新聞「農民」
「農民」記事データベース20100621-929-03

急進展!!
米国(アメリカ)、豪州(オーストラリア)、
中国とのFTA促進

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辞任のドサクサにまぎれて

 普天間と「政治とカネ」の問題で、国民的な失望と怒りの前に、鳩山首相が政権を投げ出しました。「鳩の命は短くて、ブレることのみ多かりき」というところですが、農産物の輸入自由化問題だけはまったくブレずに、辞任のドサクサにまぎれて、3つの危険な置き土産を残しました。

 しかも最後の閣議となった6月4日、鳩山前首相は菅新首相に「日米、日中、日韓をよろしくお願いします」と書いたメモを渡しました。日米は普天間、日中・日韓はFTA。菅氏は「記念になると思い、(鳩山に)『名前も書いてください』とお願いした」と感激に言葉を詰まらせ、置き土産を忠実に実行する姿勢を示しました。

鳩山 前首相の3つの危険な置き土産

 危険な置き土産とは、次の3つです。

(1)「日中韓3国間協力ビジョン2020」(5月30日、日中韓首脳会談で合意)

(2)「東アジア共同体構想に関する今後の取り組みについて」(6月1日、閣僚懇談会)

(3)「APEC貿易担当大臣会合合意」(6月6日)

 日中韓首脳会談は辞任の3日前、閣僚懇談会は辞任前日、APEC会合は“残務整理”中にバタバタと行われましたが、“飛ぶ鳩、跡をにごさず”どころか、最後の最後に、日本農業に重大な影響を与える裏切りをやってのけたのです。

 「東アジア共同体構想に関する今後の取り組みについて」は、閣僚懇談会で鳩山前首相自らが提案したもので、次のようにうたっています。

 「日韓EPAの早期交渉再開、インド等とのEPA交渉の推進(これには、当然オーストラリアが含まれる)、日中韓FTAの産官学共同研究への積極的参画、FTAAP(アジア太平洋FTA、アメリカ、オーストラリア、カナダ、中国などを含む)をはじめとする東アジアやアジア太平洋地域の広域経済連携に関する議論について…、質の高い経済連携を加速する」

 要するに、アメリカ、オーストラリア、カナダ、中国、韓国、東南アジアにインドまで加えたアジア・太平洋レベルのFTAを結ぶ、しかも「質の高い経済連携」という言い方で、日本の都合で農産物に配慮するなどということもしない、というのです。

 ほかの“置き土産”もほぼ同じで、「日中韓3国間協力ビジョン」は、再来年の2012年までに「日中韓FTA共同研究」を完成させ、「長期的には地域共通市場を含む経済統合を目指す」としています。

 「APEC貿易担当大臣会合合意」は「アジア太平洋FTAの実現に向けた道筋について引き続き検討を行い」、11月に横浜で開かれるAPEC首脳会議に結果を報告することになっています。

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メーデーで食糧主権の確立を訴える農民連の隊列

アジア太平洋FTA諸国からの輸入は74・5%を占める

画像 日本農業がここまで危機的状態に追い込まれてきたのは、小麦や飼料穀物、大豆、肉など、主食や畜産物をアメリカやオーストラリア、カナダに依存し、野菜や加工食品、ジュースなどをアジア、とくに中国に依存するという二重の輸入依存構造のためです。いわば、アメリカなどは「前門の虎」であり、中国などは「後門の狼」です。

 実際、表1のように、アジア太平洋FTA対象国からの輸入は74・5%で、上位20カ国中14カ国を占めます。こういう国々とFTAを結び、「質の高い」自由化を進めれば、WTO交渉の完結を待つまでもなく日本農業は壊滅的な状況におちいることは必至です。農水省が示した農産物の輸入自由化試算は、その無残な姿を示しています(表2)。

 事態はこれほどに切迫しているのですが、広範な農家・消費者はもちろん、農民連会員やいっしょに運動している仲間たちにもまだまだ知られていません。大いに宣伝し、警鐘を鳴らすときです。

