新聞「農民」
「農民」記事データベース20171127-1289-01

京都有害鳥獣問題研究会
農家、研究者、猟友会、行政など
関係者が一堂に会して設立

府民の英知を集めて
鳥獣害対策進めよう

京都農民連 安田政教


“人間も自然の一員”忘れず
互いに共生できる農村に

 10月29日に、京都市の京都教育文化センターで第8回「京都有害鳥獣問題研究会」の総会が開催されました。

 「京都有害鳥獣問題研究会」は、それまで京都府内で開かれてきた獣害シンポジウムや学習会などのほか、猟友会や行政の取り組みも受け継いで、2010年に、「有害鳥獣対策について、広く、農林漁業家、農林漁業関係者、研究者、狩猟者、行政マン、府民の叡智(えいち)をあつめ、現状と課題解決に向けての共通認識を広げることによって、京都府内の有害鳥獣対策の推進を図る」ことを目的に立ち上げられました。

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箱わなで捕獲されたイノシシ(京丹後市)

 役員には、元農業総合研究所所長や京都府猟友会会長、京都府特定鳥獣保護管理計画策定委員長、大学教授や農業委員、行政マンなどが名を連ねています。京都農民連から私も顧問の一人として参加をしています。

 これまで被害現場の視察、猟友会との懇談、行政への提言、対策の現地視察と研究、シンポジウムや学習会、地域づくりへの参加などに取り組んできました。

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せっかくの「実りの秋」も獣害で台なしに

 信号を守って渡るイノシシ

 今回も総会後は「京都の有害鳥獣問題を考える集い」に切りかえ、京都大学・福井県立大学名誉教授の祖田修さんが、「鳥獣害――動物たちとどう向き合うか」と題して記念講演しました。

 講演の冒頭、「神戸ではイノシシが交差点で信号を守って横断する」と口火を切った祖田さんは、少年のころ農業の手伝いをしたこと、退職後に野菜作りを始めたが、鳥獣害に直面していると自己紹介されました。

 祖田さんは、全国で深刻化する鳥獣害の実態とその背景には、高度経済成長と人口の都市集中、農林業・農山村の衰勢、薪・炭から石油・ガスへの燃料革命があることを指摘。北海道をはじめ、全国各地の対策を紹介しながら、中世以降の人間と動物の向き合い方の歴史にも触れ、お互いが共生できる「形成均衡の世界」への展望を語りました。

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講演する京都有害鳥獣問題研究会 鈴木顯雄※1さん

 そのためには「人間も自然の一員であることを自覚し、欲望を管理して、農業と農村を基礎に地に足をつけた文明を形成していくこと」と訴えていたのが印象的でした。

 焼却専用施設が狩猟者負担軽減

 府内各地の取り組みが報告され、福知山市に2015年に完成した「中丹地域有害鳥獣処理施設」では、この2年間で7000頭が焼却されたことが紹介されました。

 この施設は、農作物への鳥獣被害が深刻化し、ジビエ(鳥獣肉の食材利用)としての活用も追いつかないほどに捕獲数が増加する一方で、狩猟者が高齢化し、捕獲個体を埋設する重労働が大きな課題となっていたことから、府内初の焼却専用施設として設置されたものです。施設は綾部、舞鶴の両市も共同利用しており、保管冷凍庫が3市の8カ所で稼働しています。

獣害は生産意欲を根こそぎ奪う
山が荒れ、鳥獣のえさがない

 獣害のショックは言葉にできない

 獣害は生産者の意欲を根こそぎ奪います。家庭菜園でも収穫を目前にして、一晩で獣に荒らされると、そのショックは言葉にできません。

 私の地域でも、水田は高さ2メートルのワイヤーメッシュ(金網)で囲い、山裾は数キロメートルにわたって10メートル幅で刈り払い、いたるところに箱わなを仕掛け、県境をまたいだ広域駆除を行って、何とか被害を食い止めているのが現状です。

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わなの周囲を悠然と歩き回るハクビシン

 しかし、山は荒れ放題で、植林も放置されて獣のえさがなくなり、人が山に入らなくなった分、獣が人里に攻めてきています。熊、イノシシ、シカ、サル、ハクビシン、ヌートリア、タヌキ、イタチ、カラス、ヒヨドリなど、それぞれに対策が必要です。

 お互いが自然の形成者として、折り合いをつけて共存できる方策を見いだすことが求められています。


【訂正】 12月11日号にて、以下の訂正がありました。
 11月27日付「京都有害鳥獣問題研究会」の記事で、祖田修さんの写真は、同研究会事務局次長の鈴木顯雄さん※1の誤りでした。お詫びして訂正します。
 2017年12月18日、訂正しました。

(新聞「農民」2017.11.27付)
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