新聞「農民」
「農民」記事データベース20180402-1305-01

家族農業とは――

人のつながり、絆で営む農業

資本でつながる
企業的農業に対置するもの

関連/いま再評価される家族農業 「農民の権利」確立に期待

 小規模・家族農業とは何か、なぜ見直されてきたのか、農民連に寄せる期待などについて、「小規模・家族農業ネットワーク・ジャパン」呼びかけ人代表で、愛知学院大学准教授の関根佳恵さんに聞きました。


 インタビュー 小規模・家族農業ネットワークジャパン

   呼びかけ人代表  関根 佳恵さん(愛知学院大学准教授)


国連「家族農業の10年」
追い風に活動の発展を

 国際家族農業年の成果を発展

画像  2019年から28年までの10年間を国連は「家族農業の10年」と定めました。これは、国際農民組織ビア・カンペシーナを含む世界の運動の成果であり、2014年の国際家族農業年の成果をさらに発展させるものです。逆にいえば、家族農業の現状に対する危機感の表れでもあります。

 国連は、これまで近代化、大規模化による「緑の革命」を途上国でも先進国でも推進すれば、飢餓も貧困もなくなり豊かになるとしてきました。

 しかし、農薬や化学肥料による環境汚染の広がり、地下水の大量くみ上げによる水位の低下や塩害、化石燃料という枯渇資源への依存と気候変動、食の安全性などが問題になってきました。

 こうした中で2007年、08年に世界的な経済危機、原油価格や穀物価格の高騰、食糧危機に直面しました。これを契機に、国際社会は、農業・食料政策を、家族農業中心へ大きく舵(かじ)を切りました。

 日本においても、家族農業が農畜産物の生産のみならず、環境保全や生物多様性の保護、景観の維持、雇用の創出、伝統文化の継承などの多面的な機能を発揮しています。

 労働力の過半を家族労働で占め

 国連食糧農業機関(FAO)は小規模・家族農業を「農業労働力の過半を、家族労働力が占めている農林漁業」(2014年)と定義しています。従って、労働力の過半を家族労働力でまかなっている場合は、法人化していても「小規模・家族農業」といえます。

 私たちは、家族農業を「人的つながり(絆)を持つ社会集団による農業」と定義したいと思います。これは企業的農業(資本的つながりによって結合した社会集団)に対置した概念です。

 つまり、企業的農業のように資本の利潤追求が第一の目的になると、効率性、利益が最優先にされ、環境破壊や土地収奪、遺伝子組み換え作物の推進など、さまざまな問題が引き起こされるリスクがあります。こうして、食の安全、農業の労働環境などが二の次にされてしまうことがあります。

 これからの10年私たちの活動に

 日本では、農地面積2ヘクタール未満は農業経営体の78・0%となっており、政府が農家に直接調査した「農業センサス」(2015年)によれば、「あなたは家族経営ですか、組織的経営ですか」という質問に、実に98%が「家族経営体」であると答えています。

 家族のかたちは、養子縁組、事実婚、単身(個人経営)なども含み、多様化しています。いずれにしても、国・地域の多様性に合わせた定義・議論が必要だと思います。

 「家族農業の10年」が、どういう10年になるのかは、これからの私たちの活動に委ねられています。各地域・国で、この活動を発展させていくのは私たちなのです。

 こうした国連の動きを追い風にして、家族農業の振興に背を向ける日本の農政を変えてほしいと思います。

 他の団体や個人と力を合わせて

 農民連のみなさんには、昨年6月に結成された「小規模・家族農業ネットワーク」の賛同団体に名を連ねてもらいました。他の団体や個人のみなさんとも手を携えて、家族農業に関する知のプラットフォーム(正しい政策対話・決定に必要な情報の蓄積・共有の場)の構築に協力いただき、更なる発展に貢献してもらいたいと思います。

 そして、日本政府をはじめ、マス・メディアなどにも家族農業に目を向けるよう働きかけていくことを農民連のみなさんに期待します。


関根佳恵さん招きシンポ

いま再評価される家族農業
「農民の権利」確立に期待

 関根佳恵さんを招いたシンポジウムが3月11日、東京の国学院大学で開かれました。日本有機農業研究会とNPO法人農都会議が共催しました。

 関根さんは、小規模・家族農業の内容や特徴、また国連で「家族農業の10年」(※インタビュー記事を参照)が採択されるなど、小規模・家族農業が再評価されている現状を紹介。さらにこうした再評価に大きく影響し合う世界の新たな運動として、アグロエコロジーやビア・カンペシーナについても紹介しました。

 「アグロエコロジーは、地球にやさしいというだけでなく、本来、小規模・家族農民が持っていたはずのものなのに、新自由主義や企業的農業の広がりによって失ってしまった権利を取り戻すという社会運動でもある点が重要」と述べました。

 またビア・カンペシーナが国連での採択に向けて運動している「農民の権利宣言」が、小規模・家族農業を発展させるうえで、大きな力になるものと期待を寄せました。


「国連家族農業の10年」の決議

 (1)現存の構成と利用可能な資源の範囲で、2019―2028年を、「国連家族農業の10年」に定めることを決める。

 (2)すべての国が、家族農業に関する公共政策を作成、改善、実施し、家族農業の経験と最良の慣行を他の国と共有することを奨励する。

 (3)国連食糧農業機関(FAO)と国際農業開発基金(IFAD)が、その権限と既存の資源の範囲で、適切な場合には自発的貢献を通じて、実施可能な活動やプログラムを特定・作成することなどを含め、国連制度の関係機関と協力しながら、国連家族農業の10年の実施を主導するよう要請する

 (4)政府および、国際・地域機関、市民社会、民間部門、学術関係者などの利害関係者が、適切な場合には自発的な貢献を通じて、国連家族農業の10年間の実施を積極的に後押しするよう求める

 (5)国連事務総長に対し、FAOとIFADが共同で編纂(さん)する2年に1度の報告書に基づき、国際家族農業の10年の実施状況について、国連総会に報告するよう求める。

(新聞「農民」2018.4.2付)
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