新聞「農民」
「農民」記事データベース20180730-1321-01

世界中に貿易戦争をしかける
トランプ政権


むき出しの「アメリカ第一主義」、
やりたい放題

 「貿易戦争はいいことだ。米国が千回中、千回、その戦争に勝つ」――トランプ米大統領は、こう言い放って世界中に貿易戦争をしかけています。そのやり方も、最初になぐっておいて、相手が反撃の構えを見せると、「もう一発お見舞いするぞ」と脅すというヤクザも顔負けの乱暴ぶり。

 イギリスのフィナンシャル・タイムス紙は「貿易戦争をしたくてうずうずしているトランプ政権」の暴走を「経済的に間違っており、外交的に有害で、法的に破壊的な挑発」と手厳しく批判(5月8日)。

尻尾ふるだけの安倍政権

 しかし、こういうトランプ大統領に尻尾をふり、唯一異議を唱えていないのが安倍政権です。この調子で7月下旬から始まる予定の日米通商協議・日米FTA(自由貿易協定)交渉に進むとすれば、最悪の事態になるのは必至です。

 脅迫とディール(取引)

 “貿易戦争屋”トランプ氏は不動産王として有名ですが、そのやり口は「地上げ」屋のような脅迫とディール(駆け引き)、かつてアメリカが主導して作った国際ルールの蹂躙(じゅうりん)、安保と貿易をてんびんにかけて脅す「禁じ手」の乱発などなど、「アメリカ第一主義」むき出しの「やりたい放題」です。その手口は5つ。

 (1)「安全保障上の脅威」を口実にした洗濯機(1月)、鉄鋼・アルミの関税引き上げ(3月)。さらに自動車関税引き上げのための「調査」を緊急指示、8月にも自動車・部品関税を20%に引き上げるとしています。これらは、中国ばかりでなく、日本やEU、カナダ・メキシコを狙い撃ちにするもの(図1)。

 (2)ハイテク・製造強国をめざす「中国製造戦略2025」への牽制・妨害と先端技術の覇権死守をねらった関税引き上げと制裁(3月)。

 (3)とくにアメリカの貿易赤字全体の半分を占める対中赤字の大幅削減をねらって、中国からの輸入品全品(約60兆円)を対象に制裁関税をかける強硬策をしかけ、中国もこれに対応して報復の連鎖状態に。

このままでは日米FTA
最悪の事態も

 (4)すでにFTAを結んでいるカナダ・メキシコ、韓国に対しては、FTAを「アメリカ第一主義」バージョンに変質させることを強要。

 (5)そして日本に対しては「TPP以上」「貿易赤字解消最優先」の日米FTAに引きずり込むとともに、「前払金」として日本に大軍拡計画を押しつけ、飛んでくるはずもない北朝鮮のミサイル迎撃システムや空中給油機など、高額防衛装備品の購入を強要。

 貿易赤字の原因はアメリカ自身

 アメリカの貿易赤字は約90兆円。IMF(国際通貨基金)加盟189国中189位で、ダントツの貿易赤字国です。

 トランプ大統領は、この原因について「アメリカはだまされてきた」「アメリカは各国にお金を強奪される貯金箱だ」「何十年にもわたり、外国はアメリカの企業を盗み、アメリカ人の職を奪ってきた」と並べたてています。

 しかし、これは被害妄想か天にツバするものです。

 第1に、渡辺博史元財務官が指摘するように「米国の貿易赤字の原因は米国消費者の過剰消費であり、他国のせいではない」「中国の対米輸出品の多くが、今や米国内では生産されていない。製品に対する需要が米国の消費者にある限り、中国以外からの輸入に振り替わるだけだ」(読売6月24日)。

 第2に、外国がアメリカ企業を「盗んだ」のではなく、アメリカ多国籍企業が祖国を捨てて世界中に進出し、アメリカに逆輸出した結果、貿易赤字がふくれあがり、職が奪われたのです。ニューヨークタイムスは「米大企業は、グローバリゼーションから多大な利益を得てきた。苦しんできたのは労働者だ」と批判しています。

