「農民」記事データベース20090209-863-05

食糧の買い占め・投機から外国の農地
の買い占め・農地の囲い込みへ

飢餓解消と食糧主権確立に逆行する重大事態


 FAOが“新植民地”システムと警告

 食糧の買い占め・投機から外国の農地の買い占め・囲い込みへ――いま、世界でこんな動きが急速に表面化しています。

 FAOのディウフ事務局長が昨年8月、「自国の食糧安全保障を強化するために海外に農地を確保しようとする動きが“新植民地”システムを作り出す恐れがある」と警告したほどです。

 食糧主権キャンペーンを熱心に展開しているNGO「グレイン」の報告書は「食糧・金融危機は農地を新たな戦略的資産に変えた」と指摘し、昨年10月に報告書をまとめました。

 同報告書や、イギリス紙「ガーディアン」「フィナンシャル・タイムズ」の報道をもとにリポートします。

広大なアフリカの農地

 日本の農地面積の1・6倍、 760万ヘクタール

 農地の囲い込みのパターンは次の4つ。

 (1)砂漠国で、もともと食料自給率が低い中東産油国が囲い込むケース。

 (2)食糧輸入を急増させている中国、韓国、日本によるもの。

 (3)バイオ燃料用に、ヨーロッパやアメリカ、日本、韓国、中国が、東南アジアやアフリカで、油ヤシやジェトロファ(南洋アブラギリ)、サトウキビ、トウモロコシをプランテーションで生産するパターン。

 (4)そして、もともとアメリカのアグリビジネスが展開してきたやり方、つまり「投資」の形をとって、バナナ、パイナップルなどの果物プランテーションを経営したり、大豆の生産・加工・貿易を支配するやり方です。

 このうち、最近目立つのは東アジアと中東産油国であり、「グレイン」などの調べで面積が明らかなものだけで、日本の農地面積の1・6倍にあたる760万ヘクタールを超えています(表1)。

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 サウジアラビア――小麦生産やめ海外に農地確保

 水不足のため、2016年までに小麦生産をゼロにし、ウクライナ、パキスタン、インドネシア、タイやスーダンで肥よくな土地を物色中。国がトウモロコシ、小麦、米などを海外で栽培する大規模プロジェクトを立ち上げ、後に民間企業が事業に乗り出す。すでにインドネシアに160万ヘクタールの農地を確保。

 中国――最も野心的な「海外で農業を」プログラム

 地球政策研究所のレスター・ブラウン所長によると「最も野心的な『海外で農業を』プログラムを持っているのは中国」。

 「グレイン」のリポートは「中国国内の農地と水供給の喪失は深刻であり、『海外に進出するほか、中国に道はない』と中国の農業科学者が指摘している」といいます。

 実際に中国はフィリピンに124万ヘクタールの農地を確保したのをはじめ、表1のように209万ヘクタールの農地を確保しています。

 さらに南アフリカのNGOによれば、モザンビークやジンバブエなどにも“アグレッシブ”(攻勢的)に拡大しています。

 韓国――37%が飢えている国で130万ヘクタールを囲い込み

 さらに韓国の「大宇ロジスティックス」は、韓国の農地面積の7割に当たる130万ヘクタールもの農地を借りる契約をアフリカのマダガスカル政府と結びました。トウモロコシとバイオ燃料用のパームオイルを生産して韓国に輸出する計画です。

 マダガスカルは飢餓人口が660万人で全人口に占める比率は37%。飢餓で苦しむサハラ以南アフリカの平均飢餓人口比率30%を大幅に上回っています。

 英国紙「フィナンシャル・タイムズ」(08年11月20日)によると、「大宇」は土地を無償で借り、“賃借”期間は99年間と半永久的。「大宇」は見返りに道路、かんがい、穀物貯蔵施設に投資するといいますが、「フィナンシャル・タイムズ」社説は、「明らかに新植民地主義的に見える」と批判しています。

 飢餓国の農地を囲い込み

 これらのケースに共通する深刻な特徴は、アフリカやアジアなど、飢餓が深刻な国の農地が囲い込まれていることです。

 表2のように、囲い込まれつつある面積は、飢餓に苦しむアフリカで237万ヘクタール、アジアで474万ヘクタールにのぼっており、現在判明している総面積の94%にあたります。

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 飢餓人口比率26%と東南アジア最高のカンボジアは、中東諸国やアジアと「広大な農地の貸与と引き換えに農業投資を受け入れる交渉を進めている」といいます。

 さらに、2人に1人が飢えているエチオピアの首相は、中東諸国の投資と引き換えに数十万ヘクタールの農地を提供することに「きわめて前向きだ」と語ったといい、紛争が深刻なスーダンでは、CIAと関係が深いアメリカの投資家が40万ヘクタールを確保し、バイオ燃料を生産するという調子です。

 日本のアグリビジネスは

 一方、食糧危機のなかで、日本の総合商社や巨大スーパーが国内外の農業に参入する動きが顕著です。

 たとえば三井物産は、ブラジルで20万ヘクタールの農場経営に乗り出しました。大豆の栽培面積は2・7万ヘクタールで、日本全体の大豆栽培面積14万ヘクタールの2割に相当します。

 また、バイオ燃料生産をねらい、すべての総合商社がインドネシア、タイ、ブラジルに急ピッチで進出しています。

 何が問題なのか?

 表にはのっていませんが、ヘッジファンドや欧米資本の農地囲い込みも大規模で、ロシアやアフリカなどで農地の囲い込みを進めています。金にあかせて土地を囲い込む動きと、金のために農地を明け渡して国民をいっそう飢えに追い込む動きは、ますます激しくなっています。

 問題はいくつもあります。(1)飢餓解消にまったく逆行する、(2)飢餓の根源である輸出型農業に拍車をかける、(3)アジアやアフリカ、ラテンアメリカの農民にとって最も切実な課題である農地改革を妨害する、(4)農薬汚染や遺伝子組み換えによって、環境や生物多様性を破壊する工業的農業が促進される、(5)農民の追い出しや「容認できない農業労働条件の強要」(FAO)によって貧困がさらに深刻になる――などです。

 「グレイン」報告は、こういう囲い込みと農業投資が「2国間投資協定やFTAを通して助長され、今後の問題解決をより困難にすることを絶対に忘れてはならない」と結んでいます。

 *さらに詳しく知りたい方は雑誌『農民』No.59をお読みください。「グレイン」報告(英文)は次のアドレスにアクセスしてください。

http://www.grain.org/briefings/?id=212

(農民連副会長 真嶋良孝)

(新聞「農民」2009.2.9付)
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2009年2月

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