世界的視野で食料主権の確立をめざし、
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米国産牛肉の輸入再開や遺伝子組み換え食品のはんらん、自給率の低下など、食の安全と安定供給を願う国民との矛盾が大きく広がっています。
こうしたなかで農民連は、「ものを作ってこそ農民」「もう一つの流れを強く大きく」を合言葉に悪政と対じしてきました。そして、農民の要求を実現する運動、農業構造改革を許さず地域を守る運動、安全で国民に信頼される農産物の生産を拡大して食糧自給率を向上させるとりくみ、広範な国民との共同を生かして農産物を提供するルートの拡大、憲法改悪を許さないたたかいに全力をあげてきました。
農業つぶしの政治に立ち向かった農民連の運動は、多くの農民や農業関係者、広範な国民に共感を広げ、影響力をさらに広げています。
また、政府を追い詰め、農政を揺り動かしてきました。
政府は、WTOの弊害を省みず、WTOを絶対視して巨大企業(多国籍企業)の海外進出の促進と引き換えに、WTOやFTA(自由貿易協定)交渉で市場開放をいっそう進めることを前提に、戦後農政を“総決算”する農業構造改革を推し進めてきました。
農民連は、こういう政策が強行されれば、日本の農業と食糧がさらに危機的な状況に追い込まれることを警鐘乱打し、WTO・FTAと日本政府が追求する破滅的な方向に対する根本的な対案は食糧主権に基づいた貿易ルールと農業・食糧政策の確立であることを明らかにしてきました。そして、食糧主権の立場に立った農政の方向を示す『食糧主権宣言(案)』を提案してきました。
また、国際的農民組織「ビア・カンペシーナ」(スペイン語で「農民の道」の意)に〇五年五月に加盟し、「WTOから食糧主権へ」の国内の運動と結んだ国際連帯の運動に力をつくしてきました。
「ビア・カンペシーナ」に加盟後、はじめての大規模な国際的行動であったWTO香港閣僚会議行動(〇五年十二月)には食健連などの仲間を含め百八人が参加して農業交渉の「合意」を断念させることに貢献しました。また、その後、交渉凍結を宣言せざるを得ない事態に追い込むうえで大きな役割を果たしました。
第十六回大会で提案した「行動綱領の一部改正」は、同大会の承認のもとに〇五年の全国委員会で全員一致で採択されました。「行動綱領の一部改正」は、国際連帯を明記するなど、今日の情勢や運動課題を補強するものでしたが、国際連帯を前進させる大きな力になっています。
農民連ふるさとネットワークは、中小の米卸や米屋さんと共同した「準産直米」のとりくみを中心に、労組などを含めた多様な販路の拡大、「ふるさとギフト」などのとりくみ、国内産牛肉の産直やルート作りの努力などのとりくみを前進させています。また、学校給食への地場産農産物の提供や直売所など多様な地産地消のとりくみ、経験交流や研修会などのとりくみを発展させています。
こうしたとりくみは、大企業の流通支配の強まりのもとで、国内産の安全・安心な農産物を求める消費者の要求を第一にした、「もう一つの流れ」をつくるものです。また、多数の農民を生産から排除する暴政を許さない草の根からの国民合意をつくる運動であり、食糧主権に接近する地域からの実践としても重要です。
輸入野菜や果実、学校給食パンなどの残留農薬分析、豆腐等の遺伝子組み換え、米や産業廃棄物の重金属分析など、国民の安全を守るうえで大きな役割が期待されます。
食品分析センターの機能強化のために募金に協力してくれたすべてのみなさんに感謝します。
井上ひさし氏をはじめ、日本の良心を代表する九氏が呼びかけたアピールに賛同が大きく広がり、「九条の会」が短期間に五千を超える地域・階層に結成され、増え続けています。農業分野でも「農林水産九条の会」が全国といくつかの道府県で立ち上げられるなど、「憲法を生かしてこそ農業が守れる」「九条を守れ」の世論と行動が急速に広がっています。また、 「九条田んぼ」など農民らしいアピール効果の高い創意あるとりくみも各地に広がっています。
