新聞「農民」
「農民」記事データベース20111031-995-01

TPPは「壊国」だ!
政府がTPPの害毒を列挙


 「TPP反対論のなかには事実にもとづかない恐怖感がある。これを私は『TPPお化け』と呼んでいる」――民主党の前原政調会長は10月14日にこう放言しました。しかし、政府は民主党・経済連携プロジェクトチーム(17日)に提出した「資料」で、TPPの数々の害毒を列挙しました。

 事実に目をふさぎ、TPPに反対する人々を臆病(おくびょう)者呼ばわりするTPP熱中派こそ「お化け」かモンスターですが、大詰めを迎えたこの段階で、政府が害毒を列挙せざるをえないところにTPPの「壊国」ぶりが如実に示されています。

 米も牛肉も乳製品も関税撤廃

 「資料」によると、「TPP交渉では高い水準の自由化が目標とされているため、従来、日本が『除外』してきた米、小麦、砂糖、乳製品、牛肉、豚肉、水産物などについて、関税撤廃を求められる」。他の項目は「可能性がある」「おそれがある」という表現ですが、米などについては「関税撤廃を求められる」と断言しているところに最大の特徴があります。

 閣僚の中からは“米は例外扱いにできる”という類の議論が出てきますが、その可能性はまったくないことを政府自身が認めているのです。

 危うい!食品の安全

 衛生・植物検疫(SPS)について、「資料」は、「食品安全基準の緩和が……今後、提起される可能性」があることを認め、「個別案件ごとに科学的根拠にもとづいて慎重に検討することが難しくなる」「WTO・SPS協定上の各国の権利の行使が制約を受けるおそれがある」としています。

 抽象的なので、TPPのモデルである「米韓FTA」の実態を紹介します。韓国はアメリカの圧力に屈して、BSE牛肉と遺伝子組み換え農産物について大幅に譲歩しました。

 BSE牛肉についてはOIE(国際獣疫事務局)の勧告に従うことをFTAで規定し、生後20カ月以下の若い牛に限って輸入を認めている条件を30カ月以下に広げました。

 日本はOIE勧告を採用せず、20カ月以下に限っていますが、現在、アメリカの圧力で30カ月に広げる検討が進行中です。いわば、TPP参加の“第一関門”です。入る前からアメリカいいなり――こんな姿勢で「交渉結果が気に入らなければ脱退すればいい」などという枝野経産相や前原政調会長の言い分は、ゴマカシにすぎないといわなければなりません。

 遺伝子組み換え農産物についても、韓国はアメリカ企業の安全性検査を鵜呑(うの)みにし、規制措置を事実上放棄させられています。

 あいまいなかぎり、原産地表示

 食品の安全のもう一つの問題は原産地規則です。TPP交渉では、域外のA国から輸入した原材料を使った場合もTPP参加国B国が原産地になります。A国の安全衛生レベルにどんなに問題があっても、TPP協定にもとづいて無関税で輸入しなければならない――これも、食品の安全にとっては重大な脅威です。

 震災復旧の公共事業も住宅リフォームも、学校給食も外国資本に開放

 現在、WTO・政府調達協定のもとで、政府と都道府県が発注する20億円以上の公共事業、2500万円を超える物品調達は国際入札にかけ、外資に開放しなければなりません。しかし、TPPでは、政府・都道府県だけでなく全市町村が発注する6億円以上の公共事業と630万円を超える物品調達を国際入札にかけなければなりません。

 市町村が行っている住宅リフォーム助成制度は、住民、地域業者、地域経済の“三方一両得”として歓迎されていますが、TPPのもとでは、超低賃金の外国人労働者を使う外国資本に仕事が奪われるおそれがあります。震災復興の公共事業も同じです。