菅首相が果たしてきた役割は

 もう一つ、知られていないのは、菅新首相が果たしてきた役割です。

 菅氏は副首相として閣内ナンバー2の地位にあり、鳩山前首相と共同の責任を持っています。アジア太平洋FTAを打ち出した「新成長戦略」(09年12月30日)のとりまとめ責任者は菅副首相兼国家戦略相で、成長戦略策定会議では「本日示した案は、最終的に私に一任をいただいたものである」とのべています。また、「東アジア共同体構想に関する今後の取り組みについて」を決めた閣僚懇談会にも居合わせており、日中韓首脳会談に先立つ財務相会合でも日中韓FTAを提唱するなど、鳩山政権のもとで、FTA推進の先頭に立ってきました。

 大企業の不利益を緩和するため、 農業を犠牲に―― 「産業再生戦略」

 さらに菅氏は、1996年の民主党結成以来、党代表や代表代行、幹事長などを務めてきた人物であり、民主党が一貫してとってきた貿易自由化推進路線に深くかかわってきました。

 たとえば、菅氏が幹事長を務めていた2002年8月に「産業再生戦略」が決定されました。同「戦略」は「FTAを結ばないことによる(大企業の)不利益を緩和するため」に、現在のアジア太平洋FTAとそっくりの「環太平洋地域FTA戦略」の推進を明記し、次のように、FTAを活用して農業保護を打ち切ることを主張しました。

 「FTA締結にとって農業問題が最大の障害になっている点にかんがみ、効率性の向上などを含めて、農業問題に正面から取り組む。むしろ、FTA締結を、農業をはじめとする国内の保護主義政策見直しの契機とし、産業構造改革を推進するために活用していく」「農業の自由化推進によって、FTAの締結を通じた戦略的な貿易政策が可能になる」(「産業再生戦略――閉塞NIPPONからの脱却」02年8月8日)。

 しかも、この戦略作成チームの座長は岡田克也現外相、事務局長は長妻昭現厚労相でした。自由化推進体質は根深いといわなければなりません。

 「農業再生プラン」はFTA推進の条件整備

 この直後に党代表に返り咲いた菅氏は、民主党2004年度定期大会で次のようにのべ、現在の戸別所得補償の元になった「農業再生プラン」をFTA推進の条件整備、貿易立国を維持するうえで「避けて通れない大改革」と明言しました。

 「参議院選挙までには民主党の農業再生プランを国民の皆さんに提示したい。こうして農業を強化することは、単に農業の再生ばかりではなく、自由貿易協定、つまりFTAを推し進める条件整備にもなり、貿易立国日本を維持していく上からも避けて通れない、やらなければならない大改革だ」(大会での菅直人代表あいさつ、04年1月13日)

 また、菅内閣で農水大臣に就任した山田正彦氏は、副大臣当時「世界は(自由化の)方向に流れている。だから、畜産でも、畑作でも、セーフティネット、所得補償を急いで整備しなければ」(『金融ビジネス』2010年冬号)と発言し、所得補償を自由化受け入れの条件づくりと明確に位置づけています。

 「日豪EPA促進の政治的意志を共有」――オーストラリアの貿易大臣が熱烈なラブコール

 現在、日本政府が進めている交渉のなかで、影響が壊滅的なのが日豪EPAですが、岡田外務大臣は日豪両国の財界人を前に「日豪EPAは民主党政権の優先課題。締結に向けて尽力したい」と明言(6月7日、日豪経済委員会シンポジウム)。一方、オーストラリアのクリーン貿易相は「日豪EPAが必要だとの政治的意志を(菅新首相と)共有している」と語りました(「日経」6月8日)。水面下で“密約”ができているかのような共鳴ぶりです。日豪、日米、アジア太平洋FTA反対の声を大きくするときです。

(新聞「農民」2010.6.21付)
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