新聞「農民」
「農民」記事データベース20180730-1321-05

農業への新規参入は
進んでいるか

農の未来ネット
新規就農テーマにシンポ

 新規就農希望者を支援し活力ある農業と食料自給率向上を目指して活動をしてきたNPO法人「農の未来ネット」が10年目を迎えるに当たり、新規就農をテーマにしたシンポジウム「農業への新規参入は進んでいるか!」(6月23日、東京都内)を開催しました。3人のゲストの報告の大要を紹介します。


地域おこし協力隊の活用
作物の選択がポイント

全国農業会議所 新規就農相談員 五十嵐建夫さん

 総務省が条件不利地域への移住促進のため進めている地域おこし協力隊制度(最長3年)を活用し、新規就農につなげようという試みが自治体で始まっています。

 今までの自治体が行っていた就農希望者の募集では特定の品目を生産する人を募集するのが典型的でした。就農希望者は複数の品目を作るというイメージが多く、ミスマッチ(不適合)を生んでいました。徳島県阿南市では地域おこし協力隊で、農業研修生として募集することで、ミスマッチを埋めつつ生活できるだけの農業技術の習得を図っています。

 また、地域の地場産業の担い手を募集するケースが増え始めたのも特徴的です。具体的に、岩手県では国宝の修理などに必要な国産漆生産者の後継者が不足しており、漆の生産者の募集が行われています。北海道滝川市では羊飼いの募集、京都府与謝野町は養蚕従事者の募集といったケースです。こうした呼びかけに応える人に女性が増えているのも特徴です。

 農水省の農業次世代人材投資事業を利用する前に、3年間地域おこし協力隊を活用して研修することで、最低10年間、就農希望者の収入を下支えできるということで、取り組む自治体が増えています。

 また国の農業次世代人材投資事業の対象外となる45歳以上に対して、福井県や山口県では県独自の支援制度をつくるなど、国の制度の隙間をつなぐ動きも出ています。

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示唆に富んだ事例が数多く紹介されたシンポ

 地域おこし協力隊員を地域で引き受けた場合、相談員の立場としては作物の選定がポイントになってくると思います。


生産者に都合よい売り先確保が
すべてにつながる

東京都農業会議 業務部長 松澤龍人さん

 公的な研修機関がないことや、市街化調整区域による農地の賃貸の難しさから、「東京で非農家出身者の新規就農は無理」と言われていましたが、2009年に初めて新規就農者が生まれました。

 都内の新規就農者が共通して大きな悩みとしているのは「作業場がない」「販売先がない」ことです。そうした中、新規就農者は経営を安定させるために様々な工夫をしています。

 例えば八丈島ではJAや町の支援で施設を導入し、特産のルスカスなどを生産し高収益を上げています。

 また、経費をかけないことを徹底し、無施肥、無農薬栽培を行うケースや、榊(サカキ)の国産シェアが5%以下であることに注目して榊の生産に取り組む農家などニッチな需要を取り込む人もいます。

 他にも東京という地の利を生かし、少量多品目の路地有機野菜で直売やマルシェ、レストランへの出荷を中心とする農家もいます。

 生産者が都合よく売れる売り先の確保がすべてにつながります。レストランや小売店では自分のブランドに自らが値を付けられます。宅配販売では、確実に売れることと規格外も商品になるという利点があります。

 東京の新規就農者が集まっている「東京NEO―FARMERS!」ではスーパーにグループの直売所を持ったり、規格外を売るために食品加工会社と提携。マルシェも開催し、主力品ではなくてもサブ的に売れるものを作ってみるということで苗木の受託販売にも挑戦しています。

 さまざまな企業と組む時もそれぞれの弱点は持っています。そうした所をうまくついて、生産者が都合よく売れる売り場を持つことが大切です。


安定した販売先と農地を紹介し
新規就農者を支援

埼玉産直センター 代表 山口一郎さん

 新規就農者の問題は農地や作業所、資金、販売先の確保をどうするかが課題です。産直センターとしては農家の紹介はしますが、直接研修生の受け入れは行っていません。組合員にアンケートをとったところ、高齢化などで離農する場合、農地を産直センターに預ける意思を示している農家は80%になり、こうした農地を新規就農者に紹介することはできます。

 作業所の確保も大きな問題点です。これからは離農する人の作業所を新規就農者が借りていくスタイルが増えていくのではと考えています。

 種をまいてから収穫までに時間がかかり、その間の資金の融通をしなくてはいけません。ましてや販売先の確保が難しい。その点、産直センターは販売先がしっかりしていて、価格が市場のように乱高下しないシステムになっているので、そこそこの物ができれば生活設計できるようになっています。

 特徴的な新規就農者としては、25歳までフリーターだったAさんは、センターの生産者宅で3年間と農業大学校で1年間研修後、ミニトマト生産者として独立しました。

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埼玉産直センターでは、生産に専念できる環境を作り、若い生産者が定着。写真はミニトマトのパック詰めの様子

 兵庫県出身のEさんは大学院卒業後6年間就職していましたが転勤で埼玉に来て、どうしても農業がやりたいと農業の専門学校に通いながら生産者宅で研修。卒業後は「イチゴを作りたい」とセンターの組合員宅で3年間イチゴ作りの研修をし、規模縮小する組合員からハウスを借りてイチゴを生産しています。

 いろんな人を見ていると何を作りたいかはっきりしている人はうまく進みやすい気がします。また研修先から土地を分けてもらえると、スムーズに独立ができています。

 現状では、センターには行政の紹介などで毎年2〜3人新規就農者が加入しています。農の未来ネットからも希望者の紹介があれば、畑も売り先もあるので研修を受け入れる農家を紹介していきます。

 センターでは約40種類の野菜を作っているので、大体希望に合うものが見つかると思います。

(新聞「農民」2018.7.30付)
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