新聞「農民」
「農民」記事データベース20170403-1257-03

なんと!!種もみ代10倍に!?


種子法が廃止され、
企業が種を支配したら

 とんでもないインチキ前宣伝

 主要農作物種子法(種子法)の廃止法案が3月23日、衆院農水委員会で与党などの賛成多数で可決されました。採決当日の委員会では、定足数に満たずに審議も一時中断するなどお粗末な議論で早期成立を強行しようとしています。

 「生産資材を1円でも安く、農産物を1円でも高く」――これが「農業競争力強化プログラム」のふれこみで、安倍政権はその一環として種子法廃止をねらっています。

 しかし、これがとんでもないインチキであることが、農水省が昨年9月に規制改革推進会議に提出していた資料「生産資材価格の引き下げに向けて」から明らかになりました。

 同資料によれば、三井化学アグロが開発した「みつひかり」の価格は20キロ8万円。業務用米として評価の高い「きらら397」(北海道)の11倍、「まっしぐら」(青森)の10倍です(表1)。

 農水省は「民間企業が参入しにくい中においても、普及が進んでいる品種」もあるとして、「みつひかり」をあげ、「超多収であるため、所得は遜色(そんしょく)ない」と持ち上げています。しかし、生産収量は10アールあたり12〜13俵で、一般品種の約1・5倍にすぎません。

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「種子を守れ」とRCEPの交渉官にアピールする市民(2月28日、神戸市)

 競争を平等にと種子法廃止狙う

 同省は種子法廃止の理由として「都道府県が開発した品種は、民間企業が開発した品種よりも安く提供することが可能」なことをあげ、「平等に競争できる環境を整備する」ためとしています。

 「生産資材を1円でも安く」というスローガンに逆行して、種子価格を10倍に引き上げて「平等に競争できる環境を整備する」とでもいうのでしょうか!

 「野菜の種は高い」というのが農家の実感ですが、種子法のもとで公的にコントロールされてきた米、小麦、大豆と、民間育種が主流の野菜とでは、生産コストに占める種苗代の違いは2〜3倍の開きがあります(表2)。

 またアメリカでは、遺伝子組み換えを含むアグリビジネスの種子支配が強まるにつれて、トウモロコシや大豆の面積あたり種子代が3〜4倍にはねあがっており、自家採種と公共品種が主流を占め続けている小麦とはきわめて対照的です(図)。

 種子価格だけの問題ではない

 問題は種子価格だけではありません。

 「みつひかり」は北海道と北東北3県、関東と近畿・四国の一部を除く38都府県で作付けされ、「栽培面積は年々増加」と、農水省は自分の手柄であるかのように述べています。しかし、これは食味の向上と温暖化対策として、県・地域に合った品種改良が急速に進んでいる動向に逆行し、品種の画一化が進むことを意味します。

 「北海道のお米がおいしくなったのも、うどんだけでなくパンやラーメンに向いた小麦が作られるようになったのも、地域に試験場があったから。今後も地域にあった品種開発を望みこそすれ、その必要性を否定する意見なんてとんでもない」――北海道農民連委員長で、十勝・音更町で畑作を営む山川秀正さんの声をこそ聞くべきです。

 種子法廃止案の撤回・廃案を

 京都大学の久野秀二教授は本紙のインタビューに答えて「長い目でみたとき、種子法の廃止は、主要食料を安定的に供給するためにこれまで築き上げてきた制度、体制を弱め、米・麦などの優良種子の供給が不安定になり、必要なときに手に入らなくなってしまうおそれがある」と警告していますが、私たちも種子法廃止法案の撤回・廃案を要求します。
(M)

(新聞「農民」2017.4.3付)
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