「農民」記事データベース20061113-756-06

世界的視野で食料主権の確立をめざし、
地域で農業と農村を再生する運動を広げ、
強固な農民連をつくろう!(2/5)

農民連第17回定期大会決議(案)

二〇〇六年十一月一日 農民運動全国連合会常任委員会

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 3 WTO・FTAから食糧主権へ

  (1)WTO・FTA以外に道はないのか――広がる「食糧主権」を求める世論と運動
 WTOの破綻は、WTO流の自由貿易主義・新自由主義的グローバリゼーションからの脱却を求める批判と運動の広がりの結果です。

 日本を含む「先進国」の侵略と占領・収奪によって遅れて経済発展の道を歩まざるをえなかった発展途上国に「自由貿易万能主義」を押しつけるのは不公正であり、未来はありません。WTO・FTAが進める未来は、農業のない国(日本)と外資が支配する国々(発展途上国)への特化です。

 いま、こういう未来を拒否し、食糧主権を求める世論と運動が世界の流れになっています。

  (2)農業・食糧分野の根本的な対案「食糧主権」
 食糧主権は、WTOスタートの翌年、一九九六年にビア・カンペシーナがWTO・新自由主義体制に対する根本的な対案として提唱し、「もう一つの世界」を求めるNGOの運動のなかで合意が前進しています。食糧主権は、すべての国と民衆が自らの食糧・農業政策を決定する権利、すべての人が安全で栄養豊かで、民族固有の食習慣と食文化にふさわしい食糧を得る権利であり、食糧を家族経営・小農が持続可能なやり方で生産する権利です。

 私たちは〇五年十二月の香港閣僚会議行動や〇六年五月のビア・カンペシーナ・フォーラムなどで、「WTOから食糧主権へ」こそが世界の流れであることに確信を深めましたが、WTOが破綻に直面しているいま、この流れをさらに強く大きくする絶好の時です。

  (3)国連機関と世界で強まる食糧主権確立を求める流れ
 食糧主権確立を求める流れは国連機関や一部の政府の間でも強まっています。西アフリカのマリでは、食糧主権を国の農業法の基本原理として盛り込んでいます。二〇〇四年に開かれた国連人権委員会で、WTOに代えて「食糧主権が提起しているような新たな対抗モデルを検討する」ことを各国に求める勧告が採択されたのに続き、二〇〇六年三月にはFAOが主催した「国際農地改革・農村開発会議」(ICARRD)の「宣言」に食糧主権が明記されました。さらに、政府機関とNGOで構成される世界自然保護連合(IUCN)は、生物多様性と飢餓根絶のために食糧主権を確立すべきだという決議を採択しています。日本政府は、これらの勧告や決議にいずれも賛成しています。

(3)戦後農政を“総決算”する農業構造改革

 1 単なる農政の改変にとどまらない 「戦後農政の総決算」

 戦後改革で戦前の軍国主義と絶対的天皇制を支えた寄生的地主制が解体され、生み出された家族経営(自作農)を基本に、日本農業の復興・発展をめざす枠組みが作られました。その柱は農地制度や価格保障制度、国境保護措置であり、農業協同組合、農業改良普及事業、農業災害補償、融資制度などです。農業構造改革は、WTOと財界の要求を最優先して戦後農政の枠組みを否定・破壊するものです。

 こうしたねらいを覆い隠すために、財界や御用学者は家族経営を「何千年も前からのビジネスモデル」(奥田前日本経団連会長)だとして「農業からの撤退」を求め、全農家対象の価格保障を「ばらまき」だと攻撃し、小規模農家や高齢化した農家を「非効率」だとして邪魔者扱いしています。

 2 農業を危機に追い込み、 食糧自給率を低下させる 「品目横断的経営安定対策」

  (1)多数の農家を農政の対象から排除し、自由化の嵐に放り込む
 〇五年秋に政府が打ち出した品目横断的経営安定対策は、農業構造改革の中心であり、「担い手づくり」の名のもとに販売農家の四分の三(政府試算)、全農家の九割を農政の対象から排除することに最大の特徴があります。この政策が強行されれば、国内生産の縮小による食糧自給率の低下は避けられず、日本の農業と食糧がさらに危機的な状況に追い込まれることは必至です。

 政府は、農家の減少、高齢化などによる生産構造のぜい弱化を品目横断対策の口実にしていますが、今日の農業・農村の危機的現状を招いたのは歴代の自民党政治にほかなりません。その責任を棚上げして「構造改革」にすり替え、「WTOルール」を絶対視した農産物の関税引き下げ・廃止を前提に、全農家対象の価格保障を廃止して「担い手」に限定した品目横断対策(米、麦、大豆、てん菜、でんぷん原料ばれいしょ)を実施しようとしています。野菜、果樹、畜産についても、担い手のみに施策を集中する方向が打ち出されています。

