「農民」記事データベース20020923-555-03

深刻 無登録農薬で産地廃棄

見逃した県・農水省の責任追及

農民連が緊急要請行動

関連/(お詫び)

 登録が失効した農薬(ダイホルタン、プリクトラン、ナフサク、PCNB)が流通・使用されていた問題で、いま全国の産地で出荷停止や、風評被害など深刻な事態が広がっています。


 違法業者を野放し状態

 「まさか…と思った。がっかりした」隣の洋梨畑でダイホルタンが使用され、三トンのリンゴ(ふじ・千秋)が出荷停止になっている清野正治さん(53)は、ガックリと肩を落としました。ここは「果物王国」山形県天童市。リンゴ、洋梨、サクランボ、桃……。みごとな果樹園がどこまでも続いています。

 今、清野さんのリンゴ畑は残留農薬分析の結果待ちです。ダイホルタンが検出されれば、二十四メートル以内に隣接する農地の収穫物がすべて焼却処分になり、このリンゴ畑も全滅になってしまいます。「一年間、大切に育ててきたけど、危険なリンゴは出荷できない」と清野さん。

 八月末のある夜、「申し訳ない。ダイホルタンを使ってしまった……」と清野さん宅に隣接の農家が謝りに来たのだそうです。「トボトボと帰って行ったっけゃ」とその時を振り返る清野さん。

 山形県では、これまでも県が七回にわたって立ち入り検査したにもかかわらず、発見できずに違反業者の野放し状態が続いており、今年七月下旬、警察が強制捜査に乗り出して業者が逮捕されました。それ以降、登録失効農薬を使った農家は全県で三百戸に満たないにもかかわらず、山形産の果物の価格は半分から三分の一に暴落。「山形産の物はいらない」(大阪市場)と出荷が拒否される深刻な風評被害が広がっています。

 このような状況のなかで、山形農民連は九月六日、緊急に県当局に要請行動を行いました。「いったい県は今までどういう検査をしてきたのか」「この農薬は絶対に使うなという指導もない」「登録が失効しても業者からも、行政からもまったく通知がない」。四十人を超える生産者から違法業者を野放しにしてきた県の責任を厳しく問う声が次々と上がり、県当局も「県の対応も甘かった。深く反省する」と認めざるを得ませんでした。

 しかし「今必要なのは、市場に出回っている果物はすべて安全であることを明らかにして、消費者の信頼を回復することだ。そのためにも県は行政責任を明らかにして、検査費用を負担しろ」という生産農家の最も強い要望には「使った農家も悪い。税金を出すことはできない」と終始背を向けたままでした。

 深刻なのは山形県だけではありません。群馬県尾島町では登録失効農薬が使われていないものも含めてヤマトイモが全量廃棄・焼却処分に、茨城県のメロン産地でも全量出荷停止になるなど、多くの産地で、出荷が分析結果待ちになっています。結果が出るまで一カ月以上もかかる場合もあり、ナシ、洋梨、早生リンゴなどは腐敗が進んで、年一回しかない収穫物を廃棄せざるをえない事態に追い込まれています。

 一方で、群馬県は県知事の判断で自主検査の費用の半分を県が負担するなどの具体策を打ち出しました。

 手ぬるい対応、怠慢を批判

 そもそも登録が失効し、販売が禁止されているような農薬がどうして市場に出回っているのか――農民連は九月十日、農水省に「登録失効農薬問題での国民の安全と、果樹・野菜農家を守るための緊急要請」を行いました。

 農民連は交渉で、「今回の事態を引き起こした責任は、手ぬるい対応で未登録農薬の流通を見逃してきた農水省にある」と厳しく追及。流通ルートの究明や公的機関での無料の分析検査、問題の農薬を使用した農産物を流通させないこと、登録失効農薬の回収などを求めました。

 応対した生産資材課農薬対策室は「今回のダイホルタンなどは東アジアから密輸入されたもので、取り締まりが甘かった。反省する」と述べる一方で、「この問題はBSEとは違う。販売業者も悪質だが、使った農家も悪い。農薬取締法では水際のチェックも難しい。今後は同法を改正して使用農家に罰則を課すようにする」と回答。

 農民連の代表は、登録失効の周知徹底をまったくしていない農水省の怠慢を批判するとともに、「現行法でもDDTやドリン系農薬のように毒劇物取締法に指定したり、輸入禁止措置をしっかりとれば水際でのチェックもできるはず」と指摘。

 農水省側も「今後、検討していきたい」と答えました。


(お詫び)

 新聞「農民」五五四号の記事(2面)の「燐酸肥料(海鳥の糞など)に(カドミウムが)含まれているともいわれています」という表現に対して、読者から「燐酸肥料すべてが汚染されているという誤解を与える」との指摘をいただきました。言葉足らずで誤解を与えましたことに、深くお詫び申し上げます。

 燐酸は、作物の必須元素であり、農業に不可欠の肥料です。ただ、輸入品など一部に、産地、原料、製造方法でカドミウムが多く含まれているものもあると指摘されています。これをチェックするために農民連食品分析センターは、新たな分析装置を導入することにしています。今回そのためのカンパをお願いしています。

 新聞「農民」は今後とも、読者からの指摘を真摯に受け止め、誤解のない表現に務めていきます。

(新聞「農民」2002.9.23付)
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2002年9月

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