 さらに、学校給食を外国資本が受注し、輸入冷凍食品主体の学校給食になれば、安全も地場産給食もピンチになります。

 国保・健保も、薬価に対する規制も瓦解のおそれ

 「資料」では、意図的に触れられていませんが、米韓FTAの事例からみて深刻なのは医療制度の自由化です。日本医師会は、次のような問題点を指摘しています。

 (1)公的医療保険制度のないアメリカの基準に従って、民間医療保険の押しつけ⇒健保・国保制度の縮小・瓦解のおそれ。

 (2)営利本位の株式会社の医療への参入⇒不採算な地域・患者・部門からの撤退のおそれ。

 (3)医師・看護師の国際移動⇒医師の不足と偏在に拍車をかけ、地域医療を崩壊させるおそれ。

 韓国では、すでに問題がおきています。米韓FTAでは、経済自由区域で健康保険適用の例外を認め、営利病院を許可することを明記しました。すでに仁川にはアメリカ系の営利病院が建てられ、全室個室、健保医療費の6〜7倍の医療費がかかります。

 もう一つは薬価に対する規制の撤廃です。「資料」はさりげなく「米韓FTAのように医薬品分野に関する規定が置かれる可能性はある」と書いていますが、これが大問題なのです。米韓FTAでは、米韓合同の「医薬品・医療機器委員会」で韓国の公的医療保険制度にもとづく薬価規制を撤廃させるなど、アメリカ製薬企業の強い異議申し立て権を認めています。

 外国資本の提訴権

 さらに問題なのは「国家と外国投資家の間の紛争解決手続き」条項や「無違反告訴」条項です。これはFTA・TPPにもとづいて進出した外資が期待した利益を得られなかった場合、相手国が制度に違反していなくても、米国政府が米国企業に代わって、国際機関に対して相手国を提訴できるという権限です。

 いま、韓国で最大の問題になっている「毒素条項」で、たとえば、アメリカの民間医療保険会社が「韓国の公共制度である国民医療保険のせいで営業がうまくいかない」として、米国政府に対し韓国を提訴するよう求める可能性があり、しかも裁判は世界銀行傘下の紛争仲裁センターで行われるという問題です。

 さらに、韓国では地場産農産物を使った学校給食の無償化が急速に実現していますが、これも「地場産」と「無償」という条件がアメリカ企業にとって不利であれば、提訴される可能性があります。

 「資料」も「外国投資家からわが国に対する国際仲裁が提訴される可能性は排除されない」と渋々認めながら、これまで訴えられたことはなかったから大丈夫と述べています。しかしTPPのもとでは、アメリカの法律・制度が強烈に押しつけられ、「国民国家が存続できなくなる」可能性が指摘されています。今まで大丈夫だったから今後も安心というのは気休めにもなりません。

 なめられてはいられない!

 「論語」に「巧言令色鮮(少なし)仁」という言葉があります。口先が巧みで愛想をとりつくろっている人間にロクなものはいない、もっと言えば、詐欺師にかぎって、ヘラヘラ調子がいいし、愛想もよいという意味です。「ドジョウ」の熱弁ぶりに続いて、トラクターに乗ってみせ、「幼いころ、母親に背負われて田んぼに行った私が農業をダメにすることはない」という野田首相の「巧言」ぶりは相当なものです。

 与党対策もままならず、8〜9割にのぼる地方議会が反対・慎重意見書を採択しているのに、「議会対策に苦慮するオバマ大統領に、目に見える形での進展を示したい」、そのためにTPPも普天間も手土産にするという“御用聞き”政権・野田内閣の姿勢は、日本国民をなめきったものです。「離農奨励金」という手切れ金を「農業再生策」だと「巧言」するのも、農民と国民をバカにしきった態度です。

 なめられてはいられない! いま、総決起の時です。

(真嶋良孝)

 (注) 記事中、「資料」は「TPP協定の分野別状況」(外務省、10月17日)。米韓FTAの実態は、ビア・カンペシーナ東南・東アジアFTA・TPP戦略会議と国際フォーラムでの韓国代表の発言と、ユウ・キョンヒ酪農学園大准教授の資料によります。

(新聞「農民」2011.10.31付)
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