新聞「農民」
「農民」記事データベース20180618-1315-08

企業への漁業権解放は
沿岸漁業を崩壊させる

〈寄稿〉
茨城大学人文社会科学部
客員研究員 二平 章


規制改革推進会議が「改革案」発表
「企業のための海」めざす

 安倍首相は2013年の施政方針演説で「世界で一番企業が活躍しやすい国を目指し、聖域なき規制改革を進め、企業活動を妨げる障害を一つひとつ解消する」と公言し、農業関連の悪法を次々と成立させてきました。次に狙っているのが林業・漁業関連法の改悪です。

 漁業による海面利用の歴史

画像  魚は海中を自由に泳ぎ回り、漁民はそれを追って漁を営むことから、海面には農業のような個人所有の「農地」はありません。

 江戸時代から小さな舟でヒラメを釣る、磯や浜でアワビやハマグリを捕るといった地先の海がその漁村の専有漁場とされ、浜の漁民がルールをつくり共有で利用してきました。カツオなどの回遊魚が来遊する沖の漁場は広いので各船の競合もなく調整も必要ないことから、各漁村から自由に入り会える自由な漁場として利用されました。現在の漁場利用制度も、基本的にはこのような江戸時代からの「磯は地付、沖は入会(いりあい)」の制度が受け継がれてきています。

 地元漁村の漁業者が優先して地先の漁場を利用できる制度として「漁業権」漁場制度があります。

 距岸距離で漁場利用をみると、日本漁船だけが利用できるのが排他的経済水域(EEZ)で、国連海洋法会議で決められています。この境界が岸から370キロの200海里ラインです。この外が公海となります。日本の領海は12海里、22・2キロで、これに対し「漁業権」漁場は、おおよそ距岸3キロ以内で極めて狭い範囲に限定されています。

漁協は重要な漁場管理者

 漁業権の種類と現状

 漁業権の種類には漁場の利用の仕方によって、共同漁業権、定置漁業権、区画漁業権があります。

「共同漁業権」はアワビやサザエ、ハマグリやアサリ、ワカメやコンブ、フノリなど地域的な資源を守りながら一定地区の漁民が皆で漁業を営む権利です。一定漁場を多くの漁民で集団的に利用することから漁民の間で混乱が生じないよう利用上の規則をつくり、資源の増殖・管理のために漁場造成、種苗放流、密漁対策などを行っています。そのために地区の関係漁民全員が加入している漁業協同組合に対して知事が免許を与え、漁協が組合内協議の上で希望漁民に免許を与えています。

 「定置漁業権」は、ブリやマグロからサバ・イワシまでをねらう大型定置網を設置できる権利で、経営者の申請に対して県知事が免許します。広い面積の地先海面を長期間独占することから、その収益を地元漁村・漁民に還元させる趣旨から、商人よりは漁民、個人よりは団体、よそ者よりは地元人を優先する優先順位が漁業法に定められています。

 「区画漁業権」は、海面にブリやタイ、最近ではクロマグロ育成用の大型生簀(いけす)や、カキやホタテをつるす筏(いかだ)を設置して、養殖業を営む権利です。養殖業では多数の漁民が内湾など限られた静穏な海面を集団的に利用することから、漁場利用のためのルールづくりや漁業者間調整、監視や監督が必要となります。そのため、関係漁民全員が加入している漁業協同組合に対して知事が免許を与え、漁協が営業する漁民を決めます。多数の組合員が免許申請するため、県は漁民一人ひとりの条件、漁場の条件も判断できないことから、地元漁協が組合内で協議のうえで養殖施設の台数や設置場所を組合員合意のもとで決定しています。ただし、企業などの個別経営であっても漁協の組合員となれば養殖業を営むことは可能です。

画像
(宇沢弘文『人間の経済』新潮社、2017年、p135)

 クロマグロ養殖に進出する商社資本

 海面養殖業は多岐にわたりますが、大多数が小規模・家族経営の形態です。そこに近年、マルハやニチロ、ニッスイ、双日などの商社資本や大手企業が現地に子会社を設立し、漁協に加入してクロマグロ養殖業に参入してきています。このクロマグロ養殖漁場も、実は多数の沿岸漁民が漁業を営む内湾など狭い沿岸域なのです。混乱を起こさずに養殖業を行うためには、内湾域を利用する企業経営体も漁民もすべてが地元漁協に加入した上で、全組合員合意でその水面の有効利用と環境管理につとめなければなりません。

 漁協では養殖漁場を利用する組合員は個人であれ企業であれ、漁場管理のための漁場使用料納入や組合内協議参加、共同管理の労役作業などが義務となります。

 規制改革推進に関する第3次答申

 このような現行制度に対して、自民党の行政改革推進本部行政改革レビューチームは、2017年7月、企業が活躍しやすい海面利用のためには、漁業権や漁業協同組合は企業活動を妨げる障害であるとし、その影響を排除することが安倍政権の行政改革推進であると発表。それを受け、規制改革推進会議は本年6月4日に「規制改革推進に関する第3次答申」を出しました。

 そこには、利潤追求の企業にとっては、漁業権免許を漁協からでなく知事から直接受けることにより、漁協から離脱して、漁協に対する費用負担や調整協議、労役負担をなくし、地元漁民や漁協に制約を受けることなく、企業本位に海面を自由に利用して利潤追求できる内容が盛り込まれました。

小規模・家族漁業育成で
地域漁業の活性化を

 企業に漁業権を開放すれば地方はいっそう疲弊する

 戦後の漁業法(1949年)では、地元の海で働く漁業生産者に優先的に漁業権を行使させ、そのために地元漁民が全員加入する漁協を地元海面の漁業権の一括した受け手とし、漁協内の合議のもとに漁場の円満な利用をはかろうとしました。それは戦前の不在地主的企業免許制度下で、地元漁民は地元資源を利用することができずに、企業の利潤が都市に流出していった反省からつくられた制度でした。

 今また、沿岸漁場の中に漁協管理とは別の企業免許の漁業権がつくられれば、漁協を中心とする沿岸共有海面利用の秩序と体制が崩壊し、沿岸漁場には混乱が生じるのは必然です。私物化される企業の漁業権が出現するなかで、漁協を中心とした地域の共同体制は壊され、小規模・家族漁業は駆逐され、地域資源から生み出される富が大企業によって中央に流出する戦前の状況が生み出されることになり、地方は一層疲弊していくことは明らかです。

 6月2日には日本の著名な漁業経済学者・研究者50人が「水産庁の漁業制度改定提案に反対する」声明を発表しました。

 いま国の水産政策に必要なのは、規制改革推進で利潤追求の企業経営に漁業権を開放し、沿岸漁場を崩壊させることではありません。沿岸漁場の管理主体として重要な役割をはたしてきた漁業協同組合の機能強化をはかり、地域の主体である小規模・家族漁業を育成し、地域漁村を活性化させていくことこそが大切なのです。

(新聞「農民」2018.6.18付)