「農民」記事データベース990705-411-05

次期WTO交渉とアメリカの態度

身勝手・横暴を地でいく

MA米輸入拡大など、露骨な対日圧力検討


 「次期WTO交渉で、日本にミニマム・アクセス米の輸入量拡大を要求し、将来は完全自由化を求める」――アメリカ通商代表部のバシェフスキー代表は六月二十三日、十一月から始まる新ラウンドにのぞむ基本方針を表明しました。

 アメリカ下院農業委員会の公聴会で証言に立った同通商代表は「高関税の代償として義務づけられているミニマム・アクセス(最低義務輸入)量の拡大が目標の一つだ」とのべるとともに、(1)平均五〇%にのぼる世界の農業関税の削減、(2)遺伝子組み換え作物の輸入ルールの透明化――などをアメリカ政府の基本方針にすることを表明しました。

 これは、日本とヨーロッパ諸国を狙い撃ちにしたもの。とくに「遺伝子組み換え作物の輸入ルールの透明化」は、遺伝子組み換えトウモロコシの輸入を九七年の百七十四万トンから九八年に約三十万トンにと六分の一に激減させたEUに対する牽制です。あわせて、遺伝子組み換え食品の表示義務付けを検討している日本に対する圧力です。

粗暴な「自主貿易主義」「保護主義」

 ここには、世界的な流れになっている「食糧主権」や農業の多面的機能の尊重などのカケラもありません。
 同時に問題なのは、アメリカが機械的で乱暴な「自由貿易主義」を主張する一方で、自国に都合の悪いケースではWTO協定違反を百も承知で「保護主義」に走っていることです。

 その見本は、最近問題になっている鉄鋼の“ダンピング輸出”問題。このところアメリカの自動車産業が復興し、鉄鋼不足が顕著になったために、日本の鉄鋼メーカーに輸出を要請し、日本側がこれに応じたところ、“ダンピング輸出”だと難クセをつけたというのが実相です。
 アメリカ議会は「鉄鋼輸入割当法案」を検討してきましたが、これはクリントン政権も「明らかにWTO協定違反」といわざるをえないもの。結局、この法案は見送られましたが、その一方で政府が“ダンピング輸出”を認定し、日本に輸出“自粛”を要求しています。
 議会がWTOのルールを無視して「保護主義」的政策を打ち出し、政府が「議会をなだめるため」日本に譲歩を迫るというパターンは基本的に貫かれました。

 アメリカの身勝手ぶりを示す見本はまだあります。APEC(アジア太平洋経済協力会議)で、アメリカなどはWTO交渉に先駆けて野菜や果実、加工食品、大豆、ナタネなどの関税の大幅引き下げ・撤廃を提案しています。
 ところが、アメリカにとって関税削減・撤廃がむずかしいチーズ・バターなどの乳製品や牛肉、落花生は除外するという厚かましさ。さらに、オーストラリアなどに対し羊肉輸入制限を行おうとしています。
 これで、なにが「自由貿易の旗手」でしょうか!

関税化が「適切な国境措置」!?

 一方、農水省は六月十七日、自民党・全国農協中央会と“二人三脚”で「次期交渉に向けての日本の提案」をまとめましたが、交渉相手国に「手の内を見せない」(農水省幹部)ためと称して、抽象論に終始しています。「食料安全保障の確保のために…適切な国境措置」が必要と言ってはいますが、その中身は「例外なき関税化」のこと。米を含む関税化=自由化を「適切な国境措置」などいい、日本国民が食べもしないミニマム・アクセス外米の輸入削減に一言も触れていないのです!

 アメリカが遠慮解釈なしにズケズケ踏み込んでくる一方、ありもしない「手の内」を隠すと称して、最小限必要な要求も明言しないこれでは、最初から交渉を放棄しているに等しいではありませんか。

(新聞「農民」1999.7.5付)
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1999年7月

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