新聞「農民」
「農民」記事データベース20160704-1220-06

TPP国際シンポin東京

「自由貿易は私たちを
“幸せ”にするのか」


企業の利益を拡大するTPP

 パブリック・シチズンなど貿易問題に取り組んでいる欧米のNGOの活動家を招いた国際シンポジウム「自由貿易は私たちを“幸せ”にするのか――TPP・TTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ)・TiSA(新たなサービス貿易協定)が脅かす民主主義・環境・暮らし」が、6月19日に東京都内で開催されました。主催はアジア太平洋資料センター(PARC)。アメリカからのパネリストは、「大統領選後のオバマ大統領の残存任期でも、議決される可能性は薄くなっている」とアメリカでのTPPの展望を語りました。

 アメリカのNGO「パブリック・シチズン」の国際キャンペーン責任者、メリンダ・セントルイスさんは、反対運動の空前の盛り上がりなど、アメリカ国内でのTPPをめぐる最新情勢と企業の動きを報告。とくにISDS(投資家対国家の紛争解決)条項について、具体的事例を示して詳説しました。

 セントルイスさんは、「TPPは“自由貿易”協定とうたわれているが、30章のうち貿易に関するのはわずか5章だけ。投資家や企業にとっての新しい権利や権益が何百ページも含まれている」と指摘して、「TPPの問題は貿易に限らず、大企業の権力を拡大し、固定化する経済システムへと変貌させることだ」と、強調しました。

アメリカでも批准の
可能性は極めて薄く

 またセントルイスさんは、アメリカ国内では1500団体が反対を表明し、450の環境団体が反対書簡を送付するなど、前代未聞の反対世論が広がっていることを紹介。「共和・民主両党の大統領候補が反対を表明している。すべての下院議員と上院議員の3分の1が改選される11月の選挙が終わるまでは、物議をかもすTPPが批准されることはありえない。選挙後、オバマ大統領が退任するまでの2カ月間が唯一、議決可能だが、その見込みも反対世論の高まりで日に日に薄くなっている」と、今後の展望を語りました。

 連帯の力あれば打ち破れる

 討論では、「TPPのような企業の支配力を強める経済協定ではなく、オルタナティブな道を求める世論はないのか」など、会場の参加者から多くの質問が出されました。

 セントルイスさんは「TPPが大企業の利益を守るしくみであることが、ここ数カ月の間に多くの人々と共有されてきている。過去にもMAI(多国間投資協定構想)やFTAA(南北アメリカ自由貿易協定)など、企業権益を拡大するような国際協定を、私たち市民運動の力で、いくつも打ち破ってきた。TPP、TTIPも連帯すれば打ち破れる。私たちで手をつなぎ、もう一つの世界へ変えていこう」と呼びかけ、会場から大きな拍手がわきました。


ISDS条項を使って提訴された
これまでの事例
ローンパイン社 対 カナダ
 水質、土壌、大気の汚染が問題になっているフラッキング(水圧破砕法)による天然ガス採掘を、ケベック州が環境調査の間、一時禁止。アメリカの天然ガス企業ローンパインが2億5000万ドルの損害賠償を求めてカナダ政府を提訴。現在、係争中。

シェブロン社 対 エクアドル
 汚染者が政府に賠償を要求している事例。アメリカ大手石油企業シェブロンがエクアドルのアマゾン地域で土壌、水質、大気汚染を起こし、18年間エクアドル国内の裁判で争ったあげく、出された判決(95億ドルの賠償金)が「投資家の権利を侵害する」と提訴。現在、係争中。

トランス・カナダ社 対 アメリカ
 カナダのエネルギー企業トランス・カナダが計画していたパイプラインの建設申請を、「環境に悪影響を与える」との世論に応え、オバマ米政権が却下。同社は、建設費と、実現すれば見込まれた利益あわせて150億ドル(1兆6200億円)もの賠償を求めてアメリカ政府を提訴。現在、係争中。

(新聞「農民」2016.7.4付)
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