新聞「農民」
「農民」記事データベース20180430-1309-14

梨の花プロジェクト委員会

梨の“花”文化を創って
地域と農業を守りたい

奈良県大淀町
大阿太(おおあだ)高原


一面に咲く梨の花は“町の宝”
「梨の花条例」制定して町おこし

画像  梨は桜や梅、桃などと同じバラ科で、春になると、可憐な白い花を枝いっぱいに咲かせます。この梨の花の美しさを多くの人に知ってもらい、梨の花を楽しむ文化を醸成して、地域おこし、ひいては地域の農業振興にまでつなげようと奮闘している住民グループがいます。奈良県大淀町の「梨の花プロジェクト委員会」の皆さんです。

 生産者の高齢化と離農が深刻に

 大淀町大阿太高原は、近畿地方では珍しい、古くからの梨の産地です。耕作面積は広くないことから、ここで生産された梨は近畿地方県内や近隣で消費される貴重なブランド梨の産地として知られてきました。春になると一帯は真っ白な梨の花で埋め尽くされます。

 「一面に咲く梨の花、そりゃあ、きれいなんやけどなあ。誰も見に来てくれへんなあ。なんとかこの梨の花を、地域を守る力にできへんやろか――と、ずっと思ってきた。でも具体化する方法がわからなかった」というのは、同プロジェクトメンバーの梨農家で、奈良県農民連南和センター会員の中元悦子さんです。それというのも、かつて100戸以上いた大阿太高原の梨農家は今では42戸にまで減り、高齢化も進行。放棄された梨園や離農で梨の木を伐採してしまう梨園が増加していたからでした。

せん定枝が生花になれば
小さな梨産地の大きな力に

 そんな中元さんの心強い仲間となってくれたのが、同プロジェクトで統括を務める春名久雄さんです。大淀町で教師をしていて、退職後は好きなクラフト(手工芸)の作家仲間と大淀町でマルシェ(市場)を開催したいと町内事情を調べていた春名さん。梨のせん定枝が廃棄されていることをたまたま知って、「花の季節までとっておけば切り花として出荷できるんじゃないか。まずは梨の花の咲く季節にマルシェをやろう。そして花を見てもらおう」と、それまで培ってきた幅広い人脈に呼びかけて、プロジェクトが始まったのが4年ほど前のことでした。

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左から2人目が春名さん、右から2人目が中元さん

 街路樹に梨植え町じゅうを白く

 ところがつてをたどってやっと花屋さんに試し出荷してみても、梨の花には切り花としての商品ニーズがなく、「これはまず梨の花を楽しむ“文化”からつくらないといけない」ということが判明。そこからありとあらゆる模索が始まりました。

 花の季節のマルシェの開催や、大淀町を梨の町として広く知ってもらうために、梨を街路樹として植えようと始まった、街路樹用の苗木づくりもその一つです。「植えるアテはまったくなかったけど、町中を白い花で埋め尽くすという夢はみんなで共有してね」と春名さん。

 そんな時、町主催の起業コンテストで同プロジェクトのプレゼンテーションが投資家や金融機関などから高い評価を受けたのをきっかけに、梨の花の美しさを評価する動きが行政や議員にも広がり、今年の3月議会で「町と町民が一体となって梨の花による町づくりを推進する」とした「梨の花条例」が全国で初めて制定されました。

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マルシェの打ち合わせに集まったボランティアの皆さん。職業はいろいろ

 「花で大淀が梨の産地として全国に知られれば、小さな産地だけど若い農業後継者たちの将来も安心だし、せん定枝が少しでもお金になれば、実が重くて出荷できない高齢の農家も梨園が続けられる」と、春名さんは言います。

 同プロジェクトでは、荒廃した梨園の再生にも取り組んできました。2年前には活動の拠点として梨農園「RIKAEN」の運営もスタート。古い農具倉庫を再生した農園カフェ(土・日営業)、1年を通して音楽会や講演会、ワークショップなどを開催し、「梨の花文化」の創造に向けて、次々と夢を追いかけています。

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夜には梨の花をライトアップ

(新聞「農民」2018.4.30付)
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