「農民」記事データベース20040816-648-06

「農民連ふるさとネットワーク」の結成の意義と役割について

笹渡義夫農民連事務局長の報告

関連/ふるさとネットワークで国民へ
  /大地の恵み ふるさと自慢市
  /結成して下さってありがとう
  /初年度の業務計画について(要旨)
  /農民連ふるさとネットワーク結成宣言
  /「農民連ふるさとネットワーク」の結成の意義と役割について


[1] 新たな段階を迎えた、生産を原点にした農民運動の発展

 1、農民連と産直協の十五年の蓄積を生かして

 一九八九年一月の農民連結成時に採択された「農民連行動綱領」は、「農民運動の基本目標を、「日本農業の自主的発展と家族労働を基本にした農民経営の安定におく」と規定しました。そして、「農民運動の原点はものをつくり育てることです。生産を放棄し、生産をあきらめるとき、農業破壊の政治に怒りをもつことも忘れる」(農民連結成大会への報告)とし、生産を農民運動の最も中心的な柱として活動してきました。

 そして、農業・食糧を全国民の課題と位置付け、国民と連帯してたたかってきました。

 これは、アメリカの食糧戦略によって奪われた国民の胃袋と味覚を取り戻す国民運動の核となる組織の発足でもありました。

 こうした立場から、「ものをつくってこそ農民」をスローガンに、安全・安心の農産物の生産を広げ、食と農を守る国民合意を基礎にした多様な産直の展開、食品分析センターの設置、食と農の共同の新聞「農民」の発行、三三〇万人の構成員をもつ全国食健連との共同など、たえず、国民とともに歩んできました。

 そして、農民連結成以来、十五年の全国の努力と蓄積のうえに、本日、「農民連ふるさとネットワーク」の結成を迎えるに至りました。「農民連ふるさとネットワーク」は、日本の農民運動の新たな発展であり、生産点での運動をより強力に進める専門的蓄積と体制をもった組織を立ち上げるということです。私は、こうした運動を発展させ、「ふるさとネットワーク」の結成に至った全国の仲間の奮闘と団結に感謝し、感動をもって喜びあいたいと思います。

 2、産直協の果たした重要な役割

 本総会に先立って、「農民連ふるさとネットワーク」への発展的移行を決めた「産直運動全国協議会」は、生産を農民運動の中心課題として発展させるうえで、また、全国ネットワークに到達するうえで決定的に重要な役割を果たしました。産直協の奮闘なしに、今日の到達はありえなかったといっても過言ではありません。

 今でこそ、全国的に産直組織が多数生まれ、運動と事業を発展させていますが、事業組織の立ちあげと運営、生産と販売、経理や物流、消費者との交流など、産直運動に必要なあらゆるノウハウを産直協の蓄積から吸収して前進してきたというのが、多くのみなさんの実感ではないでしょうか。

 そして、忘れることができないのが、一九九一年、台風八号が青森県一帯を直撃し、収穫直前のりんごが大量に落下した際のことです。農民連とともに産直協が機敏に行動し、都内の労組や民主団体、また、全国の仲間や産直組織などによびかけ、その結果、全国から落下りんごの注文が殺到し、悲しみのなかにあった産地が激励され、うれしい悲鳴をあげたということがありました。こうした取り組みは、被害を受けた産地の救援にとどまらず、広範な民主勢力と、食と農にかかわる共同を広げる重要な契機になりました。

[2] 農業の危機が深化しているもとで

 1、財界のねらいを背景にした小泉「農業構造改革」のもとで

 「ふるさとネット」の結成は、空前の農業破壊を進める小泉「農業構造改革」路線が進められるなかでとりわけ重要です。

 今後の農政の展開は、財界戦略による関税の引き下げや撤廃による農産物の更なる自由化であり、そのための「担い手づくり」の名による農民の大リストラ、大企業の流通支配です。

 今後、米価を含め、目を覆うような農産物の買いたたきがねらわれています。すでに、米価問題で、その兆候はあらわれています。アメリカの食糧戦略のなかで、一貫して衰退させられてきた日本農業への攻撃は、これまでの延長線にとどまらない、歴史上、最も深刻な段階にあると見なければなりません。

 WTO交渉は、多くの矛盾をはらみながら、重要な局面を迎えています。WTO路線は、関税の引き下げであり、最終ゴールは関税ゼロです。また、FTA(二国間・地域間自由貿易交渉)は、いきなり関税ゼロです。米の関税がゼロになれば、一俵四千円程度の外米が入ってくることになります。 

 政府は、「食料・農業・農村基本計画」の見直しの中で、今あるすべての価格保障を廃止して、市場原理によって買いたたきを野放しにし、価格暴落対策として直接支払いによる「所得補償」の実施を検討しています。価格の下支えのない「所得補償」は、決して長続きしないでしょう。しかも、「担い手」以外の九割以上の農家は、対象からはずされ、「担い手」も安い輸入農産物との競争にさらされることになります。

 こうしたなかで、農業破壊政策とのたたかいに全力をあげるとともに、地域を基礎に安全・安心の生産を拡大し、ネットワークで国民に届ける運動に踏み出す私たちの挑戦は、多くの農民にとって、また、農業を憂い、国産の農産物を願う多数の国民にとって、大きな希望であると確信します。

 本総会に多数のメッセージが寄せられていますが、このなかには「立ち上がっていただいてありがとう」という言葉もあります。こうした期待に応えて、私たちの運動を立派に成功させようではありませんか。

 2、協同組合への全面的な攻撃の強まりのなかで

 市場原理による競争主義は、協同組合運動と、そのイデオロギーに対する攻撃を強めています。こうしたなかで、本当の協同の実践の担い手としての「ふるさとネットワーク」の役割も重要です。

