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京都・伊根町 蒲入漁港の女性たち

たくましく 魚産地に生きる

農民連と交流を始めて一年

農民連にも団体加入した

 リアス式海岸の海べりの道を走り、紅葉に染まる里山を抜け、つづら折りの峠道を上りきると、突然眼下に広がる真っ青な海。漁船の並ぶ小さな小さな集落ここは日本海に突き出た丹後半島の突端、京都府伊根町蒲入(かまにゅう)集落です。この蒲入集落全戸(六十三戸)でつくる蒲入漁業協同組合が農民連に団体加盟して、京都市内の新婦人に魚の産直ボックスを始めて一年。その新鮮さ、おいしさは「一度食べたら忘れられない」と、いまその魚ボックスが“うなぎのぼり”で急増中です。(満川暁代)


早朝、加工場は活気にあふれて

 朝六時。真っ赤な朝日が海の向こうに昇るころ、蒲入漁港は水揚げや、加工作業の活気でいっぱい。小アジをくわえたピカピカプリプリのハマチ、透き通ったイカ、鮮やかなピンクの鯛…。ツナギのカッパに長靴姿の漁師さんたちが、みごとなチームワークでいっせいに仕分けると、あっという間にハマチを満載した冷蔵トラックが魚市場に走り去っていきました。

 港に面した加工場でもカッパにゴム前掛け姿のお母さんたちが「ひと塩干し」や「スルメ干し」の加工を開始。イカをさばいていく人、カレイのワタを取って塩水に漬け、乾燥機にかける人…。みな素手に軍手だけ。「冷たくない?」「まだ真冬じゃないからマシなのヨ」と、たくましい。

 若狭湾はまさに豊穣の海です。「やっぱり魚は日本海の魚だな」、漁協専務理事の滝口信幸さんは、ふるさとの海をこう誇ります。加工のお母さんたちも「こんな田舎でびっくりしたやろ」と言いながら、「でも住めば都。ここで一つがんばろう、そんな思いで加工もやってきたんですよ」と加工責任者の佐川久美子(43)さんは話します。

初めは恐る恐る電話をかけた…

 蒲入集落は人口二百三十人あまりの小さな漁村。昔から男は漁業に、女は丹後ちりめんを紡ぎ、自家用の田畑を耕してきました。ところが、折からの消費不況。丹後ちりめんは最盛期の五分の一から六分の一に減り、水産業も大量輸入の影響で価格が暴騰暴落を繰り返しています。立派なアジが一匹十五円から二十円、一キロの天然ハマチが一匹六十円という安値です。

 「このままではこの地域は取り残されてしまう」と六年ほど前から挑戦し始めたのが加工でした。加工すれば価格も安定し、ちりめんの道を失った女性たちの働く場も確保できます。問題は販路でした。

 そして去年の春、農民連京都産直センターに、蒲入漁協から、電話が入りました。「初めはどんな団体かも知らなくて、おそるおそる声をかけたんだよ」、当時を振り返える滝口さん。

好評でボックスの数も増えた

 以来、京都産直センターの民谷清治さんは車で片道四時間の丹後通いが始まりました。「農業だけでなく、漁業も地場産業も守ってこそ地域全体を守っていける。魚も入れば産直の幅も広がる」と民谷さん。

 相談に半年、実際に新婦人との産直が始まって丸一年。開始当初三百八十個だったボックスは「おいしい」「新鮮」と評判が評判を呼んで、今では六百個に増え、加工部門の売り上げ高四千五百万円のうち四五%が農民連との産直に発展しています。「農民連と話し合ってきた信頼関係でここまで大きくなった。この一年は意義深いものがある」と語る滝口専務理事。今年三月には、蒲入漁協が農林水産大臣賞に輝きました。

「新婦人と知りあい楽しいね」

 新婦人のお母さんたちもその新鮮さ、おいしさには大感激でした。京都北支部の産直パーティーでは「私、魚食べないの」と言っていた子ども連れの若いお母さんがハタハタを試食、「おーいしい!これどうやって味付けしたの?」「実はボックスから出して焼いただけ」という楽しい一幕もあったり、「子どももお腹いっぱいでもこの魚は食べるよね」と大好評だそう。

 魚の産直ボックスがここまで増えた原動力には、交流も欠かせませんでした。新婦人がバスで蒲入を訪れた時には、集落あげての大歓迎。定置網まで船で連れていってもらったり、料理法を教えてもらったり。京都市内の産直説明会や産直祭りなどでも、消費者との交流を大切にする蒲入漁協の人々の姿に「素朴でええ人たちやなぁ」。若い専従の高松嘉代さんも「魚も輸入が多いけど、この産直なら、この人が海からとってきたってわかって安心」と言います。蒲入漁協のお母さんにとっても「消費者の人と話したり、農民連の田植えや稲刈りにも行ったんですよ。交流は、知り合いが増えて私たちも楽しいですね」と佐川さん。

 十一月からは亀岡農民組合と漁協との新たな交流も始まりました。「蒲入漁協も懸命の模索があったからこそ、この産直に結びついたと思う。農業もだめだと絶望してしまう前に、模索していくことが大切じゃないか」。産直センターの民谷さんはこう話します。

※魚ボックスは、大サイズは千三百円、小サイズは千円で、魚の一塩干しや鮮魚、加工品など三品目が入ります。

(新聞「農民」1999.12.6付)
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1999年12月

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