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真に明日の食料・農業・農村のために役立つ基本法を

参院農水委中央公聴会での農民連小林節夫代表常任委員の公述

1999年7月6日


 新農業基本法(食料・農業・農村基本法)案について、食料自給率の問題を中心に意見を申し上げます。

食料自給率の低下は自民党政府の責任

 わが国の異常に低い食料自給率について、政府は、食料・農業・農村基本問題調査会に提出した「食料安全保障政策の推進について」(九八年七月二十二日)で「国がこれまで、食料自給率の低下に歯止めをかけるための各般の施策を講じているにもかかわらず、食生活の変化、農地の減少、担い手の減少・高齢化、耕作放棄地の増加等の様々な要因が影響して……低下してきている」とのべ、あたかも、畜産物を多く食べるようになった消費者が悪いかのように言ったり、農民の努力が足りないかのように言って、政府自身の責任をまったく棚上げにしていますが、率直にいえば、まったく逆に、政府こそ責任があると思います。

*アメリカ食糧戦略のもとで

 食生活の変化とは、さかのぼれば、昭和二十九年四月、大達文部大臣が学校給食法案の説明で「学校給食によって幼少の時代において教育的に配慮された合理的な食事になれさせることが国民食生活の改善上最も肝要である」とのべて、小中学校時代に味覚を変えることの重要性を強調し、同法の規則で「完全給食とはパンとミルクをいう」として米飯給食を除外しました。この規則が改正されて米飯給食が許可されたのは、昭和五十一年のことです。

 これが、まさにアメリカの要求に沿ったものであることは、アメリカの小麦協会のリチャード・バウム氏の“米食民族の胃袋を変えるという作戦が成功した”という勝利宣言や、アメリカ政府関係筋の“余剰農産物処理や胃袋を変えるうえで、学校給食ほど安上がりで効果的なものはない”などという言明をみれば明らかです。現に、国民一人当たりの米の消費量は昭和三十五年当時にくらべて三十六年後の平成八年には五八・八%にまで落ち込んでいます。自給率の低下の一要因であることは明らかではありませんか。

*消費者の責任か?

 政府は、食生活の洋食化にともなって畜産物の消費が増えたことを食糧自給率の低下の理由にしていますが、その原因を作り、その政策を推進してきたのは、まぎれもなく政府自身だったではありませんか。食料自給率の低下を消費者の責任にするのは当たらないと思います。

 しかも、この輸入最優先のやり方が、食料の安全性についての消費者の大きな不安を生み出しています。

*農民の責任か?

 生産の面で言うならば、現行農業基本法のいう「選択的拡大」とは、アメリカの余剰農産物と競合しないものを作れというものでした。パン食が進んでも、国産小麦の生産が続けられていればいいのですが、この選択的拡大と、MSA協定による麦の輸入によって、大豆とともに壊滅的打撃を受けたのです。

 この二十年あまり、農産物の輸入が年々増える一方、農産物価格保障は後退の一途をたどってきました。農業衰退の原因、食料自給率低下の最大の原因を作ったのは、農民ではなく、まさに政府であると私は思います。

 いままた、政府は学校給食の米に対して補助金を打ち切っていますが、これはさらに食料自給率を引き下げるものです。

 二十代から三十代にかけて、この手で麦を作り、この手で牛乳を搾って、この経過と事実を見てきた私には、食料自給率の低下を農民の責任にすることは決して許すことはできません。

価格保障廃止は許されない

 食料自給率を引き上げるうえで決定的に重要なのは、農産物の価格保障です。政府は市場原理、競争原理を強調します。

*何が「市場原理」か?

 しかし、九三年の大凶作のとき、「米価が上がる」という理由で政府は自主流通米市場を閉鎖しました。市場原理というものが「過剰だから下がり、不足なら上がる」ということであるなら、なぜこういう措置をとったのでしょうか。

 さらに大暴落した九七年国産米に比べて、九八年産米はほんのわずか上がっただけですが、ことし五〜六月はむしろ下回っているのが実態です。政府はそれでも市場原理にまかせた方がいいと言いますが、昨年押しつけられた史上最高の減反によって新米の不足は八十三万トン、それに加えて作況九八で二十万トン減収でした。合計百万トンの不足で、米価が上がるのは当然なのに、ほんのわずか上がっただけで、一昨年の二千円〜三千円という暴落は基本的には回復せず、政府の稲作経営安定対策の補てん金は年々下がるだけです。どこに市場原理がありますか。

 国産米が余るなら、外米(ミニマム・アクセス米)は輸入しないとか、援助米に回すなど、加工用・飼料用にも使わないというように明確に隔離すべきではありませんか。「余っているのに輸入する」どうしてこれが市場原理と言えましょうか。韓国では、不作のときはミニマム・アクセス米も減らすなどの措置をとっているではありませんか。