 家族経営を否定し、農業に競争主義を持ち込む「農業構造改革」は、農民が助け合うこと、協同することを否定し、執ように農協への攻撃を加えています。しかし、残念ながら農協中央は政府・与党と同じ土俵のうえで「農業構造改革」を推進しています。

 これは、全国で懸命に農民の経営と地域農業、JAの経営を守るために奮闘している多くの人たちに困難をもたらし、今後、ますます矛盾を広げることは避けられません。

 これまでの私たちの運動のなかで、各地でJAとの共同が広がっていますが、「ふるさとネット」は、協同・助け合いの担い手として、こうした人たちとの共同をさらに広げるとともに、地域の全農民を視野に入れて生産を担える組織に発展することが求められています。

[3] 農業・食料を大企業のビジネスチャンスにするのか、「もう一つの流れ」を本流にするのか

 1、「もう一つの流れ」の主役は消費者

 農民連は、農業をめぐる重大な情勢の進展や、大企業の流通支配の強まりのなか、こうした流れに対抗した「もう一つの流れ」が生まれていることを確信に、奮闘してきました。この流れがますます加速しているというのが今日の情勢の特徴です。

 食の安全を脅かす事件があいつぎ、また、政府が食糧自給率向上の責任を放棄しようとしているなかで、農水省が二月に発表したアンケートでは、九割の国民が「自給率を大幅に引き上げるべき」と回答し、国内産を願う声をますます強めています。さらに大手との激烈な競争のなかで、消費者、地域住民の声に応える取り組みを強めながら生き残りをかけて奮闘している中小の流通業者や商店街も現に存在しています。

 国の農業破壊政策に抗して、農林漁業を基幹とする農山村の自治体では、生産を広げ、地産地消や都市の消費者と結びついて自立した自治体づくりへの努力が行われています。「米改革」への対応をめぐっても、農家と合意した「地域水田農業ビジョン」がごくわずかにとどまっていることは、「すべての農家が担い手」という立場に立つ自治体との矛盾であり、農民の怒りを背景にした「抵抗」とみることができます。

 政府が「米不足」に乗じて超古米を放出し続けているために、流通段階で米がだぶつき、米価の大暴落が引き起こされています。政府に古米の販売中止と、備蓄の確保などを求める「緊急対策」に、広範な自治体やJAが賛同し、農業委員会の建議も広がっています。農民連の「準産直米」の取り組みに参加を希望するJAも増えています。

 まさに、都市でも農村でも、あらゆる場面で「もう一つの流れ」が芽吹き、流れとなっています。

 2、安全・安心の農産物の生産を広げ、 国内産を願う多数の国民と結びつく挑戦を

  こうした流れがあっても、私たちが組織的に能動的に働きかけ、共感し合うことなしには、成果として実らせることはできません。

 「ふるさとネット」の目的は、日本列島三千キロの豊かで安全・安心の農産物を生産し、国内産を願う広範な国民と結びつくための取り組みを、ブロック、県、地域のネットワークを生かして組織的に、いっせいに展開することにあります。その挑戦に力強く踏み出そうではありませんか。

[4] 農村での多数者をめざして

 1、「ふるさとネット」を生かし、すべての農民への働きかけを

 農民連は、税金をはじめ、農民の多面的要求を実現する運動を進め、多くの農家との結びつきを強め、仲間を増やして運動を前進させてきました。

 今、「ふるさとネット」の結成を機会に、農民の最も基本的な要求である生産と、これを国民に届ける取り組みを正面に据え、文字通り、全農家を対象に運動への参加と、「農民連に加入して、一緒に農業を続けよう」「一緒に消費者に届けよう」と、働きかけを強めようではありませんか。

 2、「ふるさとネット」の情報を発信する新聞「農民」の普及を

 「ふるさとネット」は、ニュースやインターネットを活用した情報の発信も行いますが、新聞「農民」が中心的な役割を担うことになります。食の安全や農政、生産者の思いと産地情報、各地の共同の取り組みを伝え、文字通り、都市と農村、農業と中小流通業者などを結ぶベルトとなります。この新聞「農民」を広範な人たちのなかに普及することは、ネットワークの威力をさらに強めることになるでしょう。

 六月末をもって、本部財政を健全化することができました。この機会に、全国の仲間と読者のみなさんのご協力に深く感謝するものです。今後は、ますます親しまれる紙面づくりを強める一環として、秋から月一回のカラー化に踏み出します。カラーでこそ、農山村の美しさと豊かな農産物を国民のみなさんにアピールすることができます。こうした努力も生かし、新聞「農民」読者を大いに広げましょう。

 3、生産を広げて農業と農山村の復権を

 農民連は、「農業と農山村の復権」を掲げて奮闘してきました。生産を取り戻し、拡大することなしに「復権」はありえません。

 大きな希望と期待を担って、本日、「ふるさとネット」は船出しますが、県やブロックネットの体制づくりなど組織的な面でも、また、運動の中味の点でも、これからの取り組みが重要です。全国の団結と奮闘で、「ふるさとネット」を機能化させ、農業と農山村を復権させるために団結を固めて前進しましょう。

(新聞「農民」2004.8.16付)
ライン

2004年8月

HOME WTO トピックス&特集 産直・畜産・加工品 農業技術研究
リンク BBS 農民連紹介 新聞「農民」 農とパソコン

農民運動全国連合会(略称:農民連)
〒171-0022
東京都豊島区南池袋2-23-2
池袋パークサイドビル4階
TEL (03)3590-6759

本サイト掲載の記事、写真等の無断転載を禁じます。
Copyright(c)1998-2004, 農民運動全国連合会