遺伝子組み換えを巡る世界の情勢オルター・トレード・ジャパン政策室室長
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遺伝子組み換えのえさやラウンドアップがかかったえさを食べ続けて腫瘍(しゅよう)ができたラットの写真 |
枯葉剤を混ぜた農薬も開発され
アメリカでも食品産業で自主的に非GM表示をする企業が増えています。さらに、モンサント社が3つの研究所を閉鎖、11%の人員をカットし、シンジェンタ社(スイス)が中国国営企業に買収される道を選択するなど、GM企業の収益の悪化がみられます。GMを禁止する国、自治体、地域も増加中で、エクアドル、ベネズエラ、ペルー、ロシア、フランス、ドイツ、スコットランド、ギリシャ、リトアニア、北アイルランド、ロシアなどが非GMOをめざしています。
非GMOが主流になる国が出てくる一方で、その逆のシナリオも生まれています。グリホサートが効かなくなってきたので、さらに危険な枯葉剤2・4-Dや除草剤ジカンバなどを混ぜた農薬も開発され、日本も承認しようとしています。
GM作物・生物の開発も進められ、小麦、サケ、動物、蚊、木などでGMが現れています。
化学肥料も農薬もない農業注目
GMのない世界は可能です。化学肥料と農薬による農業でなくても生態系の力を引き出すことで高い生産力を発揮できるアグロエコロジーが今注目され、FAO(国連食糧農業機関)もその意義を認めて、世界に普及活動をしています。アグロエコロジーは、ブラジルなど中南米の政府、フランス、インドなどで政策として採用され、イギリス、アメリカでも活発に議論されています。多くの農民団体やNGOなど食に関わる運動がアグロエコロジーを軸に結集しつつあります。
TPPのもとで強まる食の不安
政府は、TPPで食の安全が脅かされるという国民の不安を「デマ」と決めつけ、「遺伝子組み換え食品の表示義務など、日本の制度変更が必要となる規定は設けられていない」と強調しています。しかし、これは大ウソです。
遺伝子組み換え食品の表示義務に変更はないか
日本とEU(欧州)諸国は、消費者の要求にもとづいて、遺伝子組み換え(GM)農産物を使った食品に表示義務を課しています。しかし、モンサント社などGM企業は「表示義務の禁止」と「栽培規制の禁止」「規制を各国が個別に決めるのではなく、国際機関の決定に従わせること」を要求しており、アメリカ政府はその代弁者です。TPP協定では、GM作物に関する「作業部会」を設置することになりました。この「作業部会」を通じて、“GM作物に対する不安には科学的根拠がない。だから、表示の義務づけはやめてしまえ”という要求がゴリ押しされる危険があります。
現に、アメリカ農務省は次のように勝利宣言しています。「TPP協定は、GM技術が、増大する世界の人口に持続可能な方法で食料を供給する重要な手段であることを認めた」「TPPは、GM作物の承認を促進することを参加国に約束させる条項を盛り込んでいる」と。
GM技術には二重の危うさがあります。一つは安全性をめぐる危うさであり、もう一つは種子の独占を通じて巨大アグリビジネスが食料をコントロールする危うさです。貿易協定の中で、ここまでGM作物を位置づけたのはTPP協定が初めてです。
GM企業は作業部会を「規制制度の変更を迫るとともに、将来の(GM産品の)承認・貿易ルールを形成するためのフォーラムとして位置づける意図を隠していない」といわれ、GM企業が要求する「国際機関」の役割をTPPが果たすことになるおそれがあります。