新聞「農民」
「農民」記事データベース20171120-1288-02

日米首脳会議

日米FTA「密約」の
疑惑は濃厚


 11月5〜6日にかけて有名ゴルフ場でプレーを楽しみ、高級肉をたらふく食べ、十時間を共にして「蜜月」関係を誇示した日米首脳会談。日本政府は「日米FTA(自由貿易協定)の話は出なかった」と打ち消しに躍起です。しかし、躍起になればなるほど「日米FTA」という言葉を伏せて、事実上「日米FTA」で密約したのではないかというキナ臭さが強烈に匂います。

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安倍首相(右)とトランプ大統領。日米首脳会議で

 貿易赤字解消最優先

 トランプ大統領氏は6日の共同記者会見で「慢性的な貿易の不均衡を是正し、日本に対する貿易赤字を減らしたい。そのために米日間で公平で互恵的な貿易関係を築かなければならない」と述べました。

 首脳会談直前の日米財界人を前にした演説でトランプ氏は、もっと露骨にぶちあげました。「アメリカは、長年、日本からの巨額な貿易赤字に苦しめられてきた。日本との貿易は、公正でも開放的でもない。自由でも互恵的でもない。(赤字解消に役立つ)よりよい貿易協定を速やかに実現できると信じている」「TPP以上の貿易を進める。仕組みが複雑でない貿易をする」と。

 ゴルフの後の高級ステーキ店での会談でトランプ氏は「貿易問題で日米同盟に悪い影響を与えることはしない」と発言したといいます(産経)。また「日米FTAについても議題に上った可能性が大きいが、両首脳は共同会見でまったく触れなかった。これは『世界に日米蜜月関係をアピールするためあえて言及を避けた』(官邸筋)のが真相」と報じられています(東洋経済)。

 これらの報道からいえることは何か――。「日米FTA」という言葉を使わずに、事実上「日米FTA」で合意したのではないか、しかもアメリカはTPP以上の自由化を要求することを宣言し、これを密約のベールで覆い隠すことで合意したのではないかと疑わせるに十分だということです。

トランプ政権のねらいは
「TPP永久離脱」、究極の自由化

 「トランプノー」は3分の2

 10月下旬のトランプ大統領の不支持率は62%で、アメリカ国民の3分の2は「トランプノー」を突きつけています。さらにロシア疑惑や税金逃れのタックスヘイブンにロス商務長官が関与した疑惑が公表され、政権維持さえ危ぶまれる危機的事態です。

 来年11月には下院全議員、上院議員の3分の1が改選される中間選挙があります。日本でのダブル選挙に相当し、共和党退潮、民主党挽回が言われています。

 日本を含むアジア歴訪から何を手土産に持ち帰るか――トランプ大統領の最大の関心事は選挙での得点稼ぎにあります。

 トランプ氏は「上空を通過する北朝鮮のミサイルは撃ち落とせ。そのために日本はアメリカから、もっと兵器を買え。そうすれば米国の雇用が生まれ、日本はもっと安全になる」と迫り、同意をとりつけました。「安全保障と武器輸出をディール(取引)するしたたかな商売人」(外務省幹部)の本性むき出しです(東洋経済)。

 トランプ政権の狙いはTPP以上の完全自由化

 しかし、アメリカの強欲がこれにとどまるはずはありません。

 トランプ政権の「取引」がもっと大きく「安保と通商をてんびんにかける」ことに及ぶのは必至。これに対し、北朝鮮に対する軍事攻撃を含む「あらゆる選択肢」を無条件に支持し、世界で一番トランプべったりの安倍政権。「政府内には安全保障の『見返りに通商政策では米国に譲歩せざるを得ない』との見方もある」(時事)というのが実態です。

 かりにTPP以上の日米FTAに踏み出したらどうなるか。

 TPP合意では(1)アメリカが米の関税撤廃か、20万トンのアメリカ米輸入増を求めたのに対し、合意したのは7万トン、(2)牛・豚肉の関税撤廃要求に対し、牛肉は15年後に9%に引き下げ、高級豚肉は10年後に撤廃、(3)農林水産物全体の関税撤廃率はアメリカ98・8%に対し日本は81%。

 アメリカにとっては、この結果そのものが不満であり、TPP交渉での「妥協」を排し、究極の自由化を強要する、そのための手段が日米FTAです。TPPの効用を説く安倍首相に面と向かって、トランプ大統領が「TPPは正しい道ではない」と反論し、「永久離脱」の態度を変えなかったのは、そのためです。

TPP反対のような運動を
ふたたびまきおこそう

 日米FTAへのレール敷かれた

 もちろん、日米FTA交渉入りは、内閣が吹っ飛ぶほどの大問題であり、安倍政権のアキレス腱(けん)です。「日米FTAの話は出なかった」「2国間の貿易問題は『日米経済対話』で話し合う」と打ち消しに躍起です。

 しかし、2月の日米首脳会談で合意された「日米経済対話」には「日米間で2国間の貿易枠組みに関して議論を行う」ことがアメリカ側の要求で盛り込まれており、「早々と日米FTAへのレールは敷かれている」(鈴木宣弘東大教授)のが実態です。また、安倍首相は、首脳会談直後に「われわれは決して日米FTAを恐れているわけではない」と国会で答弁しています。

 12年12月の総選挙で「TPP断固反対、ウソつかない自民党」というポスターを張りめぐらしながら、翌年3月にはTPP交渉入りを決断したウソつき自民党政権のやり方を国民は忘れていません。日米FTA交渉入りとなれば、農協陣営も黙ってはいないでしょう。

 日米FTA断固反対。いま、TPP反対のネットワークや農協、自治体などに呼びかけて、TPP反対のような運動を地域からまきおこすときです。

(新聞「農民」2017.11.20付)
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