「農民」記事データベース20020603-541-09

他国には「農業予算削れ」、自国農業だけ「手厚く保護」

身勝手きわまるアメリカの新農業法(2)

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価格保障充実は世界の大勢

アジアでも支持価格引き上げ次々と

 農産物価格の暴落によって農家経営が苦境にあるなかで、価格保障を充実する動きはアメリカだけにとどまりません。

 タイでは、政府系金融機関による米担保融資制度が昨年十一月から動きだしました。従来から収穫期の出荷集中による値崩れを防ぐために農民に融資する短期措置が実施されてきましたが、今回の措置は、融資基準価格を市場価格よりも三〇%高に設定し、量的制限もなく、“質入れ”した米の買い戻しも義務づけられていないなど、実質的に政府による米の買い支え(価格保障)をねらったものといってよいでしょう(農水省ホームページ「海外農業情報」)。

 インドネシアでも、端境期を除いた米輸入の禁止とあわせて国家による米買い入れの復活、最低価格の引き上げが検討され、インドやフィリピン、パキスタン、イランなどでも九九年から二〇〇一年にかけて、支持価格の引き上げが行われています(FAO『基本食料政策概観二〇〇一』)。

 もちろん、これらがインフレの補正措置だったり、もともと低すぎる支持価格の部分的改善であったりして、小農民の経営難を根本的に改善するものではない可能性もあります。

 しかし、価格保障の改善・充実が世界のすう勢になりつつあることを、これらの事実は示しています。

逆立ちぶり目立つ日本

WTO協定を「金科玉条」に

 一方、わが日本ではどうでしょうか。WTO後、農家経済は目をおおいたくなるほど急坂を転げ落ちています(図5〈図はありません〉)。とくに農業所得の落ち込みは激しく、WTOスタート直前の九四年を一〇〇として二〇〇一年には六四・七、農家経済余剰も七〇そこそこです。

 この原因が、米や野菜・果実の下落、さらにBSEによる牛肉価格の暴落にあることは明らかです。

 とくに稲作農家の賃金というべき家族労働報酬は、七〇年代前半は製造業労働者の賃金と肩を並べて“一人前”だったものが、八〇年代に入ると“半人前”になり、九〇年代前半は“三分の一人前”、後半には“五分の一人前”になり、九七年以降は、“生活保護水準以下”といわれる地域最低賃金以下になりました。

 問題は、こういう価格暴落に手を打つどころか「米は一ヘクタール未満が八割。これは健康生きがい型の農業、ガーデニングに近い」(武部農相)などと言い放って、暴落を千載一遇のチャンスとして、小泉型「構造改革」を強行しようとする日本の政治にあります。

 アメリカが農産物でも鉄鋼でも堂々とセーフガードを発動しているのに、ネギ・生シイタケ・畳表のセーフガード発動を流産させた自民党政治。ミニマム・アクセス米輸入が米「過剰」と暴落の原因であることは明々白々なのに、頑としてこれを認めない自民党政治。

 価格保障は、WTO農業協定が「生産刺激的」政策の典型として縮小・廃止を求めている分野です。しかし、世界の各国は農産物価格の暴落という事態に直面して、価格保障の復活や充実に乗り出しています。WTO協定を金科玉条にし、財界の意向にそって価格保障制度を次々につぶしている日本の政治の逆立ちぶりは明瞭です。

WTO協定の枠組み打破を

いま問われる日本の姿勢

 今後の問題は、WTO農業交渉にどういう態度で臨むかです。アメリカ新農業法をめぐっては、「アメリカのみならず、世界の農業者にとって不幸な内容。自分がしないことを、他人にやれという姿勢の国とは、交渉できない」(EUフィシュラー農業・漁業担当委員)という批判があります。

 農産物輸出国であるアメリカが行う価格保障は農業経営に対する支援という性格のほかに、大企業・多国籍企業がダンピング輸出をする際の補助金として使われるという「負」の側面を持たざるをえません。

 農業保護政策の縮小・廃止や自由化万能というWTO協定の基本路線を先頭に立って押しつけてきたのはアメリカです。他国が保護するのは“悪の枢軸”だが、自分が保護するのは正当だなどという身勝手な理屈が通用するはずはないし、通用させてはなりません。

 そうではなく、アメリカでさえ、WTO協定のルールのもとでは農業が成り立たないという現実を踏まえ、農業の現実に合わせたルール作りこそが必要だという認識を世界共通のものにすること、そのために日本が先頭に立つことこそが求められています。

 同時に、そのためにはWTOルールを金科玉条にし、世界の大勢に反して農業つぶしの政治を進めている路線を転換することが必要です。

 穀物自給率が世界で百二十九番目と異常に低いとはいえ、温帯でモンスーン地帯に属し、本来、世界でも有数の農業生産力を持っている日本。こういう日本が“生産刺激”的な政策をとれば、食料自給率を向上させることは十分に可能です。

 農産物輸出国・輸入国ともに価格保障政策の充実に乗り出している世界の現状からいっても、日本が価格保障の復活・充実に乗り出すことには十分な正当性があります。その支障になるWTO協定の枠組みを打破することこそが必要です。

 アメリカ新農業法をめぐる事態は、その必要性を示しています。

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(新聞「農民」2002.6.3付)
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2002年6月

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