ですべてが遊休地となっています。そんな荒れ果てた谷津田を、産廃の捨て場にさせないでどう復元・保存していくか。知恵を出し、労力を提供しあって、自然公園に変えていく住民ぐるみのとりくみが進んでいます。

 二月のある土曜日。多古町のコミュニティプラザの一室で、朝から熱のこもった意見が交わされていました。

 「池には、メダカを放流させていただきたい。自然のメダカは、古来からあるクロメダカです。増やすのはいたって簡単ですが、自然の保護、種の保存を意識的にやらないといけない」(十数年間、淡水魚を飼育している元小学校長の渡辺武さん、七十一歳)

 「あくまでもお金をかけないでやるのがいい。花を作っている人は、人にあげるのが楽しみなんです。宣伝すれば花菖蒲だってただでくれる人はいる。コスモスなんか、みんなで種をとってきて蒔けばいい」(高校の理科の先生だった小池由紀男さん、六十一歳)

 「私たちの会は連絡網がしっかりしています。作業をやるとか勉強会のときは、いつでも声をかけてください」(地元のボランティア団体・四季の会の土井節子会長)

 参加したのは三十数人。予定の時間を延長して、話し合いは昼過ぎまで続きました。

 「花が好きだから」と参加した松山庭園美術館で働く平山敬子さん(54)は、ヤマアジサイを育てて準備しています。

 地元のコンビニで働く林直子さん(22)たちは、お客さんから話を聞いて興味をもち、草刈りにも毎回参加している若者トリオです。「公園は、車イスの人や老人でも観賞できるように手すりをつけたり、トイレも工夫して…」と夢をふくらませる林さん。

 ある会員からはすでに、二トントラック二台分のサツキの苗が届いています。

 休耕田の谷津田と周りの山林を里山公園にと、桜宮自然公園をつくる会が誕生したのは、昨年の十一月十八日。町の農業委員会の会長を務める所英亮さん(千葉県農民連北総農民センター会長)の提案によるものでした。

 「町の事業ではなく、住民が参加した、住民が中心の町づくりで、谷津田を復元できないか。田んぼを一時的に保全する方法にもつながる」

 所さんは、いま「つくる会」の会長を務める佐野豊三さん(77)と地主のところを回って、話を進めてきました。町長とも何度か会談し、一晩で九人の地主の賛同も得て、会の発足となったのです。

 谷津田の草刈りは、会の発足の日に始まりました。草刈機やチェーンソー、火炎放射器、鍬、鎌……めいめいが思いの道具を手に駆けつけました。その数ざっと五十人余。そこには町長の姿もあります。篠竹を刈り、潅木を切り倒し、枯れ枝や草は火炎放射器で焼き払う。作業は二時間近く続きます。そんな作業はもう四回になります。

 谷津田はどんな役割を果たしているのか、もっと勉強しなければと、県立中央博物館も訪ねました。つくる会の役員三人と町長、八人の農業委員、総勢十二人が参加。谷津田のすばらしさを学んできました。

 「町民のなかには豊かな夢があり、知恵があり、大きなエネルギーがあるんですね」と、所さんたちは大いに励まされながら、五月の仮オープンに向けて気をひきしめています。

(石部 傑)


 土井正司町長の話

 今世紀の半ばには世界的な食糧不足がやってくる、といわれている。自然公園ができれば、いつでも簡単に水田に還元できる。再び米を作ったり野菜を作ることができる。そういう状態にしておくことが次代に引き継ぐ私たちの責任だと思っている。

 ちば・谷津田フォーラム代表(千葉県立中央博物館生態・環境研究部長)の中村俊彦さんの話

 谷津田の谷には水田があり、斜面は林、その上の台地には畑があります。谷津田の豊かさは、隣接する台地にかならず貝塚が分布していることにも示されています。

 水、土壌、生物の多様性、気候、それに安全性というすべての面で優れていて、谷津田の奥には貴重な生き物が残っています。人間にもいいし生き物にもいい、というのが谷津田のすごいところです。自然と人間の豊かさの極致だといっていいでしょう。これほど恵まれたところは、世界中にないと思います。

 昔ながらの農業が、そうした自然の恵みを最大限に引き出してきたんです。そんな谷津田を残していこうと、農家の人たちが中心になって町ぐるみの運動を進めているところは、多古町以外ではまだ知りません。それだけすごいことだと思っています。

(新聞「農民」2002.4.1付)
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2002年4月

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