新聞「農民」
「農民」記事データベース20171211-1291-08

安倍政権
日米FTAとTPP11の両にらみ
(2/3)

東京大学教授 鈴木宣弘
〈寄稿〉

関連/安倍政権 日米FTAとTPP11の両にらみ(1/3)
  /安倍政権 日米FTAとTPP11の両にらみ(2/3)
  /安倍政権 日米FTAとTPP11の両にらみ(3/3)
  /イラスト2点


日米FTAへのレールは
敷かれている

 日本は米国からの「TPPプラス」の要求を見越している。そもそも、トランプ氏が大統領選に勝利してTPPからの離脱意思を表明したあとの日本のTPP強行批准は、TPP水準をベースラインとして国際公約化し、米国には「TPPプラス」を喜んで確約するものだった。「まず、TPPレベルの日本の国益差し出しは決めました。次は、トランプ大統領の要請に応じて、もっと日本の国益を差し出しますから、東京五輪までは地位を守って下さい」というメッセージを送ったようなものだ。

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スーパーの店頭に並ぶアメリカ産牛肉

 2017年2月の総理訪米も11月の大統領訪日も日本メディアは「大成功」と持ち上げたが、米国では「Flattery(ごますり・へつらい・従属)」外交と評された(タイム誌など)。2月の訪米時には日米経済対話をわざわざ日本から提案し、共同声明には日米FTAが選択肢と明記し、早々と日米FTAへのレールは敷かれた。先のトランプ大統領の来日時にも共同会見では明示されなかったが、それに先立つ駐日米大使公邸での日米の経済関係者を前にした大統領の演説では日米FTAへの強い意思表示があった。

(注=編集部=)ハガティ米駐日大使は、11月の日米首脳会談で日米FTAについて話し合われたことを明言している。

TPP以上を差し出す
準備はできている

 日本の対米外交は「対日年次改革要望書」や米国在日商工会議所の意見書などに着々と応えていく(その執行機関が規制改革推進会議)だけだから、次に何が起こるかは予見できる。トランプ政権へのTPP合意への上乗せ譲歩リストも作成済みである。

 例えば、BSE(狂牛病)に対応した米国産牛の月齢制限をTPPの事前交渉で20カ月齢から30カ月齢まで緩めたが、さらに、国民を欺いて、米国から全面撤廃を求められたら即座に対応できるよう食品安全委員会は1年以上前に準備を整えてスタンバイしている。

 情けない話だが、米国にはTPP以上を差し出す準備はできているから、日米FTAと当面のTPP11は矛盾しない。いずれも米国への従属アピールだ。米国内のグローバル企業と結託する政治家は、米国民の声とは反対に、今でも「お友達」企業のもうけのためのTPP型ルールをアジア太平洋地域に広げたいという思いが変わらないから、そういう米国のTPP推進勢力に対して、日本が「TPPの灯を消さない」努力を続けているところを見せることも重要な米国へのメッセージだ。

 「米国に迫られて、いやいや認めた項目なので本当は外したい」という凍結要求が60項目も出たこと自体、TPPがいかに問題が多いかの証明とも言えるが、ならば米国離脱で削除すればいいのに、米国の復帰待ちで最終的には20項目ほどを凍結し、否定したい項目なのに米国が戻れば復活させるとは、どこまで米国に配慮しなくてはならないのか、理解に苦しむ。

 ずるずると米国の要求に応え続ける政治・外交姿勢から脱却できない限り問題は永続する。

TPP12以上に増幅される
日本の食と農の打撃

 しかも、米国を含むTPPで農産物について合意した内容を米国抜きのTPP11で修正せずに生かしたら、例えば、オーストラリア、ニュージーランド、カナダは、米国分を含めて日本が譲歩した乳製品の輸入枠を全部使えることになる。

 バターと脱脂粉乳の生乳換算で7万トンのTPP枠が設定されているが、そのうち米国分が3万トンと想定されていたとすれば、米国が怒って米国にもFTAで少なくとも3万トンの輸入枠を作れということになるのは必定で、枠は10万トンに拡大する。

 かつ、上述のとおり、すでに米国がTPPも不十分としてTPP以上を求める姿勢を強めていることから、米国の要求は3万トンにとどまらないだろう。

 結果的に日本の自由化度は全体としてTPP12より間違いなく高まり、国内農業の打撃は大きくなる。

 ただでさえ設定量が大きすぎて実効性がないと評されていた牛肉などのセーフガード(緊急輸入制限)の発動基準数量も未改定だから、TPP11の国は、米国抜きで、ほぼ制限なく日本に輸出できる。

見せかけの成果では
国民の命は守れない

 このように、強引に合意を急ぐために日本の食と農は「見捨てられた」と言っても過言ではない。新協定の6条で、TPP12の発効が見通せない場合には内容を見直すことができることにはなっているが、何をもって米国の復帰なしが確定したと判断するのかも難しいし、協議を要求できるだけで義務付けられていないため、他国が容易に応じるとは思えず、本当に見直せるか、極めて不透明で、「気休め」条項との誹(そし)りを免れない。

 TPPでは米国の強いハード系チーズ(チェダーやゴーダ)を関税撤廃し、ソフト系(モッツァレラやカマンベール)は守ったと言ったが、日欧EPAではEUが強いソフト系の関税撤廃を求められ、今度はソフト系も差し出してしまい、結局、全面的自由化になってしまったという流れも、いかにも場当たり的で戦略性がない証左だ。

 TPPでもEU・カナダFTAでも、国民の基礎食料は死守するとして乳製品の関税を死守したカナダを少しは見習うべきではなかろうか。見せかけの成果主義では国民の命は守れない。

(新聞「農民」2017.12.11付)