新聞「農民」
「農民」記事データベース20170130-1248-05

安倍農政を問う
戦後の農業・食料を振り返る
(下)

元東京教育大学教授
元農業・農協問題研究所理事長
暉峻 衆三さんに聞く


歴代の自民政権の自由化政策で
食料安保の基盤が一層ぜい弱に

 日本農業は1980年代から大きな歴史的転換期を迎え、第2の時期に入り、今日に至ります。

 新自由主義の下打撃を被る農業

 80年代、90年代を通じて高度経済成長は終わり、低成長、新自由主義のもとで多国籍企業が基軸のグローバル経済への移行がIT革命と連動して進んでいきます。財政緊縮と貿易・投資拡大の必要性とも関わって新自由主義、つまり規制緩和、貿易・投資の自由化による「経済成長追求」の時代へと入っていきます。

 70年代以降もアメリカは依然として世界の軍事、経済、貿易大国の地位は保ちますが、以前より軍事的、経済的地位は低下し、貿易赤字の増大に陥ります。アメリカの貿易赤字の4割を対日貿易が占めるもとで、対日貿易の自由化、市場開放、経済の構造改革が強要され、特に農業分野でそれが顕著になりました。

 第1に、貿易のグローバル化・投資の拡大をめざす86年発足のガット(関税及び貿易に関する一般協定)・ウルグアイ・ラウンドの早期妥結に日本は積極的な協力を約束しました。これが95年のWTO(世界貿易機関)の設立につながっていきます。

 第2に、円高の進行のなかで、日本は海外投資を積極的に行い、トヨタなど日本の大企業は多国籍企業化していきました。

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「TPP反対」「米を守れ」と開かれた集会とデモ=2016年10月15日、都内

 第3に、農業大国アメリカにとって農産物の輸出増による貿易収支の改善は死活的に重要でした。日本は従来の食料自給に重点を置いた食料安保政策を見直し、輸入と備蓄を加味した食料安保政策に転換していきました。「基幹作物である米を自由化せよ」という圧力のもと、米は、95年のWTO体制で高関税ではありましたが、自由化されました。「牛肉やかんきつ類も早急に自由化せよ」という圧力のもとで、90年、91年に牛肉、オレンジも自由化されました。米、畜産、果樹は高度成長期の増産の柱とされていましたが、それが掘り崩されることになったのです。

 価格政策、国境調整政策を行う根拠法であった61年の「農業基本法」は、99年に貿易自由化時代に適合した「食料・農業・農村基本法」に置き換えられ、米をはじめ主要食料に対する価格政策、市場調整政策を行う根拠法とされた「食糧管理法」(42年制定)は、WTO、自由化時代に合わせて、94年に「新食糧法」(主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律)に変えられました。

 農業問題は今や自民政権の弱点

 90年代から今日まで、グローバル化、自由貿易の拡大のなかで新自由主義による市場開放、価格保障・所得補償政策からの撤退が行われ、日本農業の柱は打撃を受けました。90年代に入り、農業総生産額、農業所得は低落を余儀なくされ、兼業所得の低下と相まって、農家は苦境に立たされることになりました。そのなかで離農する農家も増え、高齢化が進行し、耕作放棄地が増大します。

 政府の構造転換政策のもとでも何とか生き残った少数の農家も、規模拡大、企業型経営への転換を迫られ、また農民の経営と生活の安定に寄与してきた総合農協を解体しようとする規制改革会議などからの攻撃は農業危機をいっそう深刻にしています。

 政府は、企業の農業参入、企業による土地所有の容認を図り、危機に対応しようとしますが、実際には対応できず、危機はさらに深刻化していきます。食料自給率は、60年に80%だったのが、今日では39%に半減しました。

 TPP容認に突き進んだ安倍政権は、トランプ新大統領のもとでのFTA(自由貿易協定)交渉、EU(欧州連合)とのEPA(経済連携協定)交渉のテーブルに着く際に、まずTPPをベースにし、さらにそれよりも踏み込んだ自由化を迫られ、食料安保の基盤がいっそうぜい弱化することは必至です。

 政府は、自給率40%の現状を一応危機とみなし、それを45%にアップする目標を掲げてはいますが、現実には、TPP、EPAなど一段と自給率を低下させる政策のみを追求しています。農業・食料問題は今や自民党政権最大の弱点で、まさに失政というべきです。

 農政のひずみを正す農民連運動

 農業危機が深刻化するもとで、農民連をはじめ広範な農業者、農協関係者が再生産可能な農産物価格の保障、所得補償を求め、経営と生活を守るたたかいに結集するときです。それは農業危機を打開し、食料安保の基盤を強化する道につながります。その際、飼料用穀物・作物の生産を増やし、耕作放棄地、林野を活用するなどして畜産を本来の土地利用型に近づけることによって、日本農業のひずみを正しつつ、日本の食料安保の基礎を固めることが今必要です。

 農業以外の問題でも、いま安倍政権のもとで、平和・人権・民主主義に立脚した「日本国憲法」改定の策動が現実化しています。広範な労働者、市民が「日本国憲法」擁護を掲げて平和・労働・生活・経営を守るたたかいに加わり、市民と野党、野党同士が連携し、安倍政権を退陣に追い込むことが求められています。

 農民のたたかいは、その流れと共通であり、それに合流しうるものです。このたたかいは、食料安保――農民連や国際農民組織ビア・カンペシーナの言葉でいえば食料主権――も含めた「平和な福祉型国家」の構築をめざす全国民的なたたかいといえるでしょう。

(おわり)

(新聞「農民」2017.1.30付)