  (2)冷酷な本質をむき出しにする「品目横断的経営安定対策」
 品目横断的経営安定対策の法案審議に際して、中川昭一農水相(当時)が欠陥を認め、今後の見直しを言明せざるをえなかったように、制度の開始前から矛盾と混乱が深まっています。

 品目横断的経営安定対策の個人の面積要件は四ヘクタール(北海道は十ヘクタール)ですが、他産業並みの所得を得るためには最低二十五ヘクタール必要であるというのが農水省の見解です。

 今の基準でさえ圧倒的多数の農家がクリアできませんが、今後、さらにハードルを高くして認定農家をさらに絞り込むねらいであることは明らかです。

 集落営農についても、五要件のうち規約と一元経理をクリアすること、他の三要件(集落農地の三分の二の集積、所得目標の達成、法人化)は五年以内の努力目標であるとして、特定農業団体(法人)づくりが進められています。

 いまある集落営農のほとんどが転作受託組織です。しかし、強引な農地集積への反発や経営展望が見いだせないことなどから、集落営農組織から離脱する農家が相次ぎ、設立直後に解散に追い込まれる事態も生まれています。

 一方、品目横断的経営安定対策への加入を断念して集落の助け合い組織の道を選択するケースも生まれています。

 農水省は「集落営農でカバーするから、生産からの排除ではない」と強弁します。しかし、主たる従事者以外の農家は「土地持ち非農家」にならざるをえず、生産からの締め出しそのものです。

 このように、価格の下支えのない直接支払いや、農民を差別・選別して生産から締め出す政策を実施しているのは世界の中で日本だけです。

 こうした矛盾を無視して自治体、農協、農業委員会などを総動員して推進しているにもかかわらず、〇六年十月末までに品目横断的経営安定対策に加入を申請したのは認定農家で三千八百八十七人で小麦生産農家の四・二%、集落営農組織は三百九十五団体にすぎず、四麦作付面積の一四%をカバーするにすぎません。

(4)作られた異常米価の仕組み、主食の安定供給の責任を放棄した政

府  「米改革」が始まって以降の三年間、豊作が一度もなく、国内産米の繰越在庫が過去最低にもかかわらず米価は下がり続け、生産者の手取りは全国平均で生産費を四千円(六十キロ)も下回る事態が続いています。

 米価下落の原因は、(1)政府が米の管理責任を放棄したもとで、計画的な供給が崩され、米が集中する出来秋に価格が下落する仕組みがつくられたこと、(2)大手スーパーや大手外食産業、そして大手米卸が価格破壊と買いたたきを繰り返していること、(3)政府自ら備蓄米購入で買いたたきの先頭に立ち、売却では六千円、七千円(六十キロ)の超古米を放出して市場をかく乱していること、(4)この秋、大手卸が全国で中国産米を五キロ九百八十円の超低価格で販売して新米時期の米価引き下げに一役買ったこと、(5)在庫が二百三万トンも積みあがった(〇六年三月現在、保管経費は年間二百七億円)ミニマム・アクセス米も米価下落の強力な圧力になっていることなどです。

 政府は米の需給実態を覆いかくすために、期末在庫の基点を十月末から六月末に変えましたが、従来の十月末で見れば期末在庫は二年続けてマイナス状態で、国が直接責任を持つ備蓄米は〇四年古米まで食べてもわずか三十一日分しかない異常に低い水準です。たった一年の不作や作柄の遅れで米パニックを招きかねない事態にあります。

 〇七年産からは需給調整が民間任せになるため市場コントロールはいっそう難しくなり、品目横断対策から除外された農家にとっては、麦・大豆の転作が事実上不可能になることから一時的な米過剰も予想され、さらなる米価下落の要因になることも危ぐされます。

(5)安全対策を無視した米国産牛肉の輸入再開と国民世論の広がり

 政府は、食品安全委員会の科学的知見にもとづく答申を二度にわたってねじ曲げてアメリカ産牛肉の輸入再開に向けたレールをひた走ってきました。〇五年五月に日本の全頭検査から二十カ月齢以下を外し、同年十二月には「アメリカ、カナダのBSEリスクを科学的に評価することは困難」という答申の本旨を無視して、両国産牛肉の輸入再開を決定しました。

 しかし、翌年一月には、輸入したアメリカ産牛肉からBSE危険部位の背骨が見つかり、一カ月もたたずに再び禁輸に追い込まれ、アメリカのBSE対策のズサンさと、アメリカいいなりに輸入を解禁した日本政府の無責任さを浮き彫りにしました。

 農民連・食健連は、全頭検査の継続を要求して全国で運動を展開し、国の責任による全頭検査の緩和は強行されたものの、国の補助金で都道府県が二十カ月齢以下の牛を検査する状況をつくらせ、結果として今日でも全頭検査を継続させていることは重要です。

 また農民連、全国食健連とともに訪米調査団を派遣するなどアメリカのズサンなBSE対策の実態を暴露し、アメリカの圧力に屈して早期再開をめざす小泉内閣と対じし、国民的運動の中心的役割を果たしました。