こうしたなか、税金をはじめとした多面的な要求を実現する運動、「農民連ふるさとネットワーク」と力をあわせた生産の拡大や地域ぐるみの地産地消、準産直米など多面的な販売ルートを切り開くとりくみは、多くの農民に喜ばれ、営農への展望を生み出しています。全国的にとりくんでいる農協との懇談や共同の申し入れのなかで、農協攻撃の本質が確認され、『食糧主権宣言(案)』への共感や、共同して地域農業を守る合意を広げています。
こうした運動の広がりのなかで、「日本販売農業協同組合連合会」(二十農協・十二万人で構成)が農民連に加盟したことは、農協組織のなかでの注目すべき変化です。この間の農民連の方針と運動の発展の成果であり、農民連への期待の大きさを示すものです。
組織づくりでは、高齢化や離農などによる世帯会員の減少や、新聞「農民」読者の後退に歯止めをかけ、前進に転じるために「春の仲間づくり大運動」や集中的な拡大運動のとりくみなどに全力をあげてきました。
こうしたなかで会員と読者を飛躍的に前進させた奈良県連など、いくつかの県連や単組が前進を勝ち取っていることは貴重な成果です。
拡大運動の教訓は、今日の農業情勢に立ち向かってたたかっている農民連の優位性と新聞「農民」の紙面に確信をもって働きかければ飛躍は可能であり、目標を達成する確固とした構えでとりくめば拡大運動を前進させることができるということでした。
農家の暮らしの場面にまで踏み込んで要求をとらえ、元気な農民連の姿をアピールして果敢に打って出ること、農家の生産意欲を引き出す生産活動を強めること、地域全体を視野に入れた農民の多面的な組織化と新聞「農民」読者拡大を大きく広げることが求められています。
その結果、平均年収が百二十万円程度の非正規雇用が三百万人ともいわれ、農民を含めて「ワーキング・プア」といわれる働く貧困層が日本の全世帯の一〇%(四百万世帯)にも及んでいます。また、高齢者を狙い撃ちした増税によって住民税が十倍にもはね上がり、これに連動して介護保険料、国保料の負担が増え、市役所や役場に千人以上の人が押しかけるという事態も起きています。さらに生産コストを大幅に下回る米価や農業構造改革による農業破壊、生産拠点の海外移転や輸入による地場産業の破壊、自治体合併の押し付け、“三位一体改革”、郵政民営化、農協支所廃止などによって、住み続けることのできない農山村という事態にますます拍車がかかり、都市と農村の格差を著しく拡大しています。
安倍新内閣は、小泉内閣がつくりだした弊害への国民の怒りを無視できず「再チャレンジできる社会」「都市と農村の格差是正」などといわざるをえなくなっています。しかし、安倍内閣がやろうとしていることは小泉「改革」の継承であり、消費税増税など、国民への税収奪、高負担、農業つぶしの押しつけなど、ますます格差を拡大する政治です。こうした悪政は、自公政治と国民との矛盾をますます拡大し、暮らしを守る共同を大きく広げる条件をつくっています。
また、麻生外務大臣や中川昭一自民党政調会長が「核武装」の議論を容認する発言を繰り返していることは、日本の平和と安全にとって絶対に容認できません。国連安保理決議が示す、国際社会が一致して平和的外交的努力で解決することこそが重要です。
戦争と平和をめぐる重大な情勢のなかで、核大国アメリカは、日本を新たな世界戦略の拠点として日米同盟を再編強化するねらいを強めています。アメリカ言いなりの日本政府は、三兆円もの米軍基地移転費用の負担を受け入れるなど、アメリカの世界戦略に加担しています。こうした危険なねらいに対し、基地の固定・強化に反対する自治体ぐるみの反対世論が大きく高まり、政府を追い詰めています。
