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自然に恵まれた蔵王高原で

酪農民と消費者が一体になって作ったミルクプラント

大手にはできない風味が評判に/蔵王ミルクファーム


農民連に団体加盟

 雄大に広がる蔵王山のふもと、モザイクのようなトウモロコシ畑と牧草畑、そして森絵はがきから抜け出してきたような美しい風景が広がる宮城県蔵王高原。日本有数の大酪農地帯です。その酪農地帯の中心、すばらしいロケーションのなかにミルクプラント「ミルクファーム蔵王」は建っています。

 ミルクファーム蔵王は、蔵王酪農協同組合と生産者の出資で、蔵王酪農の事業部門(株式会社)として発足、九六年秋から稼働を始めました。一日の生産量は七・五トン、小規模プラントです。蔵王酪農の範囲である三市七町にまたがる百七十三戸の酪農家から集乳し、その一部をこのプラントで製乳しています。このミルクファーム蔵王が今春、農民連に団体加盟しました。

粗飼料もすべて自給

 「酪農家の庭に工場があります」牛乳の命は新鮮さ。輸送時間の短さを、現役の酪農家で代表取締役社長の佐久間純一さんはこう誇らしげに語ります。粗飼料もすべて自給という健康な乳牛から搾られた質の良い牛乳は、「甘い!」「コクがある」「飲んでもお腹がゴロゴロしない」と消費者に大好評。七二度、十五秒殺菌の低温殺菌牛乳をはじめ、生乳一〇〇%無添加のヨーグルトなど、大手メーカーではできない、時間と手間をかけたていねいな加工も自慢です。

 しかし一方で、いま市場では輸入脱脂粉乳を水に溶かした”乳飲料”が大手メーカーから大量に出回り、乳製品の輸入は激増、乳価は下がり続けています。この状況に怒りつつも「でも私たちは安売りはしません。私たちは大手メーカーにはできない、本物の高品質牛乳を生産するからこそ生き延びられるのです。少しでも酪農家に貢献して、農家を守ることで、工場も生き残りをかけたい」と佐久間さんは静かに、しかし熱意をこめて話します。

行政は冷淡、助成はゼロ

 そもそもの始まりは、「恵まれた自然だからこそできる質の高いこの生乳を、自然の風味のままで味わってもらいたい」「生産者みずからの手で、製乳して、販売したい」。酪農組合でのこんな話し合いからでした。
 そのためにも「自分たちのプラントを持つことは悲願でした」と蔵王酪農協事業部長の尾本章さんは言います。生産者と消費者が一体になって、顔の見える牛乳を作ろうと、生活クラブ生協の協力も得て、計画は漕ぎ出しました。

 しかしプラント計画は意外な農政の壁にぶつかります。農水省の古い通達によって、県からの建設許可が下りなかったのです。国も県もことごとく冷淡な態度をとり、結局最後には、学校給食など他のメーカーの領分を荒らさない、安売りしてはならない……と、多くの条件をつけて許可。しかし助成はゼロからのスタートでした。「農家と消費者が手を結んで造った工場に、助成がまったくないのはおかしい。いまからでも助成するべきです」と尾本さん。

糞尿や負債など解決策を

 農政へ向ける視線も厳しい。尾本さんは言います。「アメリカのような規模拡大路線は、農家の負債を増やすだけです。農業は国策です。今の農政では農業関連企業だけが生き残る。国土を守る、農地を守るという考えがないですね」と。さらに続けて「農民連にはぜひ家畜の糞尿問題と、酪農家の負債の棚上げに取り組んでほしいのです。国は銀行救済にあれだけの大金をつぎ込んだのだから、農家負債の棚上げくらい不可能ではないはずですよね」と農民連への熱い期待を語ってくれました。

 七月十七日には農民連青年部全国学習交流会の一行が花の咲き乱れるプラントを訪れました。ガンジー、ジャージーなどの牛がのんびりと草をはみ、ロッジ風のレストランや売店では牛乳の試飲はもちろん食事をしたり、買い物を楽しむこともできます。雄大な自然に包まれてブラウンスイス種のお乳のアイスクリームに舌鼓を打っていると、なんだか蔵王の牛たちの幸せな気持ちが理解できてしまうような気がします。

(満川暁代/新聞「農民」1999.8.2付)
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1999年8月

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