「農民」記事データベース20060522-732-04

食料主権宣言(案)(4/5)

日本と世界の食と農をますます危機
に追い込む政策の転換をめざして

二〇〇六年五月 農民運動全国連合会

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(2) 「担い手減らし」政策をやめさせ、 地域と農地を守る

表1 フランス青年農業者就農助成金の水準 政府が来年から実施することをねらっている「品目横断的経営安定対策」は、動き出す前に破綻しつつある。“愛する集落のために農業から手を引け”という掛け声のもとで進められている集落営農組織化のなかで、これまで営々と規模拡大に取り組んできた農家からの“農地の貸しはがし”が続出している。小麦や大豆の生産から締め出される「非担い手」農家は米以外に作るものはない。いずれも「構造改革に逆行する」(17)事態である。最初に紹介したように、農水省の推計でも「担い手」は現在の販売農家戸数の四分の一にすぎない。少なくない農協が「なぜ協同組合の基盤である組合員減らしをしなければならないのか」とためらっている。また、「品目横断的経営安定対策」が育成する「効率的で安定的な担い手」は、「効率的」ではあるかもしれないが「風にそよぐ葦(あし)」のような不安定をまぬ がれない。

*せめてフランスなみの後継者育成策を

図9 フランス青年農業者助成金の受給者の推移 これは「担い手育成」どころか、「担い手減らし」策である。フランスは一九七〇年代なかばから農業後継青年助成制度を実施し、「三十歳代後半から五十歳代前半の壮年の男性経営主が農業経営の中核的担い手」(18)になっている(表1、図9)。日本農政は、これまでも「担い手減らし」政策をとり続けてきたが、せめてフランスの爪(つめ)のあかでもせんじて飲んではどうか。(図10)

*地域農業と農地を守る共同を

図10 「担い手」を減らし続けてきた日本政府 私たちは、国会に提出された「担い手法案」の審議停止と撤回、がんばる農家すべてを対象にした政策への転換を要求する。三月には経済産業省が電気用品安全法にもとづく中古家電の販売禁止を事実上撤回せざるをえないはめに追い込まれたが、欠陥だらけの「担い手法案」がその轍(てつ)を踏まない保証はない。

 いま、農村では「品目横断対策に乗り遅れるな」とばかりに受け皿作りを最優先した動きがさかんである。その反面、大規模農家から小規模農家、集落営農、任意の作業受託組織、農業生産法人など多様な主体が存在する地域の条件を無視して机上の線引きを行い、本来自主的な営みである農業と集落のありようを金で釣って「改革」することに対する批判の目は冷たく厳しい。品目横断対策に期待した人たちの間からも「こんなはずではなかった」「これでは農業は守れない」という声があがり、「改革」が模範とする大規模経営が展開している北海道・十勝の中心部で「品目横断対策の中止」を求める議会の意見書が採択されている。やむなく品目横断対策を推進させられている自治体や農協、農業委員会の願いは「一人でも多く『担い手』にしたい」「一人ももらしたくない」ということであるが、政府は「構造改革の趣旨に合わないものは認めない。認定はあくまで政府がやる」と冷たく拒否している。説明すればするほど混乱が広がっているのが実態である。

 私たちは、「改革」をめぐって「集落と農地を守るのは農民の責任だ」「補助金をもらうかどうかではなく、地域を守るにはどうすればよいか、これこそが焦点だ」という真剣な話し合いと模索が各地で行われていることに注目する。長野県栄村の高橋彦芳村長は集落営農について「どれだけ多くの農家が農業を営みながら生きていくことができるかが問題だ。農家がいなくなっても農業が続けられるなどというのは、地域の崩壊を心配しない者の言うことだ」と述べている。集落営農を含む集落の助け合いは、こういう精神で実践されてきた。

 「ものを作ってこそ農民」である。私たちは、地域の農業と農地を守ることを最優先に、地域の条件と農家の意向を踏まえた多様な作業の共同、機械の共同利用などの助け合いを進めることをよびかける。加工、地産地消、多様な販路の確保まで視野に入れた地域農業の振興を自治体・農協ぐるみで推進しよう(19)

(3) 農地制度と農協の解体を許さない

 東南アジアを含む発展途上国の多くでは、完全な農地改革が実施されていないうえ、最近は外国資本を含む大企業が農地を農民から取り上げるという事態が進んでいる(20)

 一方、日本は、戦後すぐに徹底した農地改革が行われ、それによって生まれた家族経営をバックアップするために(a)生産コストを償う生産者価格を保障する価格保障政策、(b)地主制度の復活と大資本による農地所有を阻止することを目的に、農地の所有と利用を農民だけに限定した農地制度、(c)農民の協同組織を発展させるための農業協同組合の三つの政策が柱にされてきた。

 しかし、WTO発足後、政府と財界は価格保障政策廃止に着手し、続いて農地制度と農協の解体がもくろまれている。奥田経団連会長(トヨタ会長)は「あらゆる面から考えて、農業改革は待ったなしだ。『家族的営農』という何千年も前からのビジネスモデルを根本的に改革する必要がある」(21)と述べた。これは、家族経営を解体して巨大企業が農地と農業生産を支配して新たなビジネスチャンスにするという宣言である。また「規制改革・民間開放推進会議」は「第二の農地改革」を呼号し、農地の所有と利用を農民だけに限定した農地制度(耕作者主義)の廃止を要求している(22)。農業協同組合についても、農民の協同組織としての性格を否定し、その事業の解体と巨大企業への引き渡しを要求するにいたっている。

 しかし、「土地は地球の一部として生活から生産までおよそ人間生活のすべての絶対的基盤であり、労働の生産物でないがゆえに有限である。……土地を、一部の大企業や大金持ちの金もうけや支配の道具にさせることなく、どう公正に国民全体の用益に供すべきか――が土地問題の核心である」(23)

 いま、日本の政府と財界がもくろんでいる「第二の農地改革」は、歴史の進歩に逆行する。農地制度を守ることは、憲法九条を守ることと並んで、国際的にも大きな意義がある。私たちは、「農」に関係するすべての人々、広範な国民と共同して奮闘する。

(新聞「農民」2006.5.22付)
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2006年5月

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