新聞「農民」
「農民」記事データベース20170522-1263-01

農業競争力強化支援法

私は反対します

宮城県農民連事務局長 鈴木 弥弘さん
参院農水委参考人質疑

 農業競争力強化支援法が、自民、公明、日本維新の会などの賛成多数により参議院で可決され、成立しました。参院農水委員会で宮城県農民連の鈴木弥弘(やすひろ)事務局長が参考人として出席し(4月27日)、反対の立場から意見を述べました。鈴木さんの発言大要を紹介します。


共存する農村のつながり壊し
地域の衰退を加速する恐れ

 国民の食料を生産する生業

 私は、宮城県の水田単作地帯から来ました。東京からUターンをして稲作を始めて今年で33年目に入ります。しかし、自然を相手にやっているために、毎年豊作を期待して努力しますが、秋に収穫してみれば、20勝12敗ぐらいの成績です。

 農業は、農作物を育てて、それを販売し収入を得て、家族を養い、人間らしい生活を確保して、なおかつ生産手段である農地を保全して自然環境を守って、結果として国民の食料を生産する。そういう尊い仕事で、産業というよりはなりわいだと思っています。

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参考人質疑で意見陳述する鈴木さん(右)

 一体誰と何を競争するのか

 土、水、太陽で作物、生命を育む生業をしている農家の立場、視点から今回の法案をみますと、この農業競争力というのは、一体誰と何を競争するのかわからないのです。この法案の目指すところは一体何だろうという素朴な疑問が湧いてきます。

 私たちは、先祖伝来の家屋敷を守り、農地で農作物を生産し、共同の力で農業経営と地域を守っています。

 私の居住する地域は、非農家も含めて160戸あります。うち120戸が何らかの形で農業に携わっている典型的な農村地域、集落です。

 廉価なもの買い農業経営に努力

 こういったところでは、生産資材を扱うところは農協だけではありません。ホームセンターもある。あるいは農業機械は、農協をはじめ農機具メーカーもそれぞれ支店を構えています。

 私は、大崎市ですが、旧古川市や石巻市に卸売市場があり、それぞれが経営する直売所があったり、産直をしたり、あるいは農協の共販に参加するなどで経営を維持しています。また、農家は選択をして、より廉価でいい品質の資材を買い求めながら自分の経営努力をしている。そして、業者は業者なりにお客さんを確保して、サービスを提供して努力をしている。そういうことで地域では共存共栄をしている現状があります。

 地域の共存共栄継続が困難に

 法案は、農業という言葉は使っていますが、農業者というよりも、農産物を扱う、あるいは農業生産物の流通に関わる事業者の競争力を強化して業界再編を促し支援する、それを国が行うというところに重点がある法案のように思います。農家はそんなことをお願いした覚えはありません。

 頑張っている地域の関連業者も競争にさらされ、体力の弱い者から倒産になっていく可能性もあります。そういうことで、共存共栄していたものがなくなってしまう、継続が困難になってしまうことが十分想定されると思います。

 それは、大店法で商店街がどうなったかをみれば明らかです。

 大型機械の独占価格と量販店の買いたたきが大問題ですが、まったくメスが入っていません。

 そうなると、農業者が一番困るわけです。もちろん、われわれの集落の中にも、農機具メーカーに働いて家族を養っている人もいれば、ホームセンターに働いている人もいます。そういう人たちの働き先、行き場がなくなってしまうわけです。

 そうすると、家族を養わなければならないわけですから、ほかに出ていってしまう。なおさら農村地域の人口が少なくなり、地域の衰退傾向の加速にこの法案は手を貸してしまうことになりはしないかという危惧を持っています。

 そして、日本の国土、地域に合った多様な農業が現在でもありますし、南北3千キロにわたる亜寒帯から亜熱帯までのこの緑豊かな日本の大地、自然に恵まれた大地から、多様な農業者が農業生産をし、食料を生産して、それで農村地域社会を守り、持続していく。そういうことでは、地域社会資本である農業協同組合はなくてはならない存在だと思います。

 自然を相手にリスクと共存

 そういった地域に住む農業者と、そして消費者、関連業者などが共存共栄し、共に成り立つことを全体として国が後押しするということが大変大事なことだと思います。

 農業は、自然が相手ですので、今年は9俵取ろうと豊作を期待してやるのですが、私は水害も経験していますし、地震も何回も経験していますし、直近では3・11の東日本大震災の被災も経験しています。

 そういったリスクと共存しながら、国民のために、家族を養うために、そして地域の環境、地域社会を守るために生活をしています。

 今、最も求められている政策は農業経営を維持する農業者戸別所得補償政策を復活させることです。

 ぜひそういった方向に国としても力添えをいただきたい。しかし、その方向にそぐわない本法案には反対を表明します。

(新聞「農民」2017.5.22付)
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