新聞「農民」
「農民」記事データベース20170313-1254-05

われわれ農民は
RCEP(アールセップ)を通じた
新たな農業つぶしの動きを許さない

2017年2月26日
農民運動全国連合会

関連/日・韓・豪政府が多国籍企業を代弁
  /TPPの内容をRCEPに持ち込むな
  /われわれ農民はRCEP(アールセップ)を通じた新たな農業つぶしの動きを許さない


 われわれ農民は、RCEP(東アジア包括的経済連携)が、アジアの小規模家族農業を破壊し、増大する人口に安定的に食料を提供する基盤を破壊しかねないとの重大な懸念を抱いている。

 すでに各国政府や、WTO(世界貿易機関)、FTA(自由貿易協定)が進めてきた農産物貿易の自由化のため、日本でもその他のアジア諸国でも、低価格の輸入農産物が流入し、小規模農家の営農と生活が困難に直面している。ここにRCEPによる自由化の一撃が加われば、十分に痛めつけられてきた農民の困難は、さらに堪え難いものとなる。

 日本の農産物がさらに打撃被る

 日本では、1960年に発効した日米安保条約以来、アメリカ(およびオーストラリア、カナダ)からの小麦、大豆、飼料穀物などの輸入激増のもとで、農業の基礎的な部門を「安楽死」させられてきた。これらの「安楽死」作物に代わって、野菜や果実、畜産物などが「選択的拡大」品目に指定されたが、主に中国などアジアからの輸入によって打撃を受けてきた。

 その間、日本の基幹的農業従事者数は85年の346万人から2015年には177万人と30年間に半減するなど、農業基盤は著しく弱体化させられてきた。RCEPは、日本がFTAを結んでいない中国、韓国、ニュージーランドと新たにFTAを結ぶことを意味し、かろうじて残った日本の農産物がさらに打撃を受けることは自明である。

 ASEAN(アセアン、東南アジア諸国連合)をはじめとする他のアジア地域でも、WTO、FTAのもとで、関税が削減、撤廃されてきた。アセアン域内の関税はほぼ撤廃され、FTAによってその他の地域との間でも高度に自由化され、アジアの農民はすでに深手を負っている。

 「TPP並み」の協定めざす危険

 RCEP交渉では自由化率を発効後10年で80%とすることで合意したとの報道もある。これは、アセアン・インド自由貿易協定の自由化率を上回る。また、アセアン以外の6カ国の中でFTAを結ぶとすれば、最大15件のFTAが成立するが、現在成立しているのは6件。これ以外については、初めてFTAを結ぶことになり、新たに9件のFTAが結ばれるのと同じこととなるため、自由化は一気に進む。

 さらに危険なのは「TPP並み」のRCEPをめざす動きである。日本やオーストラリア、ニュージーランドなどのTPP交渉参加国はもともと、RCEPをTPPに近づけようとしてきたが、「TPPの死」が決まる中で、TPPの内容をRCEPの中で復活させる動きが強まっている。

 とりわけ、安倍政権は、ISDS(投資家対国家紛争解決)や知的財産権保護の強化など、TPPをベースにしてRCEPを含めた経済連携交渉を進めていくことを明言している。日本政府の交渉態度は、国民生活と国内農業を犠牲にしながら、RCEP交渉参加国の国民生活と農業破壊に加担するという意味で、二重に犯罪的である。

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世界各国での市民のたたかいを交流しました

 アグリビジネスが種子食い物に

 農産物自由化の問題と並んで農民にとって特に重要なのは、種子の問題である。

 RCEP交渉の中で、日本、韓国、オーストラリアは、加盟国に「植物の新品種保護に関する国際条約(UPOV・ユポフ)」(91年版)の締結を義務付ける条項を提案しているという。現在アジア諸国の大半の農家は、自家採種した種子を使用し、農業を行っている。UPOV91条約を締結すれば、こうした種子に対する農民の権利と伝統的農法が制限され、多くの国でアグリビジネスの種子市場支配を許し、農民の営農と生活の基盤が根底から脅かされる。

 種子をアグリビジネスの食い物にしようとする動きは、すでにUPOV91年条約を批准した日本でも急展開している。安倍政権は2月10日、主要農作物種子法廃止法案の提出を閣議決定した。主要農作物種子法は、農地改革によって創出された家族農業経営を守るために、稲、麦、大豆の開発を都道府県の公的研究機関が行い、安価な種子を農民に安定的に供給してきた法制度であり、65年の歴史を有している。日本では、UPOV91に基づき、種苗法を改定し、育種者権が大幅に強化されたが、主要農作物種子法などの仕組みが、アグリビジネスの本格参入を阻み、種子の高騰を防いできた。安倍政権による閣議決定を受け、アジアの国々と同様、日本でも、種子市場へのアグリビジネスの参入、種子に対する農民の権利の侵害、種子の価格高騰、種子企業と流通企業や外食産業などが提携した生産の囲い込みが懸念される事態になっている。

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昼食に出た交渉官ら(左側)に市民がアピール(2月28日、神戸市)

 アジア諸国の農民と力合わせ

 国連の専門家パネルは、世界人口がピークに達すると予想される2050年までに農業総生産を増大させる必要があるとし、その中で小規模農業が果たす役割に期待している。

 まさにそうした時期に、RCEPは、アジアの小規模家族農民の営農と生活を破壊し、種子を農民の手から奪い、各国国民から食料と食料主権を奪いかねない。われわれ日本の農民は、RCEPを通じた新たな農業つぶしの動きを現実のものとさせないため、アジア諸国の農民と力を合わせる。

(新聞「農民」2017.3.13付)
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