「農民」記事データベース990809-416-06

いま、農の現場は……

持続型農業をめぐって

小川政則(JA全農技術主管・非常勤)


 新農基法とその関連法が成立した。その一つ『持続性の高い農業生産方式の導入促進に関する法律』をみて、これが環境保全=持続型農業かとあぜんとした。内容が堆肥や肥料、有害動植物防除技術に限られ、導入指針にもとづき改善計画が認定された農家に、農業改良資金の特例で償還期間と課税の特例をするというものである。

 持続型農業についてFAO(国連食糧農業機関)は「天然資源の損失や破壊を食い止め、生態系を健全に維持しつつ生産性向上を推進する農業」とし、OECD(経済協力開発機構)は「農業生産力を確保しつつ、農村のアメニティや生態系を保全するなど環境上の目的を達成し、持続的に成り立ち得るような農業技術や農法の体系」としている。
 つまり、持続型農業は、(1)経済的に実行可能、(2)環境的に健全、(3)社会的受容可能、(4)土地・水・生物資源の保全などが国際的に認知された内容である。

 今、わが国の農村環境で一番困っているのは、農地や山林の荒廃と、工場などが排出する化学物質による農地・水・大気の汚染など、農業資源基盤や生態系の保全であるが、今回の法律には含まれない。また、農家の立場からみて環境保全型農業が進まない最大の原因は所得低下や労働負担が大きく、経済的成立の困難であるが、先進国で実施している農家の損失部分保障の直接支払や補助もない。

 政府の責任部分が巧妙にはずされ、農家の改善責任のみに限定している。こうなるのは新農基法が効率安定経営育成の望ましい農業構造をめざし、WTO体制の農政改革路線を堅持しているからで、この路線のもとで環境保全型農業の推進は中途半端になる。
 しかし、北海道別海の酪農規模拡大が、自然破壊や糞尿問題で、川や海を汚して漁業者の反対にあったように、自然環境の許容をこえ、社会的共通利益を損なう政府の効率経営育成に未来はない。

 このような農政にあいそをつかして、本物の環境保全型=持続的農業をめざす動きは確実に広がっている。全国の実践事例調査を担当して八年になるが、ダイオキシンなど食の安全性や環境問題に国民の関心が高まるなかで、農家の持続型農業への理解も増している。
 持続型農業の理念はまた効率一辺倒の市場原理を規制し、住民の立場から地域農業振興をめざす運動に、励ましを与えている。こうした運動を発展させるためにも、環境保全と経営的両立の可能な直接支払や補助、価格制度の拡充が必要になっている。

(新聞「農民」1999.8.9付)
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1999年8月

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