 通商白書によると、中国の輸出額のうち半分近くは外資企業によるものです(図2)。中国の対米輸出品の第1位はスマホなど電話機ですが、アップル社は台湾・日本・韓国などから部品をかき集め、中国本土で組み立ててアメリカに輸出し、これがアメリカの「貿易赤字」になっています。

 中国商務省によると「米国の(第1次)制裁対象340億ドルのうち200億ドル分は外資の中国製品。米企業はかなりの比率を占める」(日経7月7日)。

 つまり、アメリカの貿易赤字を巨大にしたのはアメリカ大企業です。そこに手をつけず「外国が悪い」と非難して報復関税を課すのは、逆恨みかヤクザ流の“インネン付け”というべきです。

 「トランプ第一主義」

 フィナンシャル・タイムス紙は「トランプ氏が実際にしているのは、2歳児のように明確な目的もないまま既存の仕組みを壊しているだけだ。トランプ氏が何を望んでいるのか誰にも分からないため、交渉するのが極めて難しい。とてもまともな状況ではない」と指摘しています(7月11日)。

 トランプ氏が世界からの孤立を恐れず、強硬策をとり続けるのはなぜか――。トランプ氏は2020年に行われる大統領選挙への出馬を明言しました。日本の衆参ダブル選挙に匹敵する中間選挙(11月)で勝利し、再選の足がかりをつかむために、道理のかけらもない「アメリカ第一主義」をゴリ押しするという戦略です。「トランプ第一主義」です。

 トランプ政権は「安全保障上の脅威」を理由に強硬策をとり続けていますが、世界貿易機関(WTO)が安全保障を理由とした輸入制限を例外措置として認めているのは、核、軍備品などに限定されています。7月にトランプ政権が公表した追加関税の対象は、靴や帽子、ワイン、冷蔵庫など安全保障とは何の関係もないものばかりです。

 また、ムニューシン財務長官は7月21日、自らの一方的な関税引き上げを棚にあげ「各国には関税ゼロの自由貿易体制を求めていく」と述べたといいます。身勝手の極みです。

 売国と腐敗の安倍ノーのたたかいはこれからが本番

 「まとも」ではない政権による「まとも」ではない政策に対し、中国はもちろん、EU、カナダ、メキシコなどの「同盟国」が反撃に乗り出しています。唯一の例外は日本です。

 「オレだけは見逃してくれ」と、制裁関税からの例外扱いを求めてコビを売ってみたり、事実上決裂した6月のG7サミットでは、安倍首相はトランプ大統領の横暴に一言も文句を言わずに「仲介役」「橋渡し役」を務め、「ポチ」ぶり、「トランペット」(トランプのペット)ぶりを露呈しました。

 こういう調子で7月下旬からの日米貿易協議に臨むとすれば、「TPP以上」「貿易赤字解消最優先」の日米FTAに引きずり込まれるとともに、「前払い金」としてアメリカの軍用機やミサイル迎撃装置などの購入、BSE・食の安全基準緩和などが強要される最悪の事態になりかねません。

 国会は終わりましたが、売国と腐敗の安倍政権打倒のたたかいはこれからが本番です。


〈トランプ語録〉

「ニューヨークからベンツの車が消えるまで貿易政策を続ける」(4月)

「アメリカは各国にお金を強奪される貯金箱だ。こんなばかげた貿易は許されない」

「貿易戦争に発展すれば、米国が千回中、千回、戦争に勝つ」(6月)

「安倍首相は『長い間、米国をうまくだませた』とほくそ笑んでいる」(3月)

「日米間の貿易赤字が解消するような二国間貿易協定を求める」(6月)

「EUはやっかいな敵だ」「米国は何百億ドルも払って欧州を守り、貿易では大損している!」(7月)

「WTOはアメリカをだますための機関だ」(7月)

「保護主義は素晴らしい繁栄と強さにつながる」(大統領就任演説)

(新聞「農民」2018.7.30付)
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