新聞「農民」
「農民」記事データベース20040329-629-01

日本・メキシコFTA合意

農業の犠牲で工業品輸出

要求まるまる通って喜ぶ財界

 日本とメキシコの自由貿易協定(FTA)が三月十二日、大筋で合意されました。農産物では、日本が三百品目以上の関税を撤廃し、豚肉などで低関税枠を設定。一方、鉱工業品分野では、メキシコが鉄鋼、自動車などの関税を期限を切ってゼロにします。経済界の要求がまるまる通った内容で、日本経団連の奥田碩会長は同日、「たいへん喜んでいる。アジア諸国との交渉もスピード感をもって推進していただきたい」とのコメントを発表しました。


関税撤廃で輸入依存ますます

 今回の日本・メキシコFTAは、財界の利潤追求のために、日本農業を犠牲にするものに他なりません。亀井善之農相は会見で「十分国内農業に留意した」などと述べましたが、とんでもない内容です。

 焦点の一つとなった豚肉では、メキシコからの輸入実績の二倍にあたる八万トンの低関税枠を設定。これは「関税をまけますから、どんどん輸入してください」と言うのに等しく、今回のFTAの本質を如実に語っています。
日本・メキシコFTAで日本が譲歩した農産物
豚肉 関税率半減(2.2%)の輸入枠を設定
初年度38,000トン→5年目80,000トン
牛肉 当初2年間、無税枠10トン
低関税の輸入枠設定(関税率は再協議)
3年目3,000トン→5年目6,000トン
鶏肉 当初1年間、無税枠10トン
低関税の輸入枠設定(関税率は再協議)
2年目2,500トン→5年目8,500トン
オレンジ果汁 関税率半減の輸入枠を設定
初年度4,000トン→5年目6,500トン
オレンジ生果 当初2年間、税枠10トン
低関税の輸入設定(関税率は再協議)
3年目2,000トン→5年目4,000トン
マンゴー、アボガド、パパイヤなどの果物、トマト、カボチャなどの野菜類、テキーラ、ワイン、コーヒー豆、タバコなど300品目以上で関税を撤廃
砂糖、小麦、パイナップル、林檎果汁などについては3年後をめどに扱いを再協議

 同等な条件でアメリカも狙う

 そもそもメキシコは、九四年にアメリカ、カナダと北米自由貿易協定(NAFTA)を結んでから、急速に輸入依存を強めています。メキシコの豚肉輸入量は、NAFTA以後、右肩上がりで、二〇〇三年は三十三万五千トン。一方、輸出は六万トンで、その大部分は、アメリカ資本が入った企業養豚によるものです。

 もともとメキシコの伝統的な輸出品目は、コーヒー、砂糖、綿花でしたが、それらは右肩下がり。いま輸出の六割は、野菜と果実が占めています。

 しかし、輸出用野菜のほとんどは、メキシコ北部のアメリカに接する三州で作られており、関係農家は二万二千戸、メキシコの全農民の〇・六%にすぎません。メキシコがいくら農産物の輸出を増やしても、小農は利益を得ることができず、利益を得るのは、大規模経営とアメリカの資本だけというのが実態です。

 
鉱工業品分野でメキシコが約束した内容
鉄鋼分野 すべての鉄鋼製品の関税を10年以内に撤廃
電子、家庭用電気製品、資本財、自動車に使われるものなどについては関税を即時撤廃
自動車分野 既存無税枠のほかに、国内販売台数の5%相当の無税枠を設定
7年目に完全自由化

 また、日本が関税を下げてメキシコからの輸入を増やせば、アメリカの農産物がメキシコを経由して日本に輸出される恐れさえあります。

メキシコ農民には益なし 得するは米国系外資企業

 問題は、それだけではありません。「全米食肉輸出連合会」は昨年十一月、日本・メキシコFTA交渉に関して、「日本がメキシコに提示したのと同等な条件がアメリカにも与えられるよう政府関係機関に働きかけていく」ことを決議。日本がBSE問題に見舞われたとき「アメリカ産牛肉は安全」と大宣伝して風評被害をあおったアメリカの食肉業界は、今度は“漁夫の利”を虎視眈々(こしたんたん)とねらっています。

 FTAは日本とメキシコとの二国間協定ですから、アメリカに同等の恩恵を与える義務はまったくありません。しかし、アメリカのような身勝手な国が、それを要求するのも当然といえば当然。さらに、アメリカの言うことに盲目的につき従う小泉内閣が、それを受け入れかねないということも指摘しておかなければなりません。

 重要な品目は譲らない欧米

 一方、アメリカとEUは、FTAを結んでも、国内農業に影響を及ぼす重要品目については一歩も譲っていません。二月にまとまったアメリカ・オーストラリアFTAはその典型です。

 オーストラリアはすべての農産物で関税を即時撤廃して丸はだかにされた一方で、アメリカは三分の一の品目で関税を維持。中でも、オーストラリアの主要輸出農産物である砂糖は、アメリカが拒否して例外品目に。牛肉も、十八年かけて現行三十七万八千トンの関税割当枠をわずか七万トン増やすだけ。ほとんど何もしないのに等しい内容です。

 アメリカとオーストラリアという世界で自由貿易を代表する二国が農産物を含むFTAを結んでその内容がまったく“非自由主義的”。これは、“重要品目は譲らない”というのが世界の常識であることを示しています。

 
アメリカ・オーストラリアFTAにおける農産物の扱い
アメリカ
オーストラリア
即時関税撤廃 約66%の農産品目 すべての農産品目
4年以内に関税撤廃 さらに9%の農産品(果汁ジュース、一部の羊肉など)  
11年以内に関税撤廃 ワイン  
関税割当 牛肉(関税割当枠378,000トンを18年目に70,000トン増枠)  
除外 砂糖(関税割当枠を現状の87,000トンに維持)

 


日本と各国とのFTA交渉の現状
相手国
政府間交渉
メキシコ 2004年3月 大筋合意
韓国 2003年12月〜
タイ 2004年2月〜
マレーシア 2004年1月〜
フィリピン 2004年2月〜
シンガポールとは、2002年1月に協定署名

 今後、メキシコに続いて、韓国、タイ、フィリピン、マレーシアとFTA交渉を進めていく日本。しかし、これらアジア諸国とのFTAでは、メキシコの場合とは比べものにならないくらい農業が犠牲にされる恐れがあります。「農業鎖国は続けない」と放言する小泉首相、財界からの献金目当てでFTA推進を競う自民党と民主党。これらの政党に七月の参院選挙できっちりと審判を下すことが求められます。

(新聞「農民」2004.3.29付)
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