「農民」記事データベース20021014-558-04

「農協改革」の現時点(2)

山本 博史


「JAバンク」、Aコープの会社化

=現に進行中の農協の非協同組合化=

 政府・財界からの「農協改革」の名による協同組合攻撃が、「米つぶし政策」とセットで強められようとしている時、農協内部でもこれに呼応するかのような、みずから非協同組合化を進める動きが激化しています。

 その一つが、農協の信用事業を「JAバンク」と呼び、一般商業銀行なみの中央集権的運営を強める動きです。農協の執行体制強化をねらいとした二度にわたる農協法改正をうけて、ペイオフなど金融政策変更のなかで経営破たんの未然防止を名目に、協同組合金融の独自性をなげすて、みずから「バンク」を名乗ります。また、農林中金を中心にして「自主ルール」を定め、国際金融を行う都市銀行なみの高い自己資本比率を決め、組合員への貸し渋りを指導、ルールに合わない農協は信用事業経営権を奪い、「JAバンクグループ」から排除するという仕組みへの変更です。

 農協の経済事業では、Aコープと呼ばれる生活購買店舗の株式会社化と全国チェーン化をはじめ、農機・車両、石油スタンド、葬祭、その他加工利用施設など、農家の生産と生活を支える重要な事業が、農協から切り離され会社化されています。

 会社と組合の違いは?

 協同組合と株式会社では、その基本理念や運営方法に根本的な違いがあります(表参照)。

 
協同組合と株式会社の基本理念・運営方法の違い
 
協同組合
株式会社
出資者の主たる目的 ・組合員としての事業の利用(非営利) ・株主が利潤の配当や株の値上がりを期待(営利)
組織面での特色 ・利用者と出資者は原則として同一(人の結合体) ・利用者と出資者はとくに一致しない(資本の結合体)
運営面での特色 ・一人一票の議決権
・日常の組合員参加による民主的運営が基本
・株数に応じた議決権
・経営部門が分離独立し、株主は日常運営には通常参加しない
財務面での特色 ・出資配当に制限がある
・剰余金の利用高配当を行なう場合がある
・利潤の配当には制限がない
・利用者に対する配当は特にない
(財)協同組合経営研究所刊『新協同組合とは――そのあゆみとしくみ』から。

 何よりも協同組合は、非営利組織であり、農協法でもその事業を「組合員のために最大の奉仕をすることを目的とし、営利を目的として行ってはならない」と定めています。農協の出資金も投機が目的でなく、組合員が事業利用のために拠出、出資金への利益配当も市中金利を基準に制限されており、利用高配当という他業態ではみられない余剰金配分方式が採用されているのも協同組合の大きな特徴です。株式会社が資本の結合体であるのに対して協同組合は人間の結合体であるとされているのも根本的違いを表現しています。

 国際協同組合同盟(ICA)は、世界に七億人の組合員を結集する最も歴史の長い世界最大のNGO・NPOですが、一九九五年の総会で、協同組合をつぎのように定義しています。

 「協同組合とは、人々が共通の経済的・社会的・文化的要求と願いを実現するために、自主的に手をつなぎ、事業体を共同で所有し、民主的管理運営を行う、人々の自治的な協同組織である」(協同組合のアイデンティティーに関するICA声明)。

 各国、各地域での経済・社会条件を配慮しつつも、この国際原則が法律や行政指導にも貫かれる必要があります。政府や財界によるものであれ、農協全国連によるものであれ、これをふまえない、むしろ逆行する「改革」は、協同組合つぶしとなるでしょう。

 いま構造改革の名のもとに「米つぶし」と「農協つぶし」がワンセットで進められようとしているのです。

(つづく)
(立教大学講師・農民連参与)

(新聞「農民」2002.10.14付)
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2002年10月

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