*さらに一俵六百円で投げ売り強要

 米価が二十年以上前の水準で、しかも、水田の四割近くも減反するなどということは、労働者なら、二十年前の賃金に据え置いたまま、四割カットするといものです。

 いま、農水省は、作況が一〇〇を超えたとき、飼料用に一トン一〜二万円で投げ売りさせて需給を調整するという方針を検討しています。魚沼のコシヒカリでも、一俵六百円や千円そこそこラーメン一杯か二杯です。それはわずかな量かもしれませんが、それが他の米の値を引き下げることは明らかです。

 これはもう、農民に米を作るなというようなものではありませんか!

 米ばかりか、加工原料乳をはじめ、すべての政府管掌作物の価格保障を廃止し、麦を民間流通にゆだねる新農業基本法を審議している最中に、もうこんなことを検討しているのです。これで、農民の生産意欲がわくわけがありません。これでどうして後継者が育ち、農村女性の地位が向上するでしょうか。これでどうして食料自給率が上がりましょうか。言葉だけ書けばいいというものではないと思います。

 この際、どうしても一言したいのは、法案第十九条で、“凶作、輸入の途絶など不測の要因により、国内の需給が相当の期間著しく逼迫し、またはその恐れがあるときは、食糧の増産、流通の制限その他必要な施策を講ずる”という点であります。今日のような、生産を抑えて、農業後継者が激減するなかで、いま農業を支えている高齢者の層がなくなったら、一体どうして増産ができるのか!

 「さあ、足りないから増産しろ」といって、にわかに増産できるでしょうか。まったく農業生産のなんたるかを知らない、霞が関と永田町の論理でしかありません。農産物の価格保障の廃止や市場原理はこの一点だけでも引っ込めるべきだと思います。

*欧米では価格保障予算を増やしている

 価格保障・所得補償の予算を外国と比べますと、八七年に比べて九七年には、EUは三・六五倍、アメリカは二・七九倍に伸びているのに、日本は三九%に落ち込んでいます。大銀行に六十兆円もつぎ込んだりする日本が、なぜ二万円の米価を保障したり、膨大な負債に苦しむ畜産農民に政治の手をなぜ差し伸べられないのか。食料自給率を引き上げるために、このことを強調したいと思います。

実情にあった条件不利地域対策を

 食料自給率を引き上げるうえで重要なのは、日本には条件不利地域が非常に多いことです。基本法案では中山間地の対策として、所得補償をうたっていますが、価格保障が廃止されれば、平場ですらやっていけない状況です。こういう平場に釣り合うような所得補償をしてみたところで、しょせんやって行けるはずがありません。価格保障がまともであって、はじめて条件不利地域の所得補償が生きると私は考えます。

 田んぼの区画を大きくすることだけを目標にする土地改良が行われ、中山間地は取り残されてきました。長野県栄村では、普通の基盤整備事業の対象にならないところを、村独自で創造的な「田直し事業」を行い、工事単価は条件のいい県営圃場整備などの五分の一以下ですんでいます。高知県大豊町では、ヘアピン・カーブの続く急傾斜地で、「せま地直し」という自主的な基盤整備を行って過疎地の農民を励ましています。こういう所に政治の光がほしいのです。

 沖縄本島は離島扱いではないようです。沖縄に農産物の運賃補助をという願いは切実です。寒冷地の北海道も本州の果ての地も、山間の寒村も、それぞれ農民は格差をもっています。中山間地対策は、条件不利地域として、もっと広く、そして中央の官僚的画一性を排して、地域の意見を尊重して実情にあった対策を切に望みます。

WTO農業協定の改定を

 最後に、民族の自立と生存にかかわる農業政策を主張することができるよう、WTO農業協定を改定することを心から希望します。

 WTO農業協定は基本的に、自由貿易一辺倒の立場から、食料の増産や安全性を確保するための各国の政策に干渉し、事実上禁止しているものです。それはすべての人々が食料を確保する権利をもつという「食料主権」をうたい上げたローマ食糧サミットの方向に逆行するものです。

 WTO農業協定の前文には「食料の安全保障や環境保護」という条項もあります。日本がこれらのことを要求して「改定」を主張することは決して無理ではありません。WTO協定のいう通りに生産を抑制するようなことは、わが日本にとっても、二十一世紀の世界の食料問題からみても道理も展望もありません。このWTO協定に合わせた基本法でなく、真に明日の食料・農業・農村のために役立つ基本法になることを切に願って意見を終わります。

(新聞「農民」1999.7.19付)
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1999年7月

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