「農民」記事データベース20051003-702-05

WTO体制下、女性の悩み、要求はみんな同じ

ビア・カンペシーナ東南・東アジア女性会議に参加して


 「WTO体制に苦しむアジアの女性農業者の経験を交換しよう」「WTO香港閣僚会議に向けて女性の力を結集しよう」――。八月二十二日から二十五日にかけて、韓国で「ビア・カンペシーナ東南・東アジア女性農業者リーダー会議」が開かれました。

 主催したのは、同国の女性農民組織、KWPA(韓国女性農民連合)とビア・カンペシーナ地域事務局。インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナム、東ティモール、日本の各加盟組織から女性の農民運動指導者が集い、WTOのもとでアジアの女性農業者の実状と運動の方向を交流しました。

 農民連から参加したのは、女性部長の高橋マス子さんと青年部幹事の杵塚歩さん。日本の女性農業者としてどのような印象を受けたのか、またこの会議をどう評価するのか―二人に聞きました。

農民連女性部 高橋マス子
農民連青年部 杵塚 歩 


“香港では同じ服着てデモ行進を”
“女性の視点で、笑顔で語り合った”

 ――女性農業者リーダー会議では、二十二日に晋州市で集会と農場視察、二十三、二十四日にはソウル郊外で「女性農業者に対するWTOの影響についての国際セミナー」と内部会議が開かれたそうですね。

 WTOは女性の役割を破壊する

 高橋 冒頭のあいさつでKWPAのユン・グエン・スン会長は、「人類の歴史のなかで、女性が農耕を始め、そこで定着が生まれた。女性農業者は人類発展のシンボル、衣食住を支えてきた。WTOはその女性の役割を破壊する」と発言しました。

 私個人としてもすごい勇気をもらった言葉です。WTOのもと、各国の女性農業者がおかれている状況を理解し、同じ境遇にあるということを知ることはとても大切。これを力にして国内の運動を広めていければと思っています。

 杵塚 会議では、WTO香港閣僚会議に向けて、東南・東アジアが中心になって行動しようということを確認しました。香港で女性の集会を開くことで合意し、デモ行進で上が白、下が黒という服装に統一しようという話もでました。

 私が印象に残ったのはタイの女性たちの発言。「農村での女性の役割と農業、文化的な面も含めて祖母から受け継ぐ伝統が根付いていたが、WTOが入ってきたことにより、いままでの農業のやり方が変わった」と言っていました。種子の管理などは、女性の仕事だったのに、それを取り上げられ、外国や都市に移る女性が増えているそうです。

 どこの国でも女性が活発に

 高橋 WTO体制に日本の農村女性も苦しんでいると発言したら、インドネシアの人たちが「日本の農民も、インドネシアも同じ」と話を引き継いでくれました。各国の代表はきちんと私たちの発言を受け入れてくれました。

 各国の代表は、農村の文化と伝統を守ることを強調していました。東ティモールは、「長い植民地政策でプランテーション化が進み、農薬多投でひどく荒廃した農地を伝統的な農法で回復しようと呼びかけている」と言います。

 インドネシアは、「独自の販売ルートを持ち、女性たちがつくった花、農産物、工芸品などを売るシステムをつくりあげた」と発言していました。

 農村のくらしに焦点をしぼった発言が多く聞かれ、アジアの女性たちは努力してたたかっているという印象を受けました。杵塚さんは、若者の問題を聞いていましたね。

 杵塚 各国の農業後継者はどうなのかと思い質問しました。どの国の若者も都市や外国に流れていくという状況は同じ、後継者不足は深刻だということでした。農業の現状が厳しくて、親が大学や都会に行くことを勧めるそうです。

 晋州市では、だいぶ女性が組織されていて、女性の要求が実現されているなと感じました。KWPA晋州支部の建物には、保育園がありました。家事をしながら育児もし、農作業までしなければならない女性農業者への配慮からです。また、この市では、二〇〇六年から学校給食に使えるものはすべて、地元のものを使うことを決めていると聞きました。女性の運動があってこそだと思います。

 女性の職業的能力高めよう

 高橋 晋州市の市長があいさつで「農業を守っていくことが大切。それには、女性農業者の参加と協力が必要だ」と発言するほど、女性の農民運動が活発な地域です。

 KWPAは、農村で自分たちの組織をもつ必要性を感じ、なおかつ農村の封建的な状況のなかで女性だけの組織を作る必要があったと言います。

 一つの家族のなかで夫がKPL(韓国農民連合会)、妻がKWPAという家も多いそうです。「男性の運動体に女性が入ると男性上位になってしまう。だから独自に女性の組織を立ち上げた」と言っていました。

 会議では、女性の職業的な能力を高めることを重要視する発言も多かったですね。

 杵塚 各国とも、読み書きから工芸品のつくり方、販売のし方、パソコン技術の習得まで幅広くトレーニングを行っています。インドネシアでは、農業技術トレーニングやWTOの学習会が開かれています。

 近年、多くの国々で有機農業や持続可能な農業の重要性が見直されています。フィリピンでは、バナナ、ココナッツ、マンゴーなどを利用した堆(たい)肥づくりに取り組んでいます。今まで外国から輸入された高価な化学肥料や農薬によって農民の生活は圧迫されてきました。この状況を打開するためにも有機農法や地域の伝統的農法への転換は無くてはならないものだと感じました。

 基地をなくして平和なアジアを

 高橋 韓国には、フィリピンやタイから来た農村花嫁が増えています。KWPAは、その外国人花嫁も受け入れ、援助しています。

 家庭内暴力の問題についても各国で取り組んでいます。ベトナムでは、調査、摘発を徹底し、男性に対して女性を大切にするよう教育しているそうです。

 杵塚 今回、一番良かったことは、行ったこともない国の人たちと笑顔で話ができるようになり、心の中の距離が縮まったこと。女性の視点、立場からの意見をたくさん聞くことができ、学ぶことが多かったです。

 高橋 ビア・カンペシーナ東南・東アジアの女性代表も兼ねるKWPAのユン会長は「韓国はまだ戦時下だと思っている。南北の統一は、まず米軍の撤退から」と語っていました。

 私の家は、厚木基地のすぐ近く、夜間発着訓練を繰り返す米軍機の真下に畑があるんですよ。はっきりと「戦時下」と言うユンさんの言葉が胸に突き刺さりました。

 憲法九条を守り、日本を再び戦時下にしてはいけないと、あらためて思いました。

(新聞「農民」2005.10.3付)
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2005年10月

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