「農民」記事データベース20020422-536-08

『稲の旋律』ができるまで

青年部第10回総会講演 作家旭爪あかねさん

 作家の旭爪(ひのつめ)あかねさんは、農民連青年部の第十回総会(三月三十日)で「農業にたずさわる人たちと出遭って感じたこと―小説『稲の旋律』ができるまで」と題して講演し、参加者に感銘を与えました。『稲の旋律』は、「しんぶん赤旗」に連載され、読者から大きな反響を呼び、新日本出版社から単行本として出版されています(一冊・本体1800円)。
 講演のなかから、農業や農民連に関わる話を紹介します。
(編集部)


農業にたずさわる人たちと出遭って感じたこと

 私は小説を書き始めて十年になります。

 これまでは、なぜ主人公がひきこもってしまったかをテーマにしてきましたが、『稲の旋律』は、どうすればそこから抜け出せるのかを主題にしました。主人公に農業体験をさせたのは、私自身がひきこもりから徐々に脱出してくる過程のなかで、農業に携わる人たちと出会い、大きな影響を与えてもらったことを感じたからです。

 稲の美しさを表現したい!

 私は千葉県柏市の田園地帯で育ち、高校を卒業した後、栃木県にある大学の農学部に入学、農業経済学を専攻しましたが、実際の農作業はなにもわからないまま卒業しました。

 親の期待に応える「いい子」でスムーズに大学まできましたが、進路を決定する時に初めて挫折を味わい、うまく乗り越えられなかったんです。自分に誇りが持てなくなって、人に接するのが非常に恐怖になり、親元に居候してアルバイト生活をするようになりました。しかし、出勤が苦痛になり、バイトを辞めざるをえなくなり、病院に通い始めました。

 その頃、いつも水田地帯を散歩していて、一面の稲を見ると、慰められて励まされたことを覚えています。穂波の上を風が吹きわたっていくというのは、とっても美しいと思いました。毎日、田んぼのなかを散歩しているうちに、その美しさを言葉にしてみたいという衝動が起こってきて、家が稲作農家で農業高校に通っているという男の子を主人公に小説を書き、新人賞の募集に応募しましたが、落とされました。

 小説を書いている人同士で批評し合う合評会があるんです。そこに出したら、読んだ人全員から「農業はこんなに美しいものじゃない。もっと泥臭いものだ」「実際の農業の姿がわかっていない」などと批判され、農業を見ているだけだったなと思いました。

 農民連青年部との出遭い

 農業をやっている知り合いの人もいないし、どうしようかなと思っている時に、千葉県農民連の青年部が田植えから稲刈りまで体験できるアグリスクールを主催していることを知ったんです。たまたまその前の年に「平成の米騒動」があって、冷夏で米ができなくて、米への感心が高まった一九九四年の時だと思います。そこにいけば農作業の体験ができると思い、参加させていただくことになりました。

 生まれて初めて田んぼに入り、稲作りを体験しました。稲刈りでも、稲がチクチクすることも知らなくて、「稲がチバチバするでしょう」と言われて、チバチバするのは千葉の稲だと、一年間信じていました。

以下次号掲載


 旭爪あかねさんの略歴

一九六六年東京生まれ。宇都宮大学農学部卒業。日本民主主義文学同盟員。九七年、第二回民主文学新人賞に「冷たい夏」で入選。作品に『世界の色をつかまえに』など。

 小 説

 主人公は対人緊張が激しく、他人との関係をつくることが苦手な三十歳の女性。大学は中退、バイト先は転々とします。三十歳になる年の春、一大決心し会社に就職しますが、三カ月で出勤できず、いわゆる“ひきこもり”状態になり、会社をクビになります。
 主人公は、あるきっかけから千葉の房総半島で稲と野菜を作っている年上の独身男性と文通が始まり、水田の作業や平飼養鶏の手伝いに。農業体験や農村で出会った人々との交流を通して、少しずつ他人との関わり方を学び、外に出て行けるようになります。

(新聞「農民」2002.4.22付)
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2002年4月

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