新聞「農民」
「農民」記事データベース20180528-1312-15

東京芸術座
「いぐねの庭」をみて

鈴木太郎(演劇ライター)


東日本大震災後の家族
生きることの是非を問う

 東日本大震災から7年目に実現した、東京芸術座の「いぐねの庭」は、多くの示唆に満ちた家族ドラマであった。震災で死んだ人と生き残った人との心の葛藤、生きることの是非が問われていく。家や財産、農に生きようとする状況などが、日常生活の襞ひだの中で描かれていく。せりふが方言のために朴訥(ぼくとつ)な人間像に深みを持たせていたことも見逃せない。

 仙台出身の劇作家・堀江安夫が2011年に書きあげた作品。今回は杉本孝司の演出によって日の目を見た。表題の「いぐね」は、漢字では「居久根」と書く。仙台近郊の農家に特徴的な屋敷林のこと。屋敷の北西側に配置され、杉、欅(けやき)、榛(はん)の木、黒松の高い木が骨格となっている。防風、防雪などの役割を果たしている。

 仙台市近郊七郷と呼ばれる一帯の長喜城地区、その幸田家。家全体が半壊の状態である。舞台は、母屋の茶の間と、屋敷林の庭で展開。このふたつの場面を盆回しのセットにした美術(内山勉)は有効な処置だった。

 幸田家の茶の間に集まった家族たち。当主の伸介(手塚政男)と妻・渓子(樋川人美)、長男・伸也(星野小熊)、長女・福永夏苗(葉霜怜奈)と夫の陶吾(脇秀平)だ。冒頭、夏苗が陶吉の用意した息子・大吾の死亡届に抗議している。半年で区切りをつけるのかどうか、である。夏苗は「大吾の手を離した」と祖母のクラ(相沢ケイ子)に泣き崩れる場面がある。悲しいことだが、相沢の包容力のある演技で救われる。

 また、伸也の妻・やよい(江部茜)は津波で死者になったが「おしかけ幽霊」として中学生の息子・風太(森圭佑)とは会話でできる。やよいが叙情詩のような長いせりふのシーンは見所のひとつ。さらに、伸介たちが居久根を中心にした環境型農業への取り組みを語るところも見逃せない重要な一面であった。一部Wキャスト。

(吉祥寺シアター、4月11日所見)

(新聞「農民」2018.5.28付)