新聞「農民」
「農民」記事データベース20171120-1288-05

TPPは終わっていない

インチキ「大筋合意」は許さない


「TPPの息の根止めよう」の声と
運動を強めるとき

 死んだはずのTPPを生き返らせる企て

 日本政府は、11月11日、ベトナムで開かれた閣僚会合でアメリカ抜きのTPP11「大筋合意」が成立したと発表しました。しかし、交渉継続項目が4つも残されており、とうてい「合意」などといえるものではありません。

 10日には首脳会合を開いて合意をぶちあげるはずだったTPP11。土壇場でカナダのトルドー首相が「首脳レベルで確認する段階にない」と主張し、安倍首相の説得むなしく首脳会合は見送りになりました。

 TPPの「行方はかすんできた」(朝日)といわれる事態であり、漂流を避けるための合意演出にすぎません。

 最大の問題は、アメリカが多国籍企業の要求を丸呑(の)みしてゴリ押しした条項を根本的に修正するのではなく、いくつかの条項を「凍結」して「冷凍TPP」を作り、アメリカの復帰を待って解凍して「元のTPP」に戻すという異常なやり方です。世界の世論と運動によって死んだはずのTPPを、日本政府が主犯になって“ゾンビ”のように生き返らせる――こんな暴挙を絶対に許すわけにはいきません。

 凍結要求は(1)医薬品の特許期間の延長、(2)紛争処理手続き(ISDS)、(3)国有企業の優遇廃止、(4)衣類などの原産地規則、(5)金融・サービスなど60項目にもおよびました。これ自体が、「やはりTPPは悪い」ことの証明です。

 TPPの毒は残り続ける

 「本来は11カ国で一から再交渉するのが筋」であり、「米国が抜けて前提が崩れた協定を、原形に近い形で発効させようという日本政府の発想そのものに無理がある」(北海道新聞社説)ことは明白です。岩手日報社説は、アメリカの「(出戻り)のために受け皿だけはつくっておく。実に不思議な経済協定」だと酷評しています。

 凍結で合意した項目は医薬品のデータ(特許)保護期間、紛争処理手続き(ISDS)の一部など20。他に署名日までに凍結するかどうかを交渉する項目は4(表)。「凍結」ではなく削除して当然の項目ばかりです。しかも「元のTPP」は厳然として残り続けます。安倍政権はTPP本体の交渉に輪をかけて秘密主義を貫き、公表されたのは項目のリストだけで詳細は不明ですが、TPPの毒が抜けるわけでは全くありません。

 カナダに次いでマレーシア、ベトナムも

 茂木敏充経済財政・再生相は「凍結する項目が20個にとどまり、高い水準を維持できた」と強調していますが、日本政府の目論見は1ケタに絞りこむことでした。

 しかし、日本政府が「かつての会合で悩まされた米国流の強気な交渉術」(産経)をとったにもかかわらず、1ケタどころか、凍結・継続交渉項目が24にのぼることはまぎれもない事実です。

 カナダは首脳会合出席を拒否し、その後も「急いで合意しないし、正しい内容でないなら交渉は終わらない」(トルドー首相)と、署名拒否すらにおわせています。

 さらに「4項目は、国有企業を優遇しないルールの凍結(マレーシア)や労働者の権利を重視して紛争を処理するルールの凍結(ベトナム)など、各国の体制や利益がTPPのうたう『高い自由化のレベル』とぶつかり合う要求ばかりだ。各国の署名は4項目の決着が大前提だ。譲歩せずに各国が署名を拒む恐れも残る」(朝日)というのが実態です。

 TPP悪用の「アメリカ第一主義」は許さない

 TPPは二重の意味で終わっていません。

 一つはTPP11自体が交渉途上であり「大筋合意」などとはいえないからです。

 もう一つは、アメリカの態度です。安倍政権は「TPPを日米FTA(自由貿易協定)に対する防波堤にする」「TPP11は米国へのメッセージになる」などとノーテンキなことを言っていますが、トランプ政権のメッセージは明瞭です。

 トランプ大統領はTPP11首脳会議が開かれようとしていた10日、ベトナムで「アメリカの両手を縛り、主権を放棄させる大型の協定にはもはや参加しない」「アジアの国々と2国間FTAを結ぶ」と演説しました。TPP復帰を拒絶する一方で、TPPを悪用しながら「アメリカ第一主義」「貿易赤字解消最優先」原理を貫くという宣言です。

 死んだはずのTPPも、その亜流であるTPP11や日米FTA、日欧EPA(経済連携協定)も断固として拒否し、「TPPは終わっていない」「TPPの息の根を止めよう」の声と運動を強めるときです。

(新聞「農民」2017.11.20付)
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