新聞「農民」
「農民」記事データベース20180528-1312-07

遺伝子組み換え食品
表示がなくなる?!

関連/実態無視の“廃止”に反対 引き続き全食品の義務表示求める


要求に応える素ぶりで
TPP11の発効見すえ
「遺伝子組み換えでない」
表示をなくすのが狙い

 消費者の要求逆手にとって

 当初、消費者・市民団体は、遺伝子組み換え食品の表示について、(1)義務表示を食用油やしょうゆ、家畜の飼料など全食品に拡大すること、(2)意図せざる混入率を5%以下からEU(欧州連合)並みの0・9%以下に引き下げること――を要求していました。

 今回の「検討会」の報告書では、全食品への義務表示の拡大を拒否し、任意表示である「遺伝子組み換えでない」表示が認められる条件を「5%以下」から「不検出」(0%=検出限界以下)のときだけとしました。実際には5%以下の意図せざる混入の可能性があるのに、「遺伝子組み換えでない」という表示をするのは消費者の誤解を招くというのが表向きの理由です。

 これは、EU並みの0・9%以下への引き下げという消費者の要求を逆手にとり、事実上不可能な「0%」を基準にすることによって、任意表示制度そのものを葬り去るところに本質があるといわなければなりません。

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食品購入の際の目安になる「遺伝子組み換えでない」表示

 「遺伝子組み換えでない」表示の食品は激減

 これが実施されるとどうなるのか。これまで消費者は、義務表示の範囲が限定されているなかでも、みそ・とうふ・納豆やコーンスナック菓子などを買う際に「遺伝子組み換えでない」や「遺伝子組み換え不分別」という表示を目安にしてきました。しかし、混入率0%とした場合、「遺伝子組み換え不検出」と表示される食品は激減するおそれがあります。

 「国産大豆使用なら、遺伝子組み換えでないと表示できるのでは」と思われる方も当然いるでしょう。ある豆腐屋さんは国産大豆しか使ってないにしても、流通業者が国産大豆しか扱っていないところはほとんどありません。実際に日本には、大量の遺伝子組み換え作物が輸入されており、どんなに分別しても微量の混入が起きる可能性がつきまといます。

 農民連食品分析センターが豆腐などの大豆製品の遺伝子組み換え分析を行ったところ、26製品中11製品は「不検出」でしたが、15製品からは検出されました。検出された混入率は0・17%〜0・01%で、現行制度では「遺伝子組み換えでない」と表示できますが、今後は表示できなくなります。さらに「不検出」の11製品も微量混入を恐れ、表示しなくなる可能性もあります。

 0%がほとんど存在しない以上、「遺伝子組み換えでない」「不検出」の表示はなくなってしまうのです。こうして、あたかも消費者の要求に応えたかのように装いながら、実際には、食品から「遺伝子組み換え」の表示をなくしたいというのが、今回の「見直し」のねらいです。

 生産者・事業者の非遺伝子組み換えの努力が奪われる

 今までであれば、分別された原材料(微量混入5%以下)から製造されている場合には、「原材料:大豆(遺伝子組み換えでない)」と表示していました。ところが、新制度が実施された場合には「原材料:大豆」としか書けなくなります。これでは、原材料の大豆のほとんどが遺伝子組み換えでないものを使っていても、そのことが消費者には伝わりません。

 そうなれば、国産の農産物でがんばっている生産者にとっても、遺伝子組み換えでない原材料の分別を適切に実施してきた事業者にとっても、その努力を消費者に伝える機会が失われることになります。

 こうして、遺伝子組み換えでない原料を調達するためのシステム自体がなくなる可能性も出てきます。その結果、消費者は遺伝子組換え食品を買わないという選択の機会を失うことにもなります。

 また、自分で大豆を作って自分でみそに加工している生産者にとっても、表示するためには、それを証明するための検査が必要となり、負担が増えるおそれは十分にあります。

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「遺伝子組み換え表示をなくさないで」とアピールする人たち=2017年12月18日、消費者庁前

 背景にあるのはTPP

 TPP11が発効してしまえば、遺伝子組み換え食品表示は、今まで以上に困難になります。

 TPP協定の第8章「貿易の技術的障害(TBT)」には、各国が食品表示のルールをつくる際の規定があり、義務表示など強制力がある表示を行う場合には、「透明性の確保」として利害関係者(輸出国や遺伝子組み換え推進企業など)が関与できることになり、消費者の声よりも企業の意向が反映されやすくなります。

 また、TPP協定では、遺伝子組み換え(GM)農産物を農産物市場アクセスの章にはじめて盛り込み、GM農産物の貿易の中断を回避し、新規承認を促進する条項を設けました。

 さらには、GM農産物の貿易に関して情報交換と協力を進めるための作業部会が設置され、農業貿易に関する小委員会の下に置かれ、GM農産物輸出国が輸入国に対してGM作物の新規認可を求めたり、表示などの規制の緩和を求める場となる危険性があります。


実態無視の“廃止”に反対
引き続き全食品の義務表示求める

日本消費者連盟事務局長 纐纈美千世さん

 これまで、「遺伝子組み換えでない」表示は、遺伝子組み換え食品への注意喚起になってきました。だからこそ、遺伝子組み換え推進派にとってこの表示は目の上のたんこぶでした。わずかな混入の可能性によって「遺伝子組み換えでない」表示が許されなくなる一方、食用油などほぼ100%組み換え原料を使いながら、科学的・技術的に「検出できない」ことを理由に「遺伝子組み換え」と表示する必要のない不公正な状況は今後も続きます。

 何より検討会の進め方が問題です。消費者の長年の要求である「すべての食品に遺伝子組み換え表示を」「意図せざる混入率5%の引き下げ」を無視し、業者の意見ばかり取り入れました。「混入率0%で不検出表示」案は今年2月に突如出されました。それまでの8回にわたる検討会で「混入率0%」の議論などなかったのに、です。十分な議論もせず一方的に決めてしまいました。

 今後、報告書は内閣府の消費者委員会で審議され、パブリックコメントにかけられます。引き続き全食品を義務表示対象にすることを求めるとともに、実態を無視した「遺伝子組み換えでない」表示の実質廃止に反対する運動を広げていくことが大切です。

(新聞「農民」2018.5.28付)
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