新聞「農民」
「農民」記事データベース20161003-1232-01

輸入米価格偽装

TPP批准なんてとんでもない

関連/輸入米の出回り放置してきた政府責任は重大/表向きの価格で販売する業者はいないはず


“TPPの影響はない”の
ウソとごまかし明白に

不要な外米輸入はやめよ!

 9月15日の日本農業新聞は「輸入米で偽装取引」「公表価格より安く流通も」と大きく報道しました。

 記事は、「売買同時入札(SBS)をめぐり公表されている落札価格より安い価格で取引される商慣行が横行していた」と指摘。

 同紙と毎日新聞(9月14日)によると、商社は1キロ105円で調達した輸入米を国に145円で売り渡し、国は差額(マークアップ)を49円とって、194円で卸売業者に売却した――これが表向きの説明です。

 しかし、裏では商社から卸売業者に40円の「調整金」が支払われていました。この結果、国産の業務用米とほぼ同じ水準であったはずのSBS輸入米は1キロ40円安い価格で流通していたのです。

 「こうした取引は明るみに出ることなく長年続き、SBSで輸入されたコメの大半は、国内で市場が拡大している外食産業などで使われてきた」(毎日、9月14日)のが実態です。

 輸入米の品質を巡って総合商社・兼松が卸業者から賠償を求められた訴訟の判決で、東京地裁が6月、「調整金を差し引いた金額が実質的な輸入米の取引価格」と認定したことが、今回の報道のきっかけになりました。(別項)

 この件について山本農水大臣は会見で「我々としてはマークアップ方式によって国内産米の市場価格に変動はありませんと言ってまいりました。その言っておったことと異なることになることが最大の問題だと思っております」とコメント(9月16日)しています。

 「偽装」の真の責任は政府にあり

 今回の報道で問われるのは、SBS輸入米が国産の業務用米と同等の価格で流通しているとしてきた農水省の説明と実態が異なることが明らかになったことです。

 同時に、SBS輸入米の予定価格を決定する農水省が、国内市場価格を事実上操作していた可能性があります。

 SBS入札の仕組みではマークアップの水準だけでなく、買入予定価格と卸業者などへの売渡予定価格も農水省が設定します。

 SBS輸入が始まったのはMA(ミニマムアクセス)米輸入が始まったのと同じ1995年です。第1回の入札こそマークアップは横並びで1キロ292円でしたが、現在は40円程度。国内産米価格の下落に合わせて、SBS米の不落札を避けるために下げ続けてきたといえます。

 買入予定価格も高めに設定し、輸入商社の利益から卸売業者へ「キャッシュバック(調整金)」できる余地を作ることによって「不要な外米」を少しでもさばけるようにしたい政府の思惑があったことは明らかです。

 はがれた「影響ゼロ」の化けの皮

 農水省はこれまでSBS米の国内産米価格への影響はないと強弁してきました。TPPで、アメリカ、オーストラリアからSBS方式による国別特別枠7・8万トンを受け入れても、増加する輸入数量と同量の備蓄米を買い入れるので国内産米価格への「影響はゼロ」と言い張ってきました。

 しかし公表価格より安く流通してきたSBS米は、これまでも国内産米価格に重大な影響をもたらしてきたこと、さらにTPPで安い米の輸入が増えれば、市場価格の足を引っ張ることは「市場の常識」です。

 今回の報道によって、これまでの農水省の言い分が許しがたい欺まんであったことが明らかになったのです。

 TPP批准阻止、MA米制度を廃止せよ

 「TPPの影響はない」という「TPP対策」の破たんは明白です。臨時国会での徹底審議とTPP承認案の撤回を求めます。

 先の参議院選挙では、TPPや米価問題での自公政権への怒りが11の1人区での野党統一候補の勝利につながり、与党に衝撃が走っています。

 全国食健連が呼びかける秋のグリーンウエーブ行動で「SBS偽装」問題追及の運動を農家や生産者団体などに広げ、TPPの国会批准阻止、MA米もSBS米も中止せよ! の声を広げるときです。

 農民連は徹底した調査と実態の解明、SBS入札の停止などを求めて、政府に緊急申し入れを行います。


(偽装)取引は長年続いた…

 「2013年10月のSBSで両者は『兼松が輸入米を1キロ約145円で国に売り、国は1キロ約194円で卸業者に売る』との条件を示し308トン分を落札、国は社名を伏せて同様の情報を公表した。一方で兼松は利益分を含め105円前後で輸入米を調達し、国から支払われる代金との差額約40円を『調整金』として卸業者に渡した。卸業者は公表価格より調整金分だけ安い154円前後で輸入米を入手した。兼松は少なくとも11〜14年、こうした取引を繰り返していた」(毎日新聞9月14日付から)


 輸入米の出回り放置してきた政府責任は重大

 茨城県農民連・岡野忠会長(稲敷市)の話 米農家は、低米価で困難なかでも低コスト栽培に取り組み、収量を上げるために努力しているのに、政府が偽装によってつくりだされた安い輸入米の出回りを放置し、農家をだましていたことは許せません。

 正確な情報を提供せず、農家無視の手法はTPPと同じ。政府と輸入商社に対し強い怒りを覚えます。

 表向きの価格で販売する業者はいないはず

 西日本の米卸会社社長のAさんの話 国産米の価格があまりに不安定なため、納入先(業務店)の要望で扱わざるをえない。商社の調整金(ゲタと言っているが)は常にあり、キロ50〜20円程度。外国産白米は砕米の混入(5〜10%)など品質面でリスクがあり、実需者も外国産には抵抗感があるので国産より少々安い程度では扱えない。調整金も織り込んで販売しているのが実情だ。

(新聞「農民」2016.10.3付)
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