「農民」記事データベース20030714-594-08

世界の農業政策の新動向

 日本では最近、「農業政策」=「農業つぶし政策」といっていいほど、ワンパターンの悪政続きです。しかし、世界では、世界的な農産物価格の下落による家族経営の危機を救うために、価格保障制度の創設や復活、農産物貿易の輸入規制の強化などの政策が次々に実施されています。これは当然のことです。“何が何でも貿易の自由化こそが善だ”“貿易の拡大こそが世界を救う”という「貿易屋」の論理=WTOルールを金科玉条にしている日本政府こそ異常です。インターネットや国際機関の情報から、世界の農業政策の新動向を随時紹介します。


アメリカからの穀物・大豆輸入を激減させたEU

 遺伝子組み換え食品の輸入規制強化は当然

 世界中から「遺伝子組み換え食品ノー」の声が巻き起こっているにもかかわらず、アメリカの遺伝子組み換え作物の作付面積比率は大豆が八一%、トウモロコシで四〇%にのぼっています。

 本来、顧客が“買いたくない”商品は淘汰されるのが“市場原理”のはず。この問題をめぐる日本とEU(ヨーロッパ連合)の対応は、まったく好対照です。

 EUは、科学的根拠が必ずしも十分ではなくても、健康や環境に悪影響を及ぼすと判断される場合には貿易・流通を規制する「予防原則」の立場から、遺伝子組み換え食品の輸入を規制しています。科学が全能ではないという謙虚な立場に立って薬品・食品被害の歴史を振り返れば、これは当然のやり方です。

 この結果、WTO協定発足以来の十三年間で、EUのトウモロコシ輸入先は、かつては八六%を占めたアメリカがわずか二%に落ち込み、EUが認可している遺伝子組み換えトウモロコシしか生産していないアルゼンチンが一四%から九八%に飛躍的に伸びています。大豆でも事情は同じで、アメリカからの輸入が六六%から三五%にほぼ半減する一方、ブラジル産大豆が二〇%から五七%へと三倍増(図1、2〈図はありません〉)。

 アメリカは、これにイラだち、この五月にEUをWTO違反として提訴しました。しかし、EUのフィッシュラー農業担当委員は「食品の品質を中心におかない農業政策」だと批判。七月二日には、遺伝子組み換え農産物を〇・九%以上含む食品や飼料に表示を義務づける法案を採択しました。

 この法案は遺伝子組み換え農産物の輸入を許可するためのものという側面もありますが、(1)植物油などすべての食品・飼料を対象にしている(日本は製品の九割を占める植物油などには表示義務なし)、(2)混入率を〇・九%以上にしている(日本は五%以上)など、日本よりもはるかに徹底したものです。

 日本人は遺伝子組み換え食品のモルモット?

 アメリカからの輸入が多少減っているとはいえ、日本のトウモロコシの対米依存度は九二%、大豆は七六%と圧倒的です(図3〈図はありません〉)。しかも、大豆を飼料・油用に輸入するヨーロッパと違い、日本は大豆を「食品」用に輸入しています。

 こんな状態を放置すれば、日本国民は遺伝子組み換え食品のモルモットにされてしまいます。EU並みに表示を厳しくするとともに、国民が食べたくない食品の輸入を規制するという経済的自主権を行使すべきです。

 それはまた「南」(発展途上国)が輸出できるものは、南からの輸入を優先することを通じて、南北問題を解決することに役立つでしょうし、アメリカ食糧戦略のカサから脱却し、日本農業の自主的発展をめざすことにつながります。

(M)

(全国農協中央会「全国農業・食料レターNo.96、農業情報研究所「米国・EU間のGMO紛争」などを参考にしました)

(新聞「農民」2003.7.14付)
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2003年7月

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