新聞「農民」
「農民」記事データベース20161205-1241-01

崩壊に向かうTPP

トランプ次期大統領 脱退を宣言
それでも採決強行狙う安倍政権


異常な固執やめ直ちに廃案に

 トランプ次期アメリカ大統領は11月21日、来年1月20日の就任初日に着手する優先政策6項目のうち、真っ先に「環太平洋経済連携協定(TPP)から脱退」する方針を正式に表明しました。当選後、初めてのことです。

 「私は就任初日に実施する政策の一覧を作った。まず貿易だ。TPPは、脱退を通告する。米国に壊滅をもたらす可能性があるからだ。代わりに2国間貿易協定をめざす。そうすることで雇用や産業を取り戻す」――トランプ氏の方針はきわめて明快で、安倍首相やオバマ大統領が期待する「修正」や「変心」の余地はまったくありません。

 TPPは、少なくともGDP(国内総生産)比率が85%を占める6カ国が承認しないかぎり発効せず、つぶれてしまいます。アメリカのGDP比率は60%。次期大統領が脱退を明言したため、TPPは破たんする可能性がますます強まり、米日メディアは「TPPの死」と報道しています。

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日本テレビから

 会談の4日後に相手はゼロ回答

 大統領選挙後の安倍首相の言動は、異常と「空回り」というほかないものでした。

 トランプ氏の「君子豹変(ひょうへん)」を狙って、首相は「あなたが全米のどこに居ても私はそこに行く」と面会をせびり、17日の会談後は「ともに信頼関係を築いていくことができると確信の持てる会談だった。様々な課題について私の基本的な考え方を話させていただいた」と述べたものの、中身は公開せず。

 会談について、ニューヨーク・タイムズ紙は「TPPなどで強い姿勢で臨むべきだとの官僚からの助言を安倍首相が拒絶し、個人的な信頼構築を優先した」との見方を紹介。ロイター通信は「今回の会談でTPPが大きく取り上げられた可能性は低い」と報じています。

 ヤミの中の会談のため中身は不明ですが、はっきりしているのは、トランプ氏が会談の4日後に、安倍首相が切望する「豹変」どころか「ゼロ回答」を突きつけたことです。

 TPPは完全に死んでしまう?

 もう一つの異常は、TPPとAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議で、安倍首相が熱病に冒されたような絶叫調で、「信頼関係」を築いたはずのトランプ氏あてこすりの“自由貿易演説”をぶったことです。

 「安倍首相は『世界中で自由貿易が厳しい風を受けている中で、各国がTPPの国内手続きを断固として進めていくことを期待している』と呼びかけ、各国の取り組みによって『米国にもTPPの意義についての理解が進むことを期待している』と訴えた。また『われわれが現状にひるんで国内手続きをやめてしまえばTPPは完全に死んでしまう。保護主義を抑えられなくなる』と強調した」(産経、11月20日)

 日本が国内手続きを強行したところで、「TPPが完全に死んでしまう」のは冷厳な事実です。安倍首相も帰国後、「トランプ氏が翻意するという確信があるのか」と追及されると、「確信はない」と答えざるをえませんでした。

 それでも、TPPをなんとか生き長らえさせようと画策するのは「数年間をかけて反対姿勢の軌道修正を促す『熟柿作戦』(首相周辺)を覚悟」しているからでもあります(読売、11月19日)。「数年」といえば、トランプ政権後をにらんでいることになりますが、安倍政権がそこまで持つとでも思っているのでしょうか!

 さじを投げたかオバマ政権

 安倍首相の「空回り」をよそに、オバマ政権は「さじを投げた」かのようです。

 TPPをゴリ押ししてきた「フロマン米通商代表は『東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に入るか、米国抜きのTPPを進めるか。それは各国が決めることだ』『適切な時期に、次期政権に働きかけるよう参加国に促した』と述べるなど、『さじを投げたかのようだった』」と報じられ、オバマ大統領も「参加各国に(トランプ氏に対する)『外圧』を促した」と伝えられています(朝日、日経、11月20日)。

 これが事実とすれば、フロマン・オバマ両氏はトランプ氏説得を諦め、11カ国、特に日本に「外圧」を促しているということになります。異例中の異例というべき事態です。

 安倍政治の行き詰まりは明白

 「空回り」し、アメリカを含む参加国から冷たい目で見られながら、安倍政権がTPPに異様に固執するのはなぜか?

 第1に、TPPが破たんしつつあるアベノミクスの看板政策であり、TPPにしがみつく以外に「成長戦略」を進める術がないからです。アベノミクスの行き詰まりを崩壊目前のTPPで打開する以外にない――安倍首相の暴走は、この政権の「強さ」を表すものではなく、「安倍政治の行き詰まり」、国民との矛盾の深刻さを示しているものにほかなりません。

 第2に、「トランプ現象」やイギリスのEU(欧州連合)離脱の底流にあるのは、格差と貧困の拡大、国内産業の空洞化などグローバル資本主義の深刻な矛盾です。「保護主義とのたたかい」を絶叫し、TPPの国会承認を強行する安倍首相の暴走は、財界・多国籍企業奉仕の政治そのものであり、世界の流れに逆行するものです。

 承認強行すれば米国の思うツボ

 第3に、共和党重鎮のハッチ上院財政委員長は「次期大統領はTPPを支持しない。代替案は日本との協定だ」と述べていますが、これは「経済官庁の幹部」が「TPPの合意内容に上積みを図る、露骨な再交渉要求」と指摘せざるをえないものです(読売、11月22日)。

 それでもTPP承認を強行することは、「飛んで灯に入る夏の虫」、アメリカの思う壺(つぼ)です。

 「暴走やめろ。直ちにTPPを廃案に」の声と運動を強めるときです。

(新聞「農民」2016.12.5付)
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