「農民」記事データベース20050926-701-01

マクドナルド

スローフードCM 食育サイトも!

農業、文化の視点 ひとかけらもない

 「ファーストフード。そのおいしさや安心は、スローにつくられています」―。ファストフードの大手、マクドナルドのコマーシャルです。同社はホームページで「食育」にかなりのページ数を割いています。なぜファストフード業界がいま、「食育」「スローフード」なのか?


 マクドナルドは、自社のホームページで「食育の時間」というサイトを立ち上げています。学校の時間割になぞらえ、一から五時間目まで「好きなものだけ食べちゃいけないの?」「ハンバーガーは何でできているの?」などのテーマを設定。アニメやゲーム方式で検索するようになっています。

 家庭栄養研究会の蓮尾隆子さんは「意外にも、食品業界は、すばやく食育に取り組む姿勢を明らかにして」きたと指摘。しかしこれは、日本人の胃袋を米食からパン食へと変えることがねらいで、まさに食品産業のための「ビジネス化した食育」でした。そこには、食を通じた農業への視点、食文化といったものがひとかけらもありません。

 その証拠にマクドナルドの「安心素材が商品になるまで」というサイトでは、加工や配送を通して店頭に出るまでの過程は示していても、だれがどこで作ったのか、まったくわかりません。

 またスローフード運動とはそもそも“ファストフード”“ファストライフ”という「全世界的狂気に立ち向かう」(スローフード協会の「スローフード宣言」)立場で生まれた運動です。スローフード運動を日本で最初に紹介したノンフィクション作家の島村菜津さんは「『スロー』の言葉の意味が十分に消化されることなくはんらんしている」と危ぐします。

 そもそも、種イモを植えてからジャガイモが収穫できるまで四〜五カ月かかるのも、子牛を農家が二〜三年、丹精込めて育てて牛肉を作るのも、いわば当たり前の話。だからファストフードも「スローにつくられている」というのは、スローフード運動を愚ろうするものにほかなりません。

 昨年末から今年にかけて、マクドナルドのメニューだけを一カ月間食べつづけたドキュメンタリー映画「スーパーサイズ・ミー」が上映され、ファストフードへの風当たりが強まりました。今回の「スロー」「食育」コマーシャルは、これへの同社の危機感の現れともいえそうです。


日本の伝統的な食文化を壊した張本人

家庭栄養研究会・蓮尾隆子さん

 政府は、二〇〇一年のBSE発症を契機に、自らの失政を挽回しようと、食育に力を入れ始めました。政府の「食育」政策以前から、食教育の重要性を指摘し、活動してきた私たち消費者は、食育基本法の立案に際しても、政府に対し、意見を述べてきました。

 意外にも、食品業界は、すばやく食育に取り組む姿勢を明らかにして、さまざまな形でアピールを始めています。注目すべきことは、子どもの食習慣、食への価値観を考えるうえで、ファストフードの影響力は大きいものがあります。これはファストフードが誕生して以降の業界の戦略でもあったからです。

 日本マクドナルドの創始者、故・藤田田氏は「人間は十二歳までに食べていたものを一生食べていく」とのべ、子どもの食にターゲットを絞って、食嗜好(しこう)を変えてきました。さらにスナック菓子の台頭で間食が主食化し、インスタントラーメン、カップラーメンの登場で主食の間食化が進みました。

 いま「三食ともハンバーガーでも大丈夫」「牛丼三食でも飽きない」という若い人が増え、日本人の味覚を変えてしまいました。「早いことはいいことだ」というファストフード文化は、待つことができない子どもを作り出しました。

 食卓から個性豊かな安心できる味、伝統的な食生活が遠ざけられています。ファストフードなど大手食品産業は、日本の伝統的な食文化を壊した張本人。そんな業界が、どんな食育をするのでしょうか。

 命と健康も憲法に保障された基本的人権です。食は農業政策そのものでもあります。安全・安心な国産の農畜産物がきちんと保障されることが必要です。食料を自給できる国の政策がないと、「食育」がきちんと位置づけられないと思います。

 「食育」を食品業界ばかりに任せるのではなく生産者、消費者がお互いに交流し、共感し合って食育に携わる必要があります。ビジネス化した食育でなく、心と体と社会の健康を高め、自らが感じることができる食育が求められます。


企業の広告、PR文句になっているスローフード

ノンフィクション作家・島村菜津さん

 先日、イタリアで開かれたスローフード協会の会合に出席しました。マクドナルドの「スロー」のコマーシャルを参加者に見せたら、みんな大笑いしていました。

 最近、「スローライフ」が高層マンションの宣伝に使われたりと、「スロー」の言葉の意味が十分に消化されることなくはんらんしています。企業の広告、PR文句になってしまっています。マクドナルドだけでなく、食品産業全体が「スローフード」を言い出して、困ったものです。

 スポンサーの顔色をうかがいながら、ファストフードを取り上げる日本のテレビ、雑誌も、批判の部分がなえてしまっていて問題です。大都市のメディア、巨大化した広告の世界では、ものづくりの視点が遊離してしまっています。

 ものづくりの現場に足を運び、生産者から話を聞くのが、私の実体験から言えば一番です。うまい、安心への近道だと思うのです。農家民宿への宿泊、農業体験など生産者と消費者が交流する機会が増えることを希望します。

 徐々に収束してきたとはいえ、企業の宣伝手段になっている「スローフード」という言葉。一方、いま国内で、日本のスローフード協会が三十八まで増えました。地域の運動と一緒に歩みながら、広げていきたいと考えています。

 北海道で遺伝子組み換え(GM)ジャガイモの作付けをモンサント社がブレーキをかけている理由は「マクドナルドがノーと言ったから」だそうです。それほどマクドナルドなど大手食品業界は大きな社会的影響力を持っています。

 マクドナルドが「スローフード」を標ぼうするなら、本格的に取り組んでみてはどうでしょうか。どうなるか、見ものですが。


生産者の顔がみえ安全・安心な物を消費者の元へ

茨城県谷和原村の農家、市川和子さん(64)

 「安全、安心な農産物を」の声に応えて、二十五年間、産直に取り組み、消費者と交流を深めてきました。子どもたちの農業体験も積み重ね、消費者に支えられながら、顔の見える農業をめざしています。

 農業とは、土つくりから始めて、種をまき、風雪に耐えて生長した農作物を収穫するもの。生産者の顔が見えないファストフードの食材とは根本から違います。食べ物が、どうやって消費者の手に届くのか実感させるのが食育ではないでしょうか。

 地産地消を進め、食の安全について考える。台所でお互いの顔が見え、命と暮らしを支えあう。稲刈りを実際に体験してもらうなど、消費者との交流をさらに深め、企業の宣伝ではない、私たちの食育を進めていきたい。

(新聞「農民」2005.9.26付)
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2005年9月

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