憲法改悪のねらいは、自衛隊がアメリカと一緒に、あるいはアメリカの代わりに海外で武力行使できるようにすることにあります。改憲は九条に集中的に向けられていますが、国民の生存権と社会保障の権利を規定した二五条をはじめ、国民の生活や人権、憲法を土台にしたあらゆる分野に向けられています。
農業との関係では、農地制度と家族経営を軸にした戦後農政の枠組みは、憲法を基礎に形づくられたもので、憲法改悪を許せば、農業構造改革がさらに全面的に推進され、私たちが要求している食糧主権の実現への重大な逆行になります。
同時に、情勢は緊迫していますが、改憲勢力のねらい通りに進んでいないことを正しくみることも重要です。「9条の会」の広がりや、民主勢力による「憲法改悪に反対する共同センター」の運動など、憲法改悪を許さない世論と運動も急速に広がっています。
国のあり方の根本に関わる憲法改悪を許さず、憲法を生かした政治を実現するたたかいは、最重要課題です。
しかし、発足十年後の〇六年七月二十四日の決裂を経て、WTO交渉は破たん状態におちいっています。それは、不透明な交渉の中心になってきた「G6」の一翼を担うインドの商工相が「交渉は死んではいない。だが、火葬場と集中治療室の中間にいる」と述べたことからも明らかです。
農民連は、今日の事態を歓迎します。WTOとのたたかいの先頭に立ち続けてきたビア・カンペシーナは「ドーハ・ラウンドは死んだ! 今こそ食糧主権を実現する時だ」という声明を発表し、WTOに対する根本的な対案である食糧主権の実現を世界に呼びかけています。
もちろん、新自由主義的グローバリゼーションを推進する勢力は、なお反動的な打開の方向を追求し、今後、紆余(うよ)曲折があるでしょう。
しかし、世界の農業・食糧問題と貧困の元凶であるWTO体制から脱却し、食糧主権にもとづく各国の自主的な農業政策と貿易ルールの確立に向けて大きな歩みを踏み出す可能性が開けている――いま、私たちは、そういう歴史的な地点に立っています。
看護師・介護士の「輸入」は、日本の労働者の労働条件の掘り崩しにつながるとともに、フィリピンの医療体制をさらに危機的状況に追い込むことは必至です。フィリピンのNGOが「日比EPAは、フィリピンの真の国内産業の成長と経済的発展のための道を閉ざす。一方、日本は、東南アジアをメーカー専用の市場とみなすと同時に、安い農産物、鉱物、原材料の供給地とする方向を加速させている」と批判しています。現在進んでいる事態は、「国際分業」というよりは国境をまたにかけた「企業内分業」であり、資本の利潤追求を最優先にした世界・アジア経済の再編です。
すでに飽和状態の果実の輸入を、さらに拡大することは、国内産の熱帯果実はもちろん、みかん・りんごなど果実生産全体、ひいては日本農業全体に対する打撃になることは必至です。
また、「攻めの農業」なるスローガンにもとづいて、東南アジア諸国への梨やりんご、ぶどうなどの輸出拡大約束が「成果」として誇大宣伝されています。しかし、これはアジアの一部の金持ちだけを相手にしたわずかばかりの輸出が日本農業の危機を打開できるかのように描く「目くらまし」であり、輸入自由化の「呼び水」です。
また、フィリピンとのEPAでは「小農への配慮」の美名で小型パイン・バナナの無税枠設定や十年後の関税撤廃が盛り込まれていますが、これは、現在は自給的性格を持っている小型バナナに対する多国籍アグリビジネスの支配を拡大し、フィリピン農業を自給的生産の放棄と輸出型農業にさらに追い込むとともに、小型パイン・バナナの輸入拡大が沖縄農業を直撃する点で重大です。
[2006年11月]
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