新聞「農民」
「農民」記事データベース20170417-1259-07

農業競争力強化支援法案
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衆院農水委での参考人意見陳述

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 衆院農林水産委員会で4月6日、農業競争力強化支援法案が与党などの賛成多数で可決されました。同日行われた参考人質疑では4氏が意見陳述を行いました。東京大学大学院の鈴木宣弘教授、岡山大学大学院の小松泰信教授の要旨を紹介します。


競争力強化でなく
農業弱体化法案だ

東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏

画像  この法案は、全体として、農業競争力強化ではなく、弱体化になりかねないと思います。本法案を含む「農業競争力強化プログラム」の底流には「民間活力の最大限の活用」という表現で、「規制緩和すればすべてがうまくいく」という時代に逆行した短絡的な経済理論があります。

 そしてその裏には既存の組織によるビジネスやお金を自らの方に引き寄せたい「今だけ、 カネだけ、自分だけ」という「3だけ主義」の人たちの思惑が見え隠れしています。

 国民が求めているのは、アメリカを含む一部の企業利益の追求ではなく、自分たちの命、環境、地域、国土を守る安全な食料を確保するために、国民それぞれがどう応分の負担をして支えていくのかというビジョンと、そのための包括的な政策体系の構築です。

 競争は大事ですが、共助・共生的なシステムとその組織(農協や生協など)の役割、消費者の役割、政府によるセーフティーネットの役割などを包括するビジョンが、本法案にはありません。

 共販と共同購入位置付けるべき

 本法案には、個々の農家が農産物の販売先や資材の購入先を多様化させて、農協を通じた共販や共同購入から、むしろ離れることを意図するような文言があります。

 歴史的に見れば、大きな相手と農家が個別取引することで農産物価格が買い叩かれたり、資材価格がつり上げられたりして、農家は苦しんできました。

 そこから脱却するために農協による共販と共同購入が導入され、これは取引交渉力を対等にするものだとして独占禁止法の適用除外とすることが、世界的な原則になっているのです。つまり農業所得の向上には協同組合の共販と共同購入が重要であることを、本法案にもしっかりと位置付けるべきだと思います。

 コストダウンで競争に勝てない

 それから、そもそもコストダウンだけが競争力強化だという視点もまちがいだと思います。

 「強い農業」とは何でしょうか。規模拡大して、コストダウンすれば「強い農業」になるでしょうか。それだけをがんばっても、オーストラリアやアメリカには一ひねりで負けてしまいます。

 「少々高いけれども、ものが違うからあなたのものしか食べたくない」という人がいることが重要で、本物を生産する生産者とそれを理解する消費者とのネットワークこそが、強い絆の源です。

 またスイスやフランスなどでは、環境保全や景観、生物多様性など農業が果たしている多面的機能が国民にも理解されており、アメリカでは農家に最低限の所得が確保されるような「予見可能」なシステム、政策を完備しています。これが食料を守るということです。農業政策は、農家保護政策ではなく、国民の命

を守る安全保障政策です。

 そういう意味では、わが国の収入保険は米価が下がるたびに基準収入が下がり、セーフティーネットとはいえません。まったく規模の違うアメリカ農業が不足払いなど徹底した農業競争力強化策を行っているのに、わが国はセーフティーネットもなくし、コストダウンだけで競争に勝てるというのは、実は日本から家族農業がなくなってもいいという議論になるのではないでしょうか。

 一連の農業改革プロセスは異常

 最後に、一連の農業政策プロセスは異常だと言いたい。規制改革推進会議という法的位置づけもない諮問機関に、利害の一致する仲間だけを集めて国の方向性が決められ、誰にも止められないというのは異常事態です。本法案は、アメリカの経済界の要求に応えて、信用・共済マネーを奪い、共販と共同購入を崩し、既存農家をつぶして企業を参入させようという同会議の答申を受けたものになっており、農家所得増を目指す農業改革ではありません。同会議は解散すべきです。

 国民に有害な「3だけ主義」の流れに終止符を打ち、「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」の法案をつくるべきです。真の農政改革実現には、政界再編の方が効果的だと思います。

(新聞「農民」2017.4.17付)