新聞「農民」
「農民」記事データベース20181015-1331-02

日米FTA

とどまらない暴走
トランプ恫喝外交


 とどまることを知らないトランプ大統領の恫喝(どうかつ)外交。中国政府の幹部は「米国が大規模な制裁を科し、首に刃物を突き付けているような状況で、交渉は進められない」と抗議しています。しかし、安倍首相の「忠犬ポチ外交」は極限に達しています。

 常軌を逸した人間が刃物を

 トランプ大統領は10月1日、ホワイトハウスで記者会見し「交渉しないなら日本車にものすごい関税をかけると言ったら、日本側は『すぐ交渉を始めたい』と言ってきた」と、日米FTA(自由貿易協定)交渉開始の内幕を暴露しました。さらに「巨大な貿易赤字は認められない。もっと米国製品を買い、我々のために尽くさなければならない」と圧力をかけたら、安倍首相は米国製の武器と天然ガスの輸入を拡大することを約束したと手柄を誇っています。

 自動車や鉄鋼の関税引き上げという「刃物」を突き付けて、メキシコやカナダ、韓国、EUを譲歩させたことに味をしめ、「関税は最高だ!」「追加関税がなければこうなってはいなかった」と吹聴するトランプ氏。

 常軌を逸した人間が刃物を振り回す――これほど危険なことはありません。

 手付金は農産物と武器・LNG

 トランプ氏のやり方の特徴は乱暴さに加えて、したたかな計算高さ。まるで「地上げ屋」のようです。

 2年後の大統領再選をねらうトランプ氏は、1カ月後のアメリカ議会中間選挙を前に、手柄稼ぎに懸命です。「トランプファースト」の格好の餌食が「トランペット」(トランプのペット)・アベです。

 「手柄稼ぎ」の第1は、日米FTA交渉入りを約束させたことです。

 トランプ氏は「我々は今日、FTA交渉開始で合意した。これは日本がこれまで様々な事情から拒否していたものだ。必ずや満足のいく結論に達すると思う」とぶち上げました。

農産物自由化・大軍拡
安倍政権の「忠犬ポチ」外交

 一方、安倍首相は「FTA交渉ではない。物品貿易協定(TAG)だ」とゴマカシに必死。しかし、TAGとは「トランプ(T)と安倍(A)のゴマカシ(G)」か、「トランプ(T)が安倍(A)からゴネ得した(G)」ものにすぎません。

 安倍政権は「TPP(環太平洋連携協定)以上に譲ることはない」と弁解していますが、狂気の刃物を突き付けて貿易戦争をしかけているトランプ政権が日本の主張を「尊重」する保証は全くありません。

 それどころか、ライトハイザー通過代表は、TPPを「米国が求める協定とは大きく違う」と批判し、TPP水準を対日要求の「出発点」とすることを公言しています。パーデュー農務長官も「TPP以上」と声をそろえています。

 TPP水準自体が大問題

 そもそも、アメリカ産米の特別輸入枠を7万トン設け、牛肉関税を38・5%から9%に引き下げ、高級豚肉関税をゼロにするなど、最悪の自由化協定であるTPP合意水準まで譲ると一方的に誓約したこと自体が大問題です。

 元・経済産業省米州課長の細川昌彦中部大学特任教授は「『TPPで約束した水準までは引き下げる』と言ったのも同然だ。これからの交渉で関税引き下げが決まるのではあるが、今回、既に“手付金”を払ったと言える。トランプ大統領にとってはありがたいことに違いない」と指摘しているほどです。

 トランプ選挙応援で大軍拡

 「手柄稼ぎ」の第2は、アメリカ製武器と天然ガス(LNG)の輸入倍増と、日本の自動車メーカーの対米進出を約束させたことです。

 安倍首相は首脳会談で「防衛装備品の購入額はオバマ政権の2期目から今、2倍になっているんだ」「ペンシルベニアに自動車工場ができる。日系の工場だ」と、トランプ大統領のご機嫌をうかがい、トランプ大統領は「いい演説の材料ができた」とご満悦だったといいます。

 実際、米政府と直接契約し、米側の言い値で武器を輸入する有償軍事援助(FMS)の契約額は2019年度予算の概算要求で約6900億円と、18年度予算から約2800億円も積み増し。

 日本企業が結んでいる米国のLNG調達契約は19年以降に1000万トンと、17年の10倍近くに急拡大する見通しです。

 「災相」「国難」の安倍政権打倒を

 両方を合計すれば、輸入拡大額は年間1兆円前後。たいへんな貢ぎ物ですが、強欲トランプ氏にとっては、約7兆円に上る対日貿易赤字の解消にはほど遠い。

 そこでトランプ氏がねらっているのは「2年後の大統領選まで自動車関税をレバレッジ(テコ)にし続ける」こと。FTA(TAG)交渉は来年からスタートし、1〜2年は続くといわれています。交渉が難航するたびに、自動車関税を持ち出して脅迫を続ける戦略です。

 自動車業界は自民党の最大のスポンサーであり、アベノミクスの根幹。自動車業界の目先の利益を最優先し、日本の経済主権と農産物市場を差し出すという売国政治は、安倍政治の体質です。

 「しかも、いくら農業を差し出しても、それが自動車への配慮につながることは、実はない。米国の自動車業界にとって日本の牛肉関税が削減されても、米国自動車の利益とは関係ないからである。本当は効果がないのに譲歩だけが永続する」(鈴木宣弘東大教授)。

 台風や大地震など災害が日本列島を襲っていますが、最大の災害は宰相ならぬ災いをもたらす「災相」(小松泰信岡山大学教授)がひきいる安倍政治そのものです。安倍政治こそが最大の「国難」です。

 日米FTA、北方領土の放棄という外交2連敗に続く沖縄県知事選での痛烈な審判という事態に、TPP反対運動のように市民と野党の共同が大きく燃え広がる機運が強まっています。

 憲法改悪と消費税大増税を公言し、売国・亡国の日米FTA交渉にのめりこむ安倍政権を、市民と野党の共同で打倒するときです。

(新聞「農民」2018.10.15付)
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