「農民」記事データベース20021007-557-10

藤沢周平原作、山田洋次監督初の時代劇

たそがれ清兵衛

関連/この映画のあらすじ

 『男はつらいよ』『幸福の黄色いハンカチ』『学校』など数かずの傑作を生み出してきた山田洋次監督が、構想十年、藤沢周平の原作をもとに初めて挑んだ本格的な時代劇。幕末の小藩に生きる下級武士とその家族の絆を通して「本当の幸せとは何か」を描いています。この映画に主人公「清兵衛」の伯父役で出演した丹波哲郎さんに、その“見どころ”と山田監督との出会いなどを語ってもらいました。


 ―― 十一月二日全国公開 ――

     その魅力を語る丹波 哲郎さん

『丹波哲郎』プロフィール  1922年、東京都生まれ。52年『殺人容疑者』でデビューし、『智恵子抄』『砂の器』『人間革命』など映画出演作品は500本に及び、外国映画出演作品も8本を数える。俳優生活50年、日本映画を支える重鎮の一人である。最近の出演映画作品は『十五才―学校IV』『伊能忠敬』『カタクリ家の幸福』『釣りバカ日誌13』など、テレビでは現在NHKで放映中の『利家とまつ』がある。


 日本に西洋文明が入ってくる前、下級武士の貧しい暮らしがどういったものか、そして農民、藩主、同僚、上役など様ざまな人間像が、実にリアルに描かれています。当時の封建的な社会で「出世を求めず、平凡な幸せに生きよう」とした男の“切なくも美しい”愛の物語です。皆さんも涙なしでは観ることができないと思いますよ。

 わたしは清兵衛とその子どもたちに嫌われる伯父でね、どうあがいても“ご褒美”をもらえる役ではないんです。清兵衛に「後妻を迎えろ」と言うセリフが「女なんて丈夫で顔さえあればいい」というんだから、憎まれ役もいいところ。わたしとしては“地”でいくわけにはいかない、芝居をせざるをえない(笑い)。

 芝居といえば、後輩を指導する時に「芝居をしてはいけない。息をしていればいい」と言ったりします。要するに「自然体で演(や)れ」ということですが、今回は自分と全然違った人物を演じるわけだから、苦心しましたよ(笑い)。

 清兵衛役の真田広之君と後妻役の宮沢りえ君が良かったねえ。宮沢君については、あまり知らないんだけど、真田君は子役時代から知っているから、その成長度は今やピークに来ていると思いますね。

 だから彼が清兵衛を演るか、他の者が演るかといったら、演らせてみないと分かりませんが、彼がこれだけ演ったことを見ると、大成功だったと思います。

 これは山田監督が清兵衛の配役をした時に、野球でいえば、すでに選手が安打を打って一塁に出ているのと同じですよ。監督の采配が的確だったということです。「たそがれ清兵衛」と同僚たちから陰口されるのは、病妻に先立たれ、老いた母と幼い娘二人をかかえ、家事と内職のため夕刻になると帰路につく薄汚い“たそがれた”姿から来ています。その清兵衛の生き方が何ともいいんです。髭面で、むさ苦しいんだけどね。

 山田洋次監督の映画に出た最初が『十五才―学校IV』です。出演の話があった時、小便を漏らすシーンがあり、自分には向かないと一度は出演を躊躇(ちゅうちょ)したんです。

 ところが、いざ撮り始めたらワンカット目から全然違う。屋久島でのロケで、わたしは家族から見放され一人で暮らしている老人の役だった。最初に撮ったシーンは床屋から出てきて、ヤケッパチにステッキを振り振り自分のオンボロ車に乗るところでね。わたしはステッキを乱暴に車の窓から投げ込んだんです。勝手に演ったわけ。すると監督は、それをもっと演りやすいように助けてくれたんですよ。

 やがて家に帰ります。孤独な暮らしだから、電灯もついていない。老人は電灯のヒモにステッキをからませて引っ張ろうとする。この演技も、わたしが勝手に演ったんだけど、監督はヒモが引っ掛かりやすいように丸い輪を結んでくれました。わたしが勝手に演ろうとすると「いいんですよ」と応援してくれる――という演出ですね。もちろん全部が全部そうではありませんけれど。

 でも最初のシーンで、のっけから、そういう演出をされると「うーん」となりますわね。その結果、わたしは日刊スポーツ大賞をもらうことになりました。山田監督に賞を取ってもらったということです。

 この映画のラストで、殺し合いを嫌う清兵衛が藩命にそむけずに果たし合いをするシーンがあります。とてもリアルで迫力のあるシーンです。この殺陣をどうするか、といった時に、わたしが勝手にシャシャリ出て「こう演ったらどうか」と提案したんですが、いざ本番の時は『釣りバカ日誌13』の撮影で富山に行っていたもんで、わたしのとは違う殺陣になっていました。

 できたのを見ると、小太刀を使う殺陣として迫力がありますよ。ぜひ観ておいて下さい。

(聞き手)角張英吉
(撮 影)関 次男


この映画のあらすじ

 幕末の庄内、海坂藩。井口清兵衛(真田広之)は御蔵役五十石の平侍である。妻を労咳(肺結核)で亡くし、家には二人の娘と老母がいる。そのため生活は苦しく、下城の太鼓が鳴ると同僚の付き合いなどを一切断って帰り、毎日家事と内職に励んでいる。

 ある日、清兵衛は友人の飯沼倫之丞(吹越満)と久しぶりに再会し、倫之丞の妹・朋江(宮沢りえ)が嫁ぎ先の婿・豊太郎(大杉漣)が酒乱で横暴が過ぎるため、離縁して実家に戻っていることを聞く。翌日、その朋江が久しぶりに清兵衛の家を訪れた。幼なじみの朋江と思い出話に花を咲かせる。お互いに好き合っていたことは言葉に出さずに――。

 その頃、叔父・井口藤左衛門(丹波哲郎)が「後妻をもらえ」と清兵衛にしつこく迫るが、「貧しくとも今のままでいい」と断る。そして藩主の死去をめぐる権力争いが起き、元藩主への忠誠を守る反対派に対する弾圧へ……。頑固に抵抗する剣の達人・余吾善右衛門(田中泯)を「討て」との藩命が清兵衛に下る。「私は人を殺したくない」と辞退する清兵衛に「平侍の愚痴など聞きたくない。余吾を討て。これは藩命だ」と重役。側で上役の久坂長兵衛(小林稔侍)が……。

 ★『たそがれ清兵衛』は十一月二日(土)から丸の内ピカデリーをはじめ全国の松竹、東急系映画館で一斉公開されます。

(新聞「農民」2002.10.7付)
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2002年10月

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