「農民」記事データベース20040119-619-03

食健連・農民連が新春の宣伝・要請

食の安全を守れ(2/2)

アメリカBSE問題

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  /リンゴ火傷病の侵入を許してはならない


 台風14号により四万トンの落果被害と着果損傷はあったが、収穫を終え、津軽のリンゴ地帯は雪に覆われる季節を迎えた。数年来のリンゴ価格の低迷と冷災害の襲来により極めて厳しい経済状況が続き、加えて、年末に発表されたリンゴ火傷病の検疫に関する裁定により、リンゴ農家は憂愁に深く包まれている。

 栽培管理で良質のリンゴ

 リンゴの栽培は健全な樹体の育成が基本となる。そのために樹形、樹勢、樹相を観察・予測し、栄養生長と生殖生長のバランスを考慮して整枝、剪定を行う。品種、台木、樹齢、土壌条件、地下の根や排水条件、傾斜地と採光条件、気象条件等を考慮しながら、施肥、土壌管理、病害虫防除、着色管理、収穫等の適期の栽培管理によって初めて良質のリンゴが生産される。

 また、リンゴ生産の歴史は、病気や害虫との戦いの歴史でもあった。海外由来とみられる一八九〇年代末以来のリンゴワタムシの大発生があり、戦後では、欧米のリンゴ栽培で長年最大の病害とされてきた黒星病が、日本でも一九五二年頃、札幌市郊外で発見された。その後、六八年には岩手県に飛び火し、根絶を目指したが、今日では全国の産地に及ぶ重大な病害となった。このように、リンゴの海外からの移植、輸入は病害虫の輸入も伴った。

 最も恐れられている火傷病

 そして昨年十一月二十七日には、リンゴの病気で最も恐れられているリンゴ火傷病予防に対する日本の検疫制度をめぐる貿易紛争において、世界貿易機関の上級委員会が米国の主張を全面的に認めた最終報告を公表し、十二月十日に日本の敗訴が確定した。

 農水省によれば、リンゴ火傷病は、「Erwinia amylovora」という細菌によってまん延し、リンゴ、ナシなどの果樹や花木類を侵す重要病害である。もともとは、アメリカ東部にあった風土病が、北米全体、ヨーロッパのほぼ全域から西アジア、エジプト、ニュージランドへと分布を広げているが、日本においては未発生である。火傷病に罹病した植物は、火にあぶられたような症状を示す。病原細菌は花器や付傷部から侵入して、花、枝、幹へと広がり、枯死を起こす。高温、多湿の場合、病勢は著しく進み、細菌粘液の溢出が園地でのまん延をもたらす、とされる。果樹、花木に広範囲な被害をもたらす危険がある。

 火傷病と価格対策がないと

 このような樹体のすべてを侵す恐るべき病気の病原が持ち込まれることになると、病気防除の開発と徹底、検疫等のために莫大な負担と危険をおわされる。今後の日米二国間協議においては、火傷病が日本に絶対に侵入しないような検疫措置を堅持するように断固たる態度で臨んでもらいたい。

 同時に、重要なことは、リンゴ農家の経営安定対策である。一九九七年のリンゴ価格の激落を契機に「青森県生食用りんご価格安定制度」、「果樹経営安定対策事業」として不十分ながらも価格の下落等による所得の激減の一部が補償されている。しかし、加工用リンゴが全く対象外である。加工用リンゴは裾(すそ)ものとして二割程度は発生するが、果汁輸入量は、生果換算で平均五十六万トンに達しており、国内の果汁用仕向け量の約四倍に及ぶ。こうして加工用リンゴ需要が減少し、供給がダブついて価格が激落している。これが生食用リンゴ価格の激落にもつながっている。火傷病と価格対策が成されないならばリンゴ産地は遠からず消滅しかねない。

 リンゴ繊維の動脈硬化予防作用を始め、リンゴに含まれるポリフェノールの諸機能などが特に注目されているところでもあり、リンゴ生産の継続発展を期待したい。

(弘前大学教授 宇野忠義)

(新聞「農民」2004.1.19付)
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2004年1月

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