新聞「農民」
「農民」記事データベース20070319-772-08

“食糧主権の大波起こそう”
世界的な広がり実感(1/2)

対話・交流・連帯 大きな成果収めた国際フォーラム

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「ニエレニ」とは?!
農村女性のシンボル的人物

 食糧主権国際フォーラムは別名、ニエレニ(NYELENI)フォーラムと呼ばれました。このニエレニとは、マリでは誰でも知っている農村女性のシンボルです。
 彼女は、男性しか参加できない農産物コンテストに出品し、差別と偏見を打ち破って見事に優勝。女性の農民組織を立ち上げ、農業の発展のために貢献した実在の人物です。


対話で深まった共通の課題

FTA(自由貿易協定)・EPA(経済連携協定)は死活問題

 坂口 印象に残ったのはトルコの発言。首都のイスタンブールで農民とともに産直グループを組織しているメンバーが参加していて、食糧主権や産直をテーマにサラギ氏などを呼んで九月にシンポジウムを開くという。日本からも来ないかと誘われた。日本の実践がいろいろなところで広がっていると感じた。

 「産直」「学校給食」今は共用語に

 真嶋 たしかに分科会でも全体会でも、ダイレクトマーケティング(産直、直売)、スクールランチ(学校給食)という言葉を何回も聞いた。あまり手前味噌になってはいけないけど、これは日本と韓国の代表団の成果といっていい。その意味では、フォーラムの成功に貢献できたと思う。

 坂口 分科会では、新婦人の椿さんと全教の長谷川さんが産直や学校給食のとりくみについて発言して注目を浴びた。それから、帰ってからフォーラムのホームページを見たら食健連のポジションペーパーが掲載されていてビックリした。

 真嶋 フォーラムのスローガンの一つは「連帯して地域市場を作り出そう」だったが、産直はそれに結びつく。二〇〇四年に食健連と農民連が共催した国際シンポジウムの時にサラギ氏とアメリカのニール・リッチー氏を産直組織に案内したら、二人とも目を丸くしていた。日本は産直の先進国だと見られているし、事実そうだと思う。それだけ日本の運動が世界から注目されているということだ。

 比、タイへ手紙を送ると提案

 斉藤 FTA・EPAの問題では、フィリピン、タイの代表団と懇談した。その時に、お互いにやれることを大いにやろうということになり、フィリピンの上院議員とタイ国王にそれぞれ、日本・フィリピン、日本・タイのEPAに「私たち日本人も反対しています」という内容の手紙を送ろうということになった。具体的な提案がされて、非常によかったと思う。

 真嶋 あの懇談は、農民連としてFTA・EPAの問題に対するポジションペーパーを用意し、分科会でも発言したことをきっかけに実現した。食糧主権の関係で農産物の問題はもちろん、産業廃棄物の“輸出”や労働者の“輸入”の問題も率直に話し合うことができた。フォーラム全体でもFTA・EPAの問題が鮮明になり、一定の役割を果たせたと思う。

 斉藤 フィリピンにあるドールなどのバナナ農園では農薬を土壌に注入し、根を通して植物体内に農薬が行き渡るようにしているという。土壌微生物やミミズが死に二十年で土がだめになる。そこで働く女性の子どもたちは、十人に三〜五人は奇形児だという話には、ぞっとさせられた。

 真嶋 東南アジアの国々とのFTAでは日本の果物がたいへんなことになると同時に、相手国の農民を輸出型農業に追い込むことになる。多国籍企業がもうけを独占する一方で、さらに農薬を使うようになるなど、農民はお互いに利益にならない。ビア・カンペシーナの中ではさんざんやってきた話だけれど、それがさらに深まった。


種子支配、労働力輸入…

多国籍企業に厳しい批判

 坂口 タイの人は、まだ一般に公開されていない日本・タイEPAの条文を手に入れたと言っていた。その中には、産業廃棄物の問題でどういう化学物質が輸入できるか具体的に書いてあると。

 同時に、労働者の“輸入”の問題では、「私たちは外に出て働く権利もある」と言われた。外国で働く肉親からの送金で生活をまかなっているという現実もある。

 真嶋 僕はフィリピンからの看護師の“輸入”問題では、フィリピン人看護師を最も必要としているのはフィリピン人だと強調した。

 食糧主権の立場で移民の問題を考えると、一番は外国に出て働かなくても暮らせるようにすることで、働かざるをえない場合は移民としての権利を守れということ。ビア・カンペシーナの会議では、全労連が移民労働者のための組織を作り、その権利を守る活動もやっていると話したんだ。

 移民労働者にも最賃保障を

 坂口 やっぱり、その国で働く労働者が、移民も含めて、最低限の賃金を保障されるということが大事だ。全労連全国一般の森さんがフォーラムでも発言したが、ナショナル・ミニマム(国民生活の最低保障)の必要性が浮き彫りになった。

 斉藤 それから、有機農業をめぐる議論のなかで、有機に名を借りた多国籍企業の輸出戦略を、遺伝子組み換え技術による種子の支配と合わせてキッチリ批判していたのが印象的だった。そのなかで地域に根ざした技術、とりわけ種子を大事にしないといけないということが論議された。持続可能な農業ということを考えると、腹をすえてやっていかなければならない課題だ。

 真嶋 多国籍企業とのたたかいは、食糧主権を実現するうえで重点課題の一つだった。日本は多国籍企業の“母国”の一つだから、もっと意識して分析し、議論できるようにしなければとつくづく思った。


食糧主権国際フォーラム・メモ

 ▼主催したのは、ビア・カンペシーナをはじめ、西アフリカ農民組織連合、世界漁民フォーラム、世界女性行進など九団体。農民だけでなく、漁民、先住民、労働者、消費者、NGOなど幅広い人たちが参加しました。
 ▼フォーラムは、「テーマ別」「分野別」「地域別」に分かれ、いわば縦糸と横糸で織るように、食糧主権の確立に向けた戦略を練り上げました。「テーマ別」は、(1)貿易政策と地域市場(2)地域の知識と技術(3)自然資源(土地、水、種子など)へのアクセスと管理(4)領土、漁業権、森林などの共有(5)紛争と災害(6)社会的条件と強制移住(7)生産モデル―の7つ。「分野別」は、農民、漁民、先住民、移民労働者、消費者など。


フォーラムの進行と日本代表団の行動(太字)
2月23日 午前 全体会議(開会式)
     昼  地域会議
     午後 公式開会式
     夜  スリランカ代表団と懇談
2月24日 午前 テーマ別討論(「貿易政策と地域市場」のテーマに参加)
     午後 マリのトゥーレ大統領が参加、メッセージ
2月25日 朝  ミスティカ(文化交流)で野だてと合唱を披露
     午前 テーマ別討論
     昼  モザンビーク代表と懇談
     午後 テーマ別討論
     夜  アジア農民のつどい/イタリア有機農業連合代表と懇談
2月26日 午前 分野別討論(「農民」と「消費者・都市運動」の討論に参加)
     昼  フィリピン、タイの代表と懇談
     午後 全体会(チャべス・ベネズエラ大統領のビデオメッセージ披露)
2月27日 午前 地域会議
     午後 全体会議(宣言・行動計画を採択)

(新聞「農民」2007.3.19付)
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