新聞「農民」
「農民」記事データベース20170605-1265-01

温暖化が食卓を直撃?

ポテチが棚から消えた…

関連/米国産の輸入拡大しろ 検疫は“非関税障壁”だ


北海道台風(昨夏)禍で
ジャガイモ不足深刻

 「原料の国産ジャガイモが調達できず、ポテトチップスの販売を一時休止します」――今年4月、こんなニュースとともに、全国のスーパーやコンビニの店頭からポテトチップスがいっせいに姿を消しました。原因は、昨年の夏に北海道を襲った長雨と3つの台風で、ジャガイモ生産が大打撃を受けたこと。気候変動が農作物の不足となって、食卓に影を落とし始めています。

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空っぽのポテトチップス売り場と休売のお知らせ(4月中旬、都内のコンビニ)

 台風が頭の上を

 「半世紀近くジャガイモを作っているが、頭の上を台風が通って行ったのは初めて」――こう話すのは北海道芽室町(十勝管内)のジャガイモ農家、森浦政明さん。これまで北海道は「梅雨がない」「台風は来ない」のが常識でした。ところが昨年は「6月から7月まで晴れた日がほとんどないほどの日照不足で、8月になって少し持ち直してきたかと思ったら、中旬から台風が3つも襲い、経験したことのない量の雨が降り続いた」と、森浦さんは振り返ります。

 道内では河川が氾濫して流された畑も多く、ジャガイモは土寄せしながら育てるために、畝の間にできた深い溝に雨がたまって、地中で腐るなどの被害が相次ぎました。「出荷量は1割減と道はいうが、被害はもっと大きかったのでは」と森浦さんは言います。

 雨の増加深刻に

 じつは大産地、北海道でもジャガイモの生産量はじわじわと減り続けおり、その原因の一つに、気温上昇があげられています。札幌管区気象台が今年3月にまとめた報告書によると、北海道の年平均気温は2012年までの100年間で1・59度も上昇しています。世界の0・85度、日本全体の1・16度という上昇幅から見ても、北海道の気温上昇は急速に進んでいるといえます。

 さらに今回の不作の原因となった「雨の降る量」と「雨の降り方」に着目すると、1970年代以降、「雨の降る量」の少ない年と多い年の差が大きくなっています。また「降り方」も一度に大雨が降る傾向に変わってきており、今世紀末には、こうした大雨や長雨が増加する傾向がさらに深刻になるという研究報告が相次いでいます。

 国産で色良く

 ジャガイモの不足を受けて、カルビーは33商品、湖池屋は16商品の販売休止や終了を発表しました。北海道はジャガイモの国内生産量の8割を占める大産地。カルビー、湖池屋の両社とも原料の7〜8割が北海道産ジャガイモです。

 その国産が不作なら輸入で手当てすれば…と思いきや、「メーカーは国産志向」(日本スナック・シリアルフーズ協会)だといいます。というのも、生鮮ジャガイモの輸入には検疫による規制があるほか、「ぶつかったときに変色してしまうなど、商品化できる歩留まりが悪い」(同協会)からとのこと。カルビーによると、「ポテトチップスの“命”は揚げ上がりの“色”。美しいキツネ色に揚げるには傷の少ない国産で、糖度が低く、ポテトチップスに向くトヨシロなどの専用品種であることが大事」なのだといいます。

 しかし、北海道の気温上昇(とくに夏の)による減収、重労働ゆえの作付面積の減少などからポテトチップス用生鮮ジャガイモは恒常的に不足気味で、06年の輸入解禁以降、その量はうなぎ上りで拡大しています。


米・英の大手新聞が“社説”で攻撃

米国産の輸入拡大しろ
検疫は“非関税障壁”だ

 “ポテチショック”に騒然とする日本を見て、さっそく「アメリカ産ジャガイモの輸入拡大を」「TPPは日本の農業改革への近道」と社説で書きたてたのが、アメリカの経済紙、ウォールストリートジャーナル(WSJ)と、イギリスの経済紙、フィナンシャル・タイムズ(FT)です。

 WSJは、日本の植物検疫制度を「偽りの主張に基づく保護貿易主義の一環」と決めつけ、「そうした非関税障壁のせいで米国産ジャガイモの売り上げが抑えられてきた」と非難。「TPPに参加していれば輸出額が5倍に拡大したと見積もられるのに、こうしたうまみのあるチャンスはトランプ大統領のTPP離脱で失われた」とまで書き連ねています。

 しかし、TPPなどなくても、日本のジャガイモ輸入量は着々と増えています。しかも、輸入量の8割を占めているのはアメリカ産で、冷凍が最も多く、乾燥、生鮮、調製品などに類別されて輸入されています。

 生鮮は、全量がポテトチップス用で、北海道の端境期である2〜7月に限って輸入が許可されており、産地もシストセンチュウなどが発生していない地域(14州)に限定。そのためアメリカ最大産地であるアイダホ州からの輸入は認められていません。日本での加工施設も港頭地域内になければならないとされていることから、カルビーの広島工場と鹿児島工場にほぼ限定されています。

 つまり、両紙はこうした日本の検疫制度が気に入らない、と言うのです。しかしシストセンチュウは、ジャガイモの生産に壊滅的打撃を与える、病害虫のなかでももっとも恐ろしいものの一つで、そのまん延防止には万全の対策が必要なのは明らかです。

 さらに、米国産ジャガイモにはポストハーベスト(収穫後の農薬散布)の問題もあります。現在のところ、一応、日本向けには使用できないことになっていますが、アメリカでは収穫後のジャガイモに直接クロルプロファムという発芽抑制剤を噴霧するということが行われています。

 またアメリカでは遺伝子組み換えジャガイモもあり、研究開発には毎年何億円もの連邦予算が投じられています。

(新聞「農民」2017.6.5付)
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