「農民」記事データベース20021007-557-08

国民の健康を守る役割さらに

機能強化が進む農民連食品分析センター

関連/加工用ニンジン助かった

 「もっと国民の健康を守る役割を果たしたい」と、農民連は食品分析センターの機能強化のための二千万円カンパを呼びかけています。いま、食品分析センターは、新しい分析装置の導入を進めています。


 食の安全を求める声に応えて

 最初に設置されたのは、「オートインジェクター」という装置。これは、残留農薬を検査するガスクロマトグラフ(ガスクロ)にサンプルを自動的に注入する機械です。十二個のサンプルを装着でき、順次、ガスクロに注入していきます。

 ガスクロが一サンプルの検査に要する時間は約二時間ですから、このオートインジェクターを使えば夜間も分析を進めることができます。

 農民連食品分析センターが中国産冷凍ホウレン草から基準値を超える残留農薬を検出したことがきっかけで、国民の食の安全に対する関心と輸入農産物への監視の目が強まりました。

 「分析機関はどこも、依頼が殺到していると聞きます。検体からサンプルを抽出するときに使う有機溶媒や、農薬の標準品が手に入らないこともありました。猫の手を借りたいくらい忙しいけれど、国民の健康が守られるということだから、喜ばしいことですね」と八田純人研究員。朝早くから夜遅くまで、石黒昌孝所長、藤田一衞研究員、島田朋史研究員とともにがんばっています。

 機能強化の目玉は重金属の分析

 今回の分析センターの機能強化の目玉は、重金属分析装置の導入です。現在、分析機器メーカーから見積りを取り寄せて、詳細な検討をしている最中です。

 重金属の分析は、「原子吸光々度計」「ICP(誘導結合プラズマ分析装置)」などで行うことができます。

 原子吸光々度計は、サンプルを燃やしたときに出る光の色を調べる装置。カドミウムや銅、亜鉛などの重金属は、燃焼するときに固有の色の光を発します。これを解析することによって、サンプルに含まれている重金属の種類や量をはかることができるのです。

 ICPも原理は同じで、ガス状にしたサンプルに高電圧をかけてプラズマを発生させ、プリズムで分光して解析します。「ICPは精度が優れている分だけ値段も高いが、微量元素を調べることで米の産地特定などにも使える」と、石黒所長。独立行政法人の食品総合研究所でも、ICPを使った「米の産地判別法」を研究しています。

 しかし、原子吸光々度計やICPは残念ながらそれだけでは農産物を分析できません。有機物はあらかじめ硫酸や硝酸で処理して“灰の状態”(無機物)にしておく必要があります。そのためには、ドラフト(強制排気装置)やスクラバー(排気の浄化装置)が不可欠です。

 分析センターはこれまでも、分析機器の充実をはかりながら、輸入農産物の残留農薬や遺伝子組み換え食品の問題など、国民の安全をおびやかす問題を告発してきました。今回の機能強化にも数多くの期待の声が寄せられています。「広くカンパを呼びかけて、国民の期待に応えたい」と、石黒所長ははりきっています。


加工用ニンジン助かった

 全国センターがあってこそつながった北海道と和歌山

 「涙が出るほどうれしかった」と、和歌山・協同組合ゆあさの松原久司理事長。「今まで捨てていたものを出して喜んでもらえるんだから、こっちこそうれしいよ」とは、北海道・小清水産直センターの坂本清一事務局長。産直協に加盟する両組織は、加工用ニンジンを通じて全国センターの大切さをあらためて実感しています。

 ゆあさから「国産を使った野菜加工品の発注が増えて、原料の入手に困っている」という相談が産直協にあったのは八月末の研究交流集会。斉藤敏之事務局長はさっそく、北海道の白石淳一委員長を通じて小清水産直センターと空知産直センターにつなぎました。空知も品薄のなかで五百キロのニンジンをゆあさに送り、最盛期を迎えている小清水からは毎日届けられています。

 原料の値上がりの影に分析センターの活躍

 農民連、産直協という全国センターがあったからこそ始まったこのとりくみの背景には、農民連食品分析センターが果たした役割もありました。それは、中国産野菜の残留農薬問題に火を付けたことです。

 協同組合ゆあさは、「ニンジンとゴボウの水煮」などの野菜加工品を作り、おもに生協の共同購入に出荷しています。産直産地の野菜を使い、すべて国産原料で作っているということでは、老舗の加工場です。

 「ところが最近、大手メーカーも中国産から国産にシフトしている。加えて、これまでの安値で産地が疲弊し、悪天候の影響で原料の調達が難しくなっている。だからといって零細業者は受注を断れないし、農家を泣かせたくない。国民に安全な食料を供給するために、農家も、零細業者も生き残れる世論と運動が必要」と松原さん。

 その声に応えるように坂本さんも、「相場がいい理由は、中国産が入ってこないことが一番大きい。でも、いずれ中国も立て直してくるだろうし、国産への攻撃も執拗だ。今この時に、なぜ国産が大事なのか、世論を広げることが重要だ」と語っていました。

(新聞「農民」2002.10.7付)
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2002年10月

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