新聞「農民」
「農民」記事データベース20161226-1244-02

TPP
強行成立・トランプ次期大統領離脱表明

今後どんな問題があるのか

横浜国立大名誉教授 萩原伸次郎さんに聞く

 TPPの承認と関連法を強行成立させた安倍政権。アメリカの離脱表明で発効はしない見込みですが、今後どのような問題があるのか。横浜国立大学の萩原伸次郎名誉教授に聞きました。


2国間交渉で上乗せ要求迫る
米財界の意向ストレートに

画像  トランプ米次期大統領が、TPPからの離脱を表明しました。TPPは自由貿易協定と言いますが、今日の通商協定の目的は、投資の自由を重視することであり、多国籍企業のビジネスをいかに有利に進めるかということにあります。

 TPPを推進する人たちは、「輸出が増え、雇用、賃金を増やす。労働者に大きな利益がある」と主張していました。

 雇用は増えずに賃金も上昇せず

 しかし、今日の通商協定では雇用は増えません。それは、アメリカ、カナダ、メキシコ3国の北米自由貿易協定(NAFTA)で実証されています。NAFTAは、クリントン政権の下で締結され、当時は「賃金が上がり、雇用が増える」と宣伝しましたが、増えたのは貿易額だけでした。3国の貿易額は激増しましたが、アメリカの雇用増、賃金上昇にはつながりませんでした。

 アメリカの企業がメキシコを自分たちの有利な生産拠点に位置づけ、メキシコに向けてトウモロコシを輸出し、メキシコの小農民を破産に追い込み、その土地を買い占めて工場を進出させるとともに、トマト、カリフラワーなどアメリカ向けの作物を作らせました。その農産物がアメリカに輸入されただけで、結局、アメリカの雇用は増えるどころか減ったのです。

 従って、NAFTAの太平洋版であるTPPを促進しても、雇用は守れないということをトランプ氏はわかっているのです。

 経済成長を図る狙い捨て切れず

 アメリカの離脱表明を受けて、安倍首相は、トランプ氏の“翻意”を期待したようですが、翻意するはずがありません。それでも安倍首相が臨時国会で批准と関連法を強行成立させたのは、TPPをアベノミクスの中軸と位置づけ、経済成長を図るというねらいを捨て切れていないからです。

 今後は、TPPがダメになっても、米財界の要求がトランプ氏を通じて、ストレートに反映される可能性が高いと思います。現に、商務長官や財務長官などトランプ氏の次期閣僚がアメリカの金融の中心であるウォールストリート関係者で占められています。共和党の保守本流が経済政策の本流になることはまちがいありません。トランプ氏自身がレーガン元大統領を尊敬しており、とても危険な政権です。

 市場開放要求と農協つぶし作戦

 トランプ氏の作戦は、共和党の大統領選挙綱領にあるように、TPPに代わるアメリカの利益となる強力な2国間貿易協定に持ち込むことです。アメリカの市場を増やすために、日本に市場開放を要求してくるでしょう。以前から、アメリカ通商代表部(USTR)は毎年、年次報告で日本が薬価を低く抑えているとして、医療の自由化などを迫ってきました。

 もう一つは、農協攻撃です。日本政府の規制改革推進会議を使って農協をつぶして、農協の信用・共済事業を分離させる。まさに新聞「農民」12月12日付にあるように、「農協を解体して大企業が農業を食いものに」することをねらっているのです。アグリビジネスが農業をもうけの対象にする。これがアメリカと日本の財界が一緒になって要求していることです。

 TPPは発効しませんが、日本が批准したことによって、今後の日米2国間交渉でアメリカは、それをベースにこれまでの並行交渉の結果とあわせて、さらに上乗せした要求で交渉に臨んでくることは明らかです。

 労働運動と合流 市民運動大きく

 これからのたたかいですが、市民の運動が大きな役割を担ってくると思います。とくに財界がねらう医療と農業は、国民の生活に密接に関わっています。医療や農業分野での運動が、労働運動などとも合流して、大きな市民運動に発展することを期待しています。それが衆議院選挙での野党共闘につながり、安倍政権を退陣に追い込むことが求められています。

(新聞「農民」2016.12.26付)