 〇六年七月に政府は輸入再々開を強行しましたが、多数の国民はアメリカ産牛肉を拒否し、解禁後二カ月近くたった時点でも輸入量は八百五十四トンと、禁輸以前の二・六%にとどまっています。「アメリカ産牛肉ノー」の国民世論は、農民連・食健連運動が築いた貴重な到達点です。

(6)悪政に対抗した国民の変化を確信に

 品目横断対策への批判や不信が高まり、発足前から制度の破綻が予想される事態になっています。

 また、農業振興条例を制定するなど、農家の支援策や独自の担い手確保、地域の条件を生かして農業を発展させるために努力する自治体が広がっています。

 食の安全や生産者の顔が見える農産物を求める国民の要求もますます高まり、地産地消のとりくみがない地域はないといってもいいほど全国的に広がっています。

 流通の分野でも、大企業の支配や横暴に抗して、消費者の安全・安心の要求や、商店街の活性化の要求にもとづいて、農村や生産者と結びついた努力がはじまっています。

 国際的な食糧主権の流れを含め、こうした動きは、生活や生産点から生み出される、抑えることのできないもので、情勢のもう一つの側面であり、運動を発展させる条件でもあります。こうした点に確信をもって「もう一つの流れを」を強く大きくするために奮闘しましょう。

IV 運動方針

(1)今日の情勢のもとでの農民連の三つの役割

 国のあり方を規定する憲法改悪や、戦後農政を総決算する農業破壊政治、農山村の衰退など激動の情勢のもとで、農民の苦悩がかつてなく深まっています。今ほど農民運動の全国センターである農民連の役割発揮が求められているときはありません。

 今日の情勢のもとでの農民連の役割は、(1)憲法改悪を許さずに平和な日本をつくり、農業破壊の政治にストップをかけて価格保障を軸に食糧自給率を向上させる農村での共同の核を担う(2)生産を担い、活気ある地域づくりの先頭に立つ(3)「ものを作ってがんばる農民はみんな農民連へ」を合言葉に、地域農業を再生するために多数の農民を結集することにあります。

(2)食糧主権の確立を旗印に、草の根から国民合意を

 1 『食糧主権宣言(案)』の普及と国民的な討論・共同を

 食糧主権確立の運動の主戦場は日本国内であり、立ち向かう相手は日本政府です。農業・食糧を守り発展させる運動の基点に食糧主権の確立を据え、草の根から国民合意と共同を広げるために全力をつくしましょう。

 農民連が発表した『食糧主権宣言(案)』は、心ある人々の大きな反響を呼んでいます。

 『食糧主権宣言(案)』ブックレットの普及を数万部規模に広げ、地域で「食糧主権と地域農業」をテーマにした学習会を開き、農協など農業団体への働きかけも強めましょう。地方議会から意見書を積み上げ、政府に食糧主権の立場に立った政策への転換を要求しましょう。

 世界自然保護連合の決議などを考慮し、青年や女性、環境NGO、労働者、消費者など、これまでの枠組みを超えた人々と団体に宣言案を普及しましょう。「宣言案」であることの持ち味をいかし、国民的な代案の具体化や食糧主権概念の強化と発展を重視します。また、食糧主権の内容の希薄化や逆行を許さないことも重要です。

 2 政府に対する要求運動を強める

 国連人権委員会や国際農地改革・農村開発会議、世界自然保護連合などでの日本政府の対応と、国内での政策はまったく矛盾するものであり、不誠実そのものです。世界で最低クラスの食糧自給率に落ち込んでいる国の政府として、食糧自給率の向上と食糧主権確立の具体的なプロセスを示すよう運動を強化します。

 食健連の食糧自給率向上署名、食糧主権確立団体署名を大規模に展開し、食糧主権に逆行する農業構造改革に固執する政府を世論と運動の力で包囲します。

 3 地域から食糧主権の実践を

 地域から食糧主権の立場に立った実践にとりくむことが世論と国民合意を広げる力です。食の安全確保や地域の食文化を守ること、農山村切り捨てや品目横断対策に抗して、家族経営の持続を支援し、自治体ぐるみで生産を守るための多様な施策を展開すること、地産地消などのとりくみを広げることなどは、食糧主権に合致した運動であり、食糧主権への国民合意を広げる地域からの実践です。

 4 食糧主権を求める流れを広げる国際連帯

 〇七年二月に西アフリカ・マリでビア・カンペシーナが開催する「食糧主権のための国際フォーラム」は、国際的な食糧主権を求める運動の到達点を踏まえ、今後の戦略と計画を打ち出す重要な会議です。食健連とともに代表を送り、その成果をいかして「WTOから食糧主権へ」の流れをいっそう強める運動を国の内外で発展させます。また、アジア諸国の農民組織との交流を重視します。

 国際フォーラムの報告集会やシンポジウムなども検討します。

(新聞「農民」2006.11.13付)
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2